健康寿命を延ばすため、筋肉量を保って関節の可動域を広げよう
2025.6.30 更新
いくつになっても軽快に動き、アクティブな毎日を送る―。そんな「しっかり動ける、しなやかなからだづくり」のために重要なのが、筋肉です。筋肉量は加齢とともに減少しますが、適切な運動を行なえば何歳になっても維持することが可能と言われています。そもそも筋肉にはどんな役割があるのか、筋肉を良い状態に保ち健やかな日常生活を過ごすにはどうすれば良いのでしょうか。これからの筋肉づくりに欠かせない、人生を豊かにする「コンディショニング」について紹介します。
「コンディショニング」というとスポーツ選手の話と捉えがちですが、「実はすべての人が身体機能を高め、ライフパフォーマンスを向上させるために欠かせないもの」と、早稲田大学の金岡恒治先生は話します。ライフパフォーマンスとは、それぞれのライフステージにおいて、その人が持つ最高の能力を発揮すること。病気の予防や健康長寿にもつながると考えられています。
コンディショニングの3本柱は、「心(メンタル)・技(スキル)・体(フィジカル)」。これらがバランスよく整うことで、最大限のパフォーマンスを発揮することが可能になります。中でも技(スキル)は筋肉を正しく使うために、まず身につけておくべき要素だといいます。
筋肉は、体づくりから健康寿命にまで関わることがわかっており、その働きは多岐にわたります。体を動かすために必要なのはもちろんのこと、基礎代謝を上げる、エネルギーを蓄える、健康に良い作用を及ぼす「マイオカイン」という生理活性物質を分泌する、骨や関節を守るなどの役割があります。
筋肉は量だけでなく、質も重要です。京都大学大学院の青山朋樹先生によると、「よい筋肉とは、柔軟性のある筋肉」とのこと。
前屈をして手が床に着かない人は要注意です。筋肉は20歳を過ぎると、徐々に減り始めます。また運動不足や座ったままの時間が長いなどの不活動(身体活動の不足や過度な安静によって、心身の機能が低下した状態)によっても筋肉は柔軟性が低下してこわばったり、衰えたりします。筋肉を維持するには、適切な運動を持続して行うことがとても重要です。筋肉や関節を健やかに保つコンディショニングを始めましょう。
「コンディショニング」というとスポーツ選手のトレーニングを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。もともとアスリートがベストなパフォーマンスを発揮できるよう、心身の状態を整えておくという意味合いで使われていた言葉ですが、実はコンディショニングはアスリートだけでなく、すべての人が身体機能を高めて健康的な毎日を送るためにも欠かせないものだといいます。オリンピックのチームドクターも務めた早稲田大学教授の金岡恒治先生は次のように話します。
「アスリートがパフォーマンスを発揮することと、一般の人が運動をして身体機能を高めることは別物だと考えがちですが、実はそうではありません。アスリートはトレーニングによって身体機能を高め、競技レベルでの高いパフォーマンス向上に役立ち、一般の人が運動によって身体機能を高めることは、日常生活レベルのライフパフォーマンスの向上に役立ちます。ライフパフォーマンスとは、年齢や性別に関わらず、それぞれのライフステージにおいて、その人が持つ最高の能力を発揮できることをいいます。ライフパフォーマンスを引き上げることで、仕事や勉強の生産性(パフォーマンス)が上がったり、生活を快適に送ることができたり、さらには健康寿命を延ばしたりすることができるのです」
下の図は、身体機能とパフォーマンスの関係を示したものです。日常生活でのライフパフォーマンスは、身体機能とパフォーマンスの程度に差はあるものの、競技レベルのハイパフォーマンスとつながっていることがわかります。
ライフパフォーマンスが高く維持されていれば日常生活を快適に送ることができるだけでなく、病気や障害の予防にもつながるのです。逆に筋肉量の低下などでライフパフォーマンスが低下すれば、サルコペニア(注1)やフレイル(注2)などで日常生活を送ることが難しくなり、医療や介護の助けが必要になってきます。つまりいくつになっても健やかに過ごすためは、いかにライフパフォーマンスを維持・向上させるかが重要になるわけです。
そこで大切なのが、筋肉をはじめとした身体機能を良い状態に保つコンディショニングです。金岡先生によると、コンディショニングには大きく3つのポイントがあるといいます。
「相撲などで“心・技・体”という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。心と技と体の3つがバランスよく整って初めて最大限の力を発揮できるというもので、これはまさしくコンディショニングの基本です。“心”はメンタルの状態を、“技”はスキルとしての体の使い方を、“体”は筋肉や関節や骨の機能、さらには心肺機能といったフィジカル面を表しています」
