胃の不調・不快感の原因は?
2026.7.10 更新
胃痛、胸焼け、胃もたれ、胃の膨満感、胃部不快感など、胃の不調は多くの人が経験する身近な症状です。不調の背後にある胃の病気も時代とともに様変わりし、近年は「胃潰瘍」や「胃がん」などの病気が減る一方で、「逆流性食道炎」や「機能性ディスペプシア」といった病気が増えています。胃の不調とその原因、改善のためのセルフケアと治療など、胃を健やかに保つ情報を紹介します。
胃の不調は、胃痛や胸焼け、胃もたれ、胃の膨満感、胃部不快感など多岐にわたります。また「キリキリ痛む」「シクシク痛む」「チクチク痛む」「キューッと痛む」など、痛みの感じ方も様々です。川西市立総合医療センター総長の三輪洋人先生は、「胃の3つの生理機能のどれに異常があるかを突き止め、診断と治療に当たる」と話します。3つの生理機能とは「胃酸の分泌」「胃の運動」「胃の知覚(感じ方)」で、これらに変調をきたしたときに胃の不調が現れるといいます。
日本人に多い胃の病気といえば、かつては「胃潰瘍」と「胃がん」が代表的でしたが、原因となるピロリ菌感染の減少に伴い患者数が減っています。代わりに増えているのが、胃酸が逆流して胸焼けを起こす「逆流性食道炎」と、胃に異常は見られないのにみぞおちの痛みや胃もたれなどが起こる「機能性ディスペプシア」で、新国民病ともいわれています。
症状を改善するには、胃酸を抑える胃酸分泌抑制薬や胃の運動をよくする消化管運動機能改善薬などで治療をすると同時に、生活習慣に気を付けることが重要。
また同時に、暴飲暴食や早食いをやめる、高脂肪食を控える、規則正しい食事などを心がけ、原因を取り払うことも大切です。胃は自律神経との関係が深いので、ストレス対策も欠かせません。

ストレスで胃が痛い、食後にムカムカする、胃がもたれる…。そんな経験をしたことのある人は多いのではないでしょうか。胃痛、胸焼け、胃もたれ、胃の膨満感、食欲不振、胃部不快感…と、胃の症状は多岐にわたります。また、訴え方も実に様々で、胃痛と一口に言っても、「キリキリ痛む」と表現する場合もあれば、「シクシク痛む」「チクチク痛む」「キューッと痛む」と訴える人もいます。
このような多種多様な訴えから症状の原因がわかるのでしょうか。消化器内科学が専門で胃の不調に詳しい川西市立総合医療センター総長の三輪洋人先生は次のように話します。
「症状は人によって感じ方が異なります。例えば、同じ不調があっても、ある人は“胃の痛み”と感じ、別の人は“胃の膨満感”や“胃の不快感”と感じるかもしれません。また、胃酸が逆流することで起こる胸焼けは、一般に“前胸部”つまりみぞおちの上に灼熱感を感じるものですが、患者さんに『どのあたりがムカムカしますか』と尋ねると、おへそのあたりを指し示す場合も少なくないのです。
つまり、患者さんの訴えは重要ですが、それだけで不調の原因はわかりません。そのため、医師は『睡眠不足はないですか』『ストレスになる出来事はありませんでしたか』などの質問をし、胃の生理機能のどこに問題があるのか、推理小説の犯人捜しのように原因を突き止めていくわけです」
三輪先生によると、胃の生理機能には大きく「胃酸の分泌」「胃の運動」「胃の知覚(感じ方)」の3つがあるといいます。

