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症例から学ぶ

症例から学ぶ

福島県立医科大学 皮膚科学講座 教授 山本 俊幸 先生

ここでは、主に分子標的薬で現れやすい代表的な皮膚障害について、症例を交えて解説していきます。
皮膚乾燥、ざ瘡様皮疹、爪囲炎はとくに上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬で出現し、手足症候群は殺細胞障害性抗がん剤や分子標的薬(特にマルチキナーゼ阻害薬)で生じやすい皮膚障害です。
EGFRは正常皮膚において表皮基底層や毛根、汗腺、皮脂腺などにも発現し、皮膚の増殖や分化に重要な役割を果たしています。その作用が障害されると高率に皮膚障害を生じるため、EGFR阻害薬では何らかの皮膚障害がほぼ必発です。

皮膚の乾燥

原因

EGFR阻害薬が皮膚に直接作用することで、表皮の萎縮と角化異常が起こります。その結果、角層の皮膚バリア機能が低下し、さらに汗腺機能の低下と皮脂減少により、皮膚の乾燥が引き起こされます。
軽症では細菌感染のない無菌性膿疱ですが、二次的な細菌感染が見られることもあります。

発現時期

多くは治療開始後1〜2か月頃から始まり、長期間続きます。

外見的特徴と自覚症状

軽症の場合はわずかな乾燥と白く細かい粉がふいたような鱗屑が見られます。進行すると、さざ波様の鱗屑を伴うようになり、乾皮症と呼ばれる状態になります。【写真1、2】

  • 写真1

    写真1 皮膚の乾燥

  • 写真2

    写真2 皮膚の乾燥

人間の体で皮膚がもっとも乾燥する場所は下肢ですが、EGFR阻害薬による皮膚乾燥は体幹へも広がるという特徴があります。
患者さんは痒みを訴えます。10月から3月頃の空気の乾燥する時期に重なると、より一層肌の乾燥が進み、痒みも強まります。

対処法・指導

皮膚の乾燥だけであれば保湿剤の外用で対処できますが、そこに炎症が加わった場合はステロイド外用薬が必要になります。
皮膚の乾燥を予防するために保湿クリームの塗布が勧められます。
皮膚乾燥の重症度は、皮膚障害の面積と自覚症状の強さをもとに判定されます。皮疹の面積が全身皮膚の30%を超えていても、自覚症状がなければ重症度分類のGrade 1と評価します。しかし、痒みによる睡眠障害や手足の亀裂による痛みなどで日常生活に支障が生じた場合はGrade 3と評価され、抗がん剤の休薬や減量が必要になることもあります。

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