コンディショニングとは、心(メンタル)・技(スキル)・体(フィジカル)の3つの要素を整えることで、パフォーマンスの向上、不調の予防や改善を図ること。
金岡先生は、この中で意外と見落とされがちなのが「技」だといいます。例えば、健康にいいからと1日1万歩を目指して歩いてみたものの、腰や膝が痛くなって挫折したという人もいるのではないでしょうか。これは歩くときに体をうまく使えていない、つまり正しく筋肉を使う技(スキル)を持っていないために、体(フィジカル)のトレーニングをしても腰や膝に過度な負担がかかった結果、痛みが生じるのです。そうした状態では、筋肉などのフィジカル面の強化も難しくなり、「心・技・体」が低下した状態になってしまうというわけです。
「筋トレや有酸素運動などで筋力や柔軟性、持久力などのフィジカル面を強化することはもちろん重要ですが、その前にまずは体の上手な使い方を覚えることが大切です。正しく筋肉を使えるようになると、運動の効果が得られやすく、また痛みやケガなどのリスクも低下します。さらに体を動かすこと自体が楽しくなり、“心・技・体”が整いやすくなります。実際、地域住民に正しい体の使い方を指導することで、腰痛改善や仕事の生産性アップが認められた事例もあります」と金岡先生は話します。
ここでは、コンディショニングの「心技体」の中でも重要な技(スキル)を中心に解説します。
注1:サルコペニアとは、加齢による伴って筋肉が衰えた状態のこと。
注2:フレイルとは、介護に至る危険性が高い「虚弱」な状態のこと。
人生100年時代といわれる中、ライフパフォーマンスや生活の質(QOL:Quality of Life)を高めるには「動ける体」を維持することが大切です。そのためにも、まずは現在の筋肉の状態をチェックしておきましょう。ここでは、「握力」、「片足立ち」、「体組成計を用いた方法」の3つを紹介します。
○握力
「握力は物を握ったりするときの手の力ですが、実は全身の筋力の状態を表していることが多くの研究から明らかになっています※1。瓶のふたを開けたり、お菓子の袋を開けたりすることが難しくなってきたら、握力だけでなく、全身の筋力が落ちてきているサインです」と、医師でリハビリテーションが専門の京都大学大学院医学研究科人間健康科学専攻の青山朋樹先生は話します。
○片足立ち
「片足立ちは、脚の筋力やバランス機能を知る指標になります。筋肉をうまく使えているかどうかを確認する方法にもなります」と金岡先生。
片足でどのくらい立っていることができますか?目を開けた状態で、両手を楽に下げ、片脚を前方に5cmほど上げて、時間を測ってみましょう。30秒以下の場合は、転倒リスクが高いとみなされます※2。片足立ち時間は一般に年齢とともに短くなっていきますが、50代以降では、特に利き足でない方の片足で30秒間立てるかどうかが、老化を反映する重要な指標になるとの報告もあります※3。
○体組成計を使う
体重だけでなく、体脂肪率や骨格筋(筋肉)率などもわかる体組成計がご自宅にある方は、その数値も参考にできます。体重のうち筋肉がどのくらいを占めているかを示すのが、骨格筋率です。
「ダイエットをするとき、脂肪だけでなく筋肉まで減らしてしまうケースが少なくありません。上手なダイエットは、脂肪を減らしつつも筋肉は落とさないこと。体組成計を上手に使い、筋肉量をチェックしながらすることをお勧めします」(青山先生)
動ける体をつくり、健康寿命のカギともなる筋肉。そもそも筋肉にはどんな役割があるでしょうか。代表的なものを紹介しましょう。
歩く、走る、立つ、座る、姿勢を保持するなど、筋肉が伸びたり縮んだりすることで、いろいろな動作が可能になります。
内臓や骨、血管などを外部の衝撃から守っています。
筋肉が動くときには熱が発生し、代謝が上がります。筋肉の量が多くなると基礎代謝が高まり、太りにくい体になります。
筋肉が収縮すると静脈が圧迫され、血液が押し上げられます。これを「筋ポンプ作用」といいます。特に脚の静脈の血流が促されると、むくみなどが改善します。「むくみの多い方の中には脚の筋活動が低いことが原因になっていることがあり、脚の静脈の血流が改善するとむくみの改善につながることがあります」(青山先生)
筋肉は糖を貯蔵する最大の臓器でもあります。食事から摂取したブドウ糖は、グリコーゲンとして筋肉に蓄えられ、運動時にエネルギーとして使われます。筋肉量が少ないと糖を十分に取り込めず、血糖値が上がりやすくなります。筋肉の少ない痩せた女性では、食後高血糖となる耐糖能異常が多いとの報告もあります※4。
