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皮膚に学ぶ

がん薬物治療によって起こる皮膚障害

殺細胞性抗がん剤は、がん細胞のような細胞分裂の活発な細胞に対して作用します。しかし、がん細胞と正常細胞を区別できないため、細胞分裂の比較的活発な皮膚の正常細胞にもダメージを与えてしまいます。そのため皮膚障害が起こります。
また、薬剤に含まれる添加物などによるアレルギー反応が原因で皮膚障害が起こるケースもあります。

一方、分子標的薬は、がん細胞の増殖や分化、転移にかかわる特定の分子をターゲットにしてピンポイントに作用します。標的になる分子はがん細胞だけではなく、正常な皮膚や爪、毛包、汗腺、皮脂腺などにも存在していますので、これらの組織もダメージを受け、従来の殺細胞性抗がん剤ではみられなかったような皮膚症状が現れることがあります。つまり、分子標的薬による皮膚障害は薬理作用そのものによって起こる副作用ということができます。

ここで重要なのは、分子標的薬の場合、皮膚症状が現れるということは抗腫瘍効果も高いという証拠だということです。皮膚障害は治療効果を予測するバロメーターでもあるのです。
分子標的薬による皮膚障害は、薬剤の種類によって異なりますが、上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor;EGFR)阻害薬で約90%、マルチキナーゼ阻害薬で約60%に起こるといわれています。

従来の殺細胞性抗がん剤では、皮膚症状が出たら薬を中止するというのが基本的な考え方でした。しかし、分子標的薬ではこの考え方は当てはまりません。皮膚症状が強いのは薬が効いている証拠なので、支持療法(サポーティブケア)によって皮膚症状の悪化をなんとか防ぎながら治療を続けるのが目標になります。

分子標的薬による治療では、皮膚障害はほぼすべての患者さんに起こると考えてマネジメントする必要があるでしょう。

また、免疫チェックポイント阻害薬はがん細胞などが免疫にブレーキをかけるのを防いで、体内にもともとある免疫細胞の活性化を持続する薬剤です。免疫チェックポイント阻害薬でも皮膚障害は高頻度に起こります。ただし、皮膚の色が白く抜ける白斑を除いては特有の皮膚障害は少なく、殺細胞性抗がん剤でみられた皮疹などの副作用がさまざまな形で現れます。

抗がん剤によってダメージを受けた
皮膚の状態

殺細胞性抗がん剤は細胞分裂のスピードの速い細胞に強く作用するので、皮膚のなかで最も新陳代謝の盛んな表皮の基底細胞にも作用し、ダメージを与えます。その結果、正常な新陳代謝(ターンオーバー)が妨げられるため、皮膚の再生能力が低下し、表皮が薄くなってしまいます。また、皮脂腺や汗腺の働きも悪くなり、皮膚の潤いがなくなって乾燥し、外部からの刺激や細菌に対する表皮のバリア機能が失われます。【図3】
こうして皮膚は乾燥してフケのような落屑となってはがれ落ちたり、亀裂が入ったりします。
抗がん剤はメラノサイトにも作用し、メラニン色素の合成が増え、色素沈着による黒ずみなどが起こります。

図2 正常な皮膚とダメージを受けた皮膚の状態

一方、分子標的薬の代表格であるEGFR阻害薬はまた違ったメカニズムで皮膚の乾燥やバリア機能の低下をもたらします。【図4】

図3 EGFR阻害薬による皮膚の変化 日本がんサポーティブケア学会編:がん薬物療法に伴う皮膚障害アトラス&マネジメント,東京:金原出版,2018;p41

EGFR阻害薬は、がん細胞の増殖に関連するEGFRという分子をターゲットにする薬剤です。
ところが、EGFRは正常な表皮の角化細胞や皮脂腺、汗腺などの基底細胞にも発現しており正常な表皮の維持に関与しています。そのためEGFRが阻害されることで、表皮が萎縮するとともに、ターンオーバーが遅くなり、バリア機能が低下します。

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