胃酸は、胃から分泌される塩酸が主成分です。胃壁の細胞から分泌される強酸性(pH1〜2)の消化液で、食べ物を溶かす“消化”に加え、口から入った細菌を“殺菌”する働きも担っています。胃酸が少なければ消化が不十分になり、逆に多過ぎると胃の粘膜がダメージを受けて胃痛や胸焼けなどを引き起こします。
実は胃は筋肉でできており、その運動(蠕動運動:ぜんどううんどう)により食べ物は胃液と混ぜ合わせられ、粥状になるまで消化されます。その間、胃の入り口(噴門)は食べ物が食道に逆流しないように締まり、ある程度消化が進むと、筋肉が上から下に向かって波打つように収縮して胃の出口(幽門)から消化物が十二指腸へと送り出されていきます。こうした胃の運動が不十分な場合、食べたものが十分に粥状にならずに胃の中に残留して消化不良を起こします。その結果、胃もたれが生じやすくなるのです。
「胃が痛い」「胃が重い」などと感じる感覚を胃の知覚といいます。この知覚が過敏になると、ごく当たり前の胃の動きや胃酸の刺激でも、「痛い」「不快」などと感じます。これを「胃の知覚過敏」といいます。知覚過敏があると、胃の働き具合や食べた量にかかわらず、症状が出やすくなります。なお、「年齢とともに知覚は低下するため、知覚過敏は若い人に多く見られる傾向があります」(三輪先生)
では、最近はどのような不調が多いのでしょうか。「近年は胃酸過多による胸焼けなどの症状が増えており、特に若い世代で顕著です」と三輪先生。その背景にあるのが、ヘリコバクター・ピロリ(以下、ピロリ菌)感染率の減少です。
ピロリ菌は胃の中に住みつく細菌で、胃粘膜に慢性的な炎症を起こして粘膜を萎縮させ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんなどの原因になります。
「上下水道の整備など、衛生環境の改善に伴い、ピロリ菌の感染率が激減しました。1950年生まれの日本人のピロリ菌感染率は約60%でしたが、1980年生まれの人は約25%、2000年生まれの人は約7%へと大幅に低下しています※1。日本では胃がんの原因のほとんどがピロリ菌感染だったため、感染率の減少とともに、胃がんの前段階である胃炎が減少したのです。その結果、胃潰瘍や胃がんが減少しました。
ところがその影響で増えているのが、胸焼けなど胃酸過多による症状です。
実はピロリ菌は胃粘膜に炎症を起こすことで胃酸の分泌を抑えていました。ピロリ菌感染の減少やピロリ菌の除菌治療の普及で胃酸分泌が抑制されなくなったわけです。さらに、肉や魚、卵、乳製品などの動物性たんぱく質や脂肪の摂取量が増えたことでそれらを消化するために消化液の分泌量が増加することにもなりました」(三輪先生)

ピロリ菌感染率の低下による疾病構造の変化で増えてきたのが「逆流性食道炎」と「機能性ディスペプシア」です。
胃酸を含む胃の内容物が胃から食道に逆流することで、食道の粘膜を刺激したり炎症を起こしたりする病気です。有病率は10%程度と推定されています※2。
典型的な症状は
また、胃酸がのどまで逆流すると、のどの違和感や声のかすれ、長引く咳といった症状が現われることもあります。

なぜ逆流が起こるのでしょうか。本来、胃と食道の間には下部食道括約筋という筋肉の弁があり、胃の内容物の逆流を防いでいます。ところが、食べ過ぎなどで胃の内圧が上昇したり、肥満などで腹圧が上がったりすると、弁の働きが低下し、逆流を起こしやすくなります。また胃酸の分泌量が多すぎたり、胃の動きが悪かったりする場合も、逆流しやすくなります。
「逆流性食道炎はぽっちゃり体型でお腹が出て、過食の男性に多く見られる傾向にあります。近年は特に若い人でも増えています。中学生で『ムカムカする』とか『すっぱいものが上がって来る』などと、胸焼けの症状を訴える患者さんもいるほどです。
一方、やせていて飲酒も喫煙もせず、逆流も炎症もそれほど強くないのに症状が出ることもあります。このタイプはストレスに敏感な女性に多いようです」(三輪先生)