運動をすると筋肉から「マイオカイン」と呼ばれる生理活性物質が分泌されます。このマイオカインは筋肉の合成や修復、糖や脂質代謝の促進、認知機能の改善など、全身に様々な良い作用を及ぼすことが明らかになっています。
筋肉は水分の75%を蓄える最大の“貯水器官”。そのため、筋肉量が少ないと、脱水が起きやすくなり、熱中症になるリスクも高まります。
筋肉が動くと骨に物理的な刺激が伝わり、骨の強化を促します。また筋肉から分泌されるインターロイキン-6などのマイオカインにも骨を強くする働きがあります。
筋肉には、コルセットのように関節を固定するだけでなく、保温作用によって関節を守る働きもあります。
「実は関節内は体の中で一番温度の低い場所です。というのは、関節内には血流がないため、温度が上がりにくいからです。筋肉を動かすと熱が発生し、その近くにある関節内の温度も上がるため、関節の動きが良くなったり、痛みなども起こりにくくなったりします」と青山先生。
無理なく体を動かすには、筋肉の量だけでなく、質も重要です。良い筋肉とはどのような状態を指すのでしょうか。
「一言でいうと、柔軟性です。いくら筋肉隆々でも、筋肉が硬いとパフォーマンスはあまり上がりませんし、ケガをしやすくなります。筋肉は筋線維が集まってできており、さらに筋線維の間には筋間線維があります。また、筋肉全体は筋膜という膜に包まれており、柔軟性が高いほどこれらの線維や膜が柔らかくスムーズに動きます。自分にどのくらい柔軟性があるか、試しに前屈をしてみてください。もし手指の先が床につかないなら、危険信号です。前屈のストレッチを続けて、柔軟性を向上させましょう」(青山先生)
筋肉は「筋原線維」が集まった「筋線維」がさらに集まり「筋束」という束を作り、それが集まってできている。筋線維や筋束、筋肉はそれぞれ筋膜に包まれている。
柔軟性は健康維持の面でも注目されています。中高年を対象に柔軟性と生命予後の関係を調べた研究では、柔軟性が低い人は高い人に比べて死亡リスクが高く、特に女性では4.8倍も高かったとの報告もあります※5。
また、質が良くない筋肉として挙げられるのが、脂肪が蓄積した「脂肪筋」です。
「食べ過ぎや運動不足が原因で脂質代謝が悪くなり、もともと筋肉になるはずの細胞が脂肪に変わってしまった状態のこと。いわば霜降り状態の筋肉です。こうなると、筋肉が本来持つ力を十分発揮できなくなります」(青山先生)
それどころか、約9,000人を追跡した研究では、脂肪筋だと心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)にかかるリスクが約4倍、死亡リスクも約2倍になるという結果も出ています※6。
体のコンディショニングでは、筋肉を減らさないことも大切です。筋肉は加齢とともに減っていきます。特に下肢の筋肉の衰えは早く、20歳を過ぎると徐々に減り始めると報告されています※7。筋肉量が減って、筋力や身体機能が低下すると、転倒や骨折、そして要介護になるリスクも高くなります。このような状態は「サルコペニア」と呼ばれ、超高齢社会の中、大きな問題になっています。
「筋肉量の低下は高齢者だけの問題ではありません。若い人でも不活動や栄養不足が続くとサルコペニアになる可能性があります。筋肉は使わないと、どんどん衰えていきます。若いアスリートでも、不活動の状態が1週間も続くと、取り戻すのにその倍くらいの時間がかかるといわれています。筋肉は使ってこそ、その機能を維持できるのです」と青山先生。
コロナ禍を機にテレワークが普及しましたが、青山先生によるとそれによって健康面での「負け組」と「勝ち組」がくっきり分かれてきているそうです。
「自宅で長時間パソコン作業をしたり、座りっぱなしだったりする時間が長くなり、肩こりや腰痛、膝痛、疲れやすさなどの不調を訴える人が増えています。その一方で、テレワークをしながら自主的にストレッチをしたり、通勤時間がなくなったことで浮いた時間をエクササイズに当てたりするなど、これまでよりも体調がいいと喜んでいる人たちもいます。まさに自らコンディショニングを行なうことで、健康管理をしているわけです。多様な働き方が浸透しているいまこそ、適切なコンディショニングで、“勝ち組”を目指してください」と青山先生はエールを送ります。
筋肉の衰えを防ぎ、加齢に負けない筋肉をつけるには、適切な運動が大切です。しかし日ごろ運動をしない人が急に運動を始めると、ケガや不調にもつながりかねません。筋肉や関節を健やかに保ちながら運動するには、冒頭で紹介した“心・技・体”のコンディショニングが大いに役立ちます。後編では、コンディショニングの具体的な実践法を紹介します。
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