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薬に学ぶ

分子標的薬

皮膚障害の原因

分子標的薬がターゲットにする分子は、皮膚組織のなかにも存在するので、薬剤の攻撃を受けてしまいます。その結果、皮膚の正常な新陳代謝が妨げられたり、皮脂や汗の分泌が抑制されて皮膚が乾燥状態になり、皮膚本来の機能がダメージを受けると考えられています。

起こりやすい皮膚障害

分子標的薬で起こる主な皮膚障害は、発疹、ざ瘡様皮疹、乾燥性皮膚炎(乾皮症)、爪囲炎、手足症候群などです。
皮膚障害が出やすい分子標的薬は上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬とマルチキナーゼ阻害薬です。EGFR阻害薬では、ざ瘡様皮疹、爪囲炎、乾燥性皮膚炎が多く、マルチキナーゼ阻害薬では手足症候群が高い頻度で起こります。また、マルチキナーゼ阻害薬ではまれに重症の薬疹である多形紅斑が起こることもあります。
分子標的薬による皮膚障害の発現時期についても、これまでの経験からある程度明らかになっています。 【図5】

図5 皮膚障害の発現時期 山本先生提供

ざ瘡様皮疹

ニキビのような皮疹が、頭部、顔面、前胸部、下腹部、背中などに出現し、のう胞や痒み、ひりひり感、痛みを伴うこともあります。眉毛や鼻翼にも発生します。普通のニキビ(尋常性ざ瘡)は、皮膚表面に棲む細菌の作用で毛穴が詰まって炎症を起こしますが、ざ瘡様皮疹は毛穴に角質が詰まることで起こり、細菌感染はありません。しかし、重症化して細菌感染症を起こすこともあり得ると考えられています。
発現時期には、個人差はあるものの、一定の傾向があります。多くは治療開始から数日で現れ始め、1〜2週間目程度の早期にピークに達し、その後は軽快します。

皮膚乾燥症(乾皮症)

皮膚が乾燥し、白いフケ状のものが付着します。痒みを伴います。進行すると皮膚が硬く厚くなって、ひび割れやあかぎれのような皮疹がみられることもあります。分子標的薬による治療中は、皮膚の角質層の水分保持能力が低下するので、皮膚の乾燥は全身のどの部位でも起こります。
多くは、治療開始から約4〜5週間目に現れ始めます。

皮膚亀裂

皮膚が乾燥して硬くなり、皮膚表面のみぞに沿って亀裂が入ります。
治療開始から約4〜5週間目に現れ始めます。

そう痒症

皮疹のない一見正常にみえる皮膚でも、患者さんは痒みを感じていることがあります。

爪囲炎

爪周囲組織の感染症です。爪のまわりに炎症が起こり、巻き爪のように爪の横の皮膚が腫れて痛む病気です。進行すると亀裂が生じて、肉芽が形成されることもあります。肉芽ができると治癒までに長くかかります。
発現時期は比較的遅く、治療開始から6週間目くらいから起こり始めますが、5〜6か月経過して生じることもあります。

手足症候群

手足症候群は殺細胞性抗がん剤でも起こりますが、分子標的薬による副作用の場合は起こり方が異なります。
分子標的薬による手足症候群の場合、症状の出方としては、物をつかんだり、立ったり歩いたりすることで強い圧力が加わる手のひらや足の裏、かかとなど限られた部位に、紅斑が現れることがほとんどです。軽度の痛みも伴います。原因は、皮膚の角質化の異常とされており、すでに角質が厚くなっている部位で手足症候群が起こりやすいといわれています。
悪化すると皮膚が角化し、亀裂や水ぶくれが生じ、強い痛みを伴います。歩行が困難になることも少なくありません。
また、殺細胞性抗がん剤では症状はゆっくりと現れますが、分子標的薬の場合、症状は突然起こります。マルチキナーゼ阻害薬による手足症候群は7割の人が治療開始後2〜3週間目に現れて、その後急激に進行し、6〜9週間目までみられます。

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