過剰な胃酸を抑える胃酸分泌抑制薬で治療します。代表的なものが「プロトンポンプ阻害薬(以下、PPI)」、「カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(以下、PCAB)」、「H2受容体拮抗薬(以下、H2ブロッカー)」です。
「このうち医療機関での逆流性食道炎治療の第一選択薬はPPIです。胃壁の細胞で胃酸を分泌するための『プロトンポンプ』の働きを阻害し、胃酸を強力に抑えます。胃酸の酸度を下げるため、逆流しても症状が出にくくなります。
PCABは比較的新しい薬で、カリウムイオンと競合することでプロトンポンプを抑制します。PPIより効果が強いとされ、最近は逆流性食道炎に処方することが増えています。
ただし、逆流性食道炎の治療では、薬に頼るだけでなく、生活習慣の改善も非常に重要です」と三輪先生は強調します。
生活習慣では、以下の点に気を付けて逆流を防ぎましょう。
内視鏡検査をしても炎症や潰瘍、がんなどの病気が見当たらないのに、胃痛や胃もたれなどの不快な症状が慢性的に続いている…。そんな病態が「機能性ディスペプシア(FD)」です。ディスペプシアとは「消化不良」を意味する言葉です。2013年に保険診療の対象になった比較的新しい病気です。
典型的な症状は
これらの症状のいずれかが、週に2~3回以上起こり、それが1カ月以上続く場合、機能性ディスペプシアが疑われます。
なお、みぞおちの痛みや灼熱感は胃酸分泌過多や知覚過敏が、胃もたれは胃の運動低下が、早期満腹感は胃の上部が十分に膨らまないことが原因と考えられます。

有病率は、健診受診者を対象にした調査では11~17%、また病院受診者を対象にした調査では上腹部に何らかの症状があると訴えた患者の45~53%と報告されています※3。受診者の約半数がこの病気と診断されたというのですから、いかに多い病気かがわかります。
「機能性ディスペプシアは逆流性食道炎と並び、近年患者数が増加している病気で、新たな国民病といえます」と三輪先生。
どんな人がなりやすいのでしょうか。
「胃の働きは自律神経と深く関わっており、ストレスや睡眠不足があると、機能が低下します。不安を感じやすい人や几帳面な人、朝食抜きなどで食生活が不規則な人などは注意が必要です。また幼少期に過度なストレスを受けた経験があったり、重症の感染性胃腸炎にかかったりした人も機能性ディスペプシアになりやすいことがわかっています。心身の強いストレスが発症のきっかけになると考えられます」(三輪先生)
ちなみに、第一三共ヘルスケアが2025年9月、1年以内に胃痛経験がある20~60代の働く男女800人を対象に行ったアンケートでは、胃痛の原因のトップは「ストレス」、続いて「食生活」、「睡眠不足」、「過労」という順でした。また「ストレスが原因で胃が痛くなった」と感じたことのある人は85.6%にも上りました。胃とストレスは切っても切り離せない関係にあるといえます。

