診察室には、毎日いろいろな患者さんがやってきますが、「ご近所づきあいのストレスでシミができました」という患者さんの言葉は印象的でした。それほどはっきりした表現でなくても、ストレスが高まるとシミが濃くなる気がするとか、シミとストレスを関連づけて話す患者さんはたくさんいらっしゃいます。
皮膚の表皮細胞の中にあって、シミのもとになるメラニンを作るメラノサイトという細胞は、神経に由来しているといわれ、たとえばストレスがシミに影響を与えるというのは、皮膚科医の間でも認知されていることです。患者さんの言葉は確かにそれを裏づけています。
患者さんの話をよく聞いていると、ストレスの中身は大きく二つに分かれるようです。まず、シミがあることのストレス。そして、治らないことへのストレスです。後者については、皮膚科医として特に大きな責任を感じますし、しっかり治してあげたい、といつも強く思っています。日光黒子(老人性色素斑)と思い美白ケアをしても一向によくならず、苦労してもお金をいくら使っても改善しないことで、さらにストレスをためるケースもあります。いざ病院で診察を受けてみると、実は肝斑。トラネキサム酸による治療法がある、ということをそこで初めて知るケースも少なくありません。ふさわしくない治療はストレスや不満を高じさせてしまいますので、自分でいくらケアをしても効果が出ない場合、皮膚科医に相談することは大切です。
治療をしていると、その経過自体が患者さんの精神面に大きく影響していることを実感します。改善された時の喜びはたいへんなものですが、逆に、いつまでも治らない、いつ治るのかわからないといった不満や不安がストレスになり、シミの症状がさらに悪化することがあります。肝斑であるとの診断がつけば、トラネキサム酸を処方し、数週間から2ヵ月で目立たなくなりますと、目安を明確に伝えることができます。「治せます」のひとことが、患者さんのストレスを一気に軽くするようです。
ストレスは女性ホルモンにも影響を与え、肝斑だけでなく、月経不順や他の不調とも関係してきます。多少のストレスは構わないのですが、長びいて、深い悩みや苦悩になってしまわないよう、悩みのタネ自体を解消していくことも、重要なことだと考えています。運動をしたり音楽を聴いて心身のリフレッシュをはかったり、また、誰かに話をじっくり聞いてもらうことも大切です。自分自身や身近な人の忙しさから、グチってもしょうがない、と自制しがちかもしれませんが、話すこと・誰かにじっくり聞いてもらうことは、とても気持ちを楽にしてくれるものです。
私は、診療のとき、患者さんの気持ちを聞くことも重視しています。患者さんとの会話から治療は始まっているのです。
女性たちは、「見た目が悪い」「老けて見える」「化粧だけでは隠せない」など、シミによってさまざまな悩みを抱えています。