慢性的に胃の調子が良くないと、仕事や勉強など生活の質に影響します。症状を改善するには、薬物治療と生活の見直しが重要です。
医療機関での薬物治療では、胃の運動を良くする消化管運動機能改善薬の「アコチアミド(コリンエステラーゼ阻害薬)」が第一選択薬で、胃もたれや早期満腹感の改善に効果があります。漢方薬の「六君子湯」も第一選択薬の一つで、胃の運動機能の改善効果があります。また、胃酸分泌を抑える目的で、PPIやH2ブロッカーなども処方されます。不安が強い場合は、抗不安薬や抗うつ薬を併用することもあります。
毎日の生活では次のことに気を付けましょう。
細菌やウイルス、寄生虫などの病原体に感染して起こる病気です。吐き気や嘔吐、胃痛、腹痛、下痢、発熱などの症状が現われます。ノロウイルスやカンピロバクター、アニサキスなどの感染がよく知られています。
ノロウイルス感染症は、ノロウイルスに汚染された牡蠣などの二枚貝、感染者の吐瀉物や糞便などから感染します。潜伏期間は1~2日で、冬場に多く見られます。安静にし、こまめな水分補給を行いながら回復を待ちます。脱水が激しい場合には、点滴で水分や栄養を補給することもあります。
カンピロバクター感染症は、加熱が不十分な鶏肉やレバーなどを食べることで感染します。潜伏期間は2~5日間。ノロウイルス感染症と同じく、安静にしてこまめな水分補給を行いながら回復を待ちます。重症の場合は抗菌薬が投与されることもあります。
アニサキス症は、アニサキス幼虫が寄生したサバやアジ、鮭、イカなどの魚介類を生で食べることで感染します。潜伏期間は1時間~数日で、アニサキス幼虫が胃壁にもぐり込むと、激しいみぞおちの痛みや吐き気を引き起こします。
「疑わしい症状があれば、早く医療機関を受診してください。内視鏡で胃の中を診ながら、アニサキス幼虫を摘出します。どの感染性胃腸炎にも言えますが、胃の不調に加え発熱や嘔吐がある場合は医療機関の受診をおすすめします」(三輪先生)

胃酸や消化酵素で胃の粘膜がダメージを受け、胃壁の筋層まで深く傷ついて欠損を生じた病態が、「胃潰瘍」です。ピロリ菌に感染すると胃粘膜に炎症が起こり、胃を守る粘液の分泌が減るため、胃潰瘍を発症しやすくなります。
代表的な症状は、お腹の上やみぞおちのあたりの痛み、吐き気、嘔吐などです。出血すると、胃酸で血液が黒く変色するため、タール便と言われる黒い便が出ることがあります。出血が大量の場合は吐血することもあります。
「ピロリ菌感染者の減少や、ピロリ菌の除菌治療に伴い胃潰瘍は以前に比べ格段に減りました。一方で増えているのが、解熱鎮痛薬のNSAIDs(エヌセイズ、非ステロイド性抗炎症薬)の服用による薬剤性胃潰瘍です。胃の痛みを抑えるために鎮痛薬を飲むのは禁物です。痛みが増し悪循環に陥ることもあるので要注意です」と三輪先生は話します。
胃潰瘍の最大のリスクは、ピロリ菌の感染です。ピロリ菌に感染しているかどうか知らない場合は、ピロリ菌検査を受けましょう。吐いた息で調べる「尿素呼気検査」や血液中の抗体を調べる検査、便中の抗原を調べる検査などがあります。
「検査で陽性とわかった場合は除菌治療を行うことができます。服用するのは、胃酸を抑えるPPIやPCABと2種類の抗菌薬(抗生物質)で、ほとんどの場合は1週間の服用で除菌が終了します」と三輪先生。
日本人の胃がんの最大の原因はピロリ菌感染です。胃粘膜に住みついたピロリ菌が毒素を作り、それが粘膜の細胞を破壊して慢性的な炎症を引き起こします。その結果、胃粘膜の萎縮が進み、がんができやすい状態に変わります。また、食塩の多い食事を摂っていると、男性の胃がんリスクが高まることもわかっています※4。胃がんは早期の段階ではほとんど症状がなく、進行すると痛みや吐き気、体重減少、黒っぽい血便、貧血によるめまいやふらつきなどが出てきます。
「症状が出てきてからでは遅いので、症状のないうちから定期的に検診を受け、早期発見に努めることが大切です。また、ピロリ菌検査とピロリ菌の除菌治療も大切です。除菌治療は早ければ早いほど、将来胃がんになるリスクが下がるので、できれば30代までに検査を受けることをおすすめします」(三輪先生)
胃の不調を予防、軽減するには、薬物治療だけでなく生活習慣の改善も大切です。胃を健やかに保つためにも、暴飲暴食、過食を避け、規則正しい食生活を心がけましょう。