肩こり、腰痛、腱鞘炎……原因は心身の「ストレス」、セルフケアで改善を

つらい体の痛み、症状の原因は?

2023.4.28 更新

日々の暮らしの中で、肩や腰、肘や手首などの「痛み」を感じることは少なくありません。またこれからの人生100年時代、年齢やライフスタイルにより、さまざまな筋肉や関節などの痛みも起こってきます。不快な症状ばかりでなく、QOL(生活の質)も低下させるこうした痛みがなぜ起こるのかを知り、予防する術を身につけましょう。

肩こり、腰痛は国民病? 多くの日本人が抱える筋肉の痛み

日常生活の中で感じる痛みの代表ともいえるのが、肩の痛みや腰痛です。日本リカバリー協会が2022年6月に全国の10万人(男女各5万人)を対象に行なった健康調査では、男性の67.0%、女性の78.1%が首筋や肩のこりを抱えていました。

また、厚生労働省の「2019年国民生活基礎調査」では、男性の「自覚症状」の第1位は腰痛、第2位は肩こり、女性の「自覚症状」の第1位は肩こり、第2位は腰痛で、腰痛と肩こりが男女ともに自覚症状のトップ2になっていました。
さらに、自覚症状トップ5の中には、手足の関節の痛み(女性の第3位、男性の第5位)も入っており、筋肉や関節の痛みが大きな健康上の悩みになっていることがわかります。

今や、肩こりや腰痛は日本人の「国民病」ともいえる状況です。

男女別 体に感じる痛みランキング

肩こり、腰痛の大きな原因は心身の「ストレス」

肩こりや腰痛はなぜ起こるのでしょうか。
多くの肩こりや腰痛の治療を行う竹谷内医院院長の竹谷内康修先生は「原因は人によってさまざまですが、多くは肉体的ストレスや精神的ストレスです」と話します。

肉体的ストレスの代表が、悪い姿勢や、同じ姿勢を取り続けることです。「それにより、筋肉や関節に物理的な負荷がかかり、その負荷が蓄積するとやがて筋肉や関節などに炎症が生じて、痛みを感じるようになります」(竹谷内先生)

悪い姿勢でテレビを見ている女性

一方、精神的なストレスなどがかかると、自律神経のうち交感神経の働きが高まります。交感神経には筋肉を緊張させる作用があり、こうした状態が続くと筋肉がこわばって筋疲労を招き、痛みを生じさせることになります。
さらに、疲労や睡眠不足といった肉体的なストレスが加われば、より悪化することに。筋疲労が続くと、筋肉のバランスが崩れて姿勢が悪くなり、新たな痛みを引き起こす原因になるという、悪循環に陥ることもあります」と竹谷内先生は注意を促します。

さらに、現代人は肩こりや腰痛になりやすい環境にあります。
近年は、パソコンやスマートフォンを長時間使うことで、肩こりや腰痛になる人も増えています。パソコンやスマートフォンを操作するときには、約5kgの重さがあるといわれる頭を下に傾けることが多く、首に負荷がかかります。
さらに背中を丸めたいわゆる猫背の状態で操作することも多く、悪い姿勢を長時間とることで首や肩、背中、腰の筋肉に負荷がかかるのです
」と竹谷内先生は指摘します。

加えて、パソコンやスマートフォンを長時間使うと脳が疲労しますが、その結果として交感神経が優位になってしまうことも、肩こりや腰痛の原因になります。
スマートフォンなどの画面には文字や写真、動画などの視覚的な情報が多い上に、スクロールによりどんどんと画面が切り替わり、その情報を処理するために脳には過度な負担がかかるのです。
仕事や休憩時間、家事などの息抜きにスマートフォンを見る人は少なくありませんが、実はそうした行動が肩こりや腰痛の原因になっているのかもしません
」(竹谷内先生)

猫背でスマホをスクロールしながら見ている男性

(Topics)欧米人には肩こりがないって本当?

「欧米人には肩こりがない」—— そんなウワサを耳にしたことはないでしょうか?

欧米人は一般に日本人に比べると筋肉量が多いので、肩がこったり痛んだりしにくいのでしょうか?

竹谷内先生は、「欧米人だからといって肩がこらないというわけではありません」と言います。

英語では首や肩が硬くなった状態を“Stiff neck (頸部の硬直)”や“Neck and shoulder stiffness(首と肩の硬直)”と表現するのが一般的で、日本語のように『肩こり』そのものを表す単語がないため、肩こりがないと誤って伝わっているのではないでしょうか」と竹谷内先生は説明します。

地域や国境を超えて、体のこりは我々を悩ませているわけですね。

肩こりがつらそうな男性

ライフステージごとに特に起こりやすい筋肉や関節の痛みがある!

肩こりや腰痛以外にも、こむら返りや腱鞘炎など、筋肉や関節の痛みを起こすことがあります。そうした痛みはどの年代でも起こり得ますが、特にライフステージによって起こりやすい痛みがあります。

ライフステージごとに起こりやすい筋肉や関節の痛み

こむら返り

妊娠期や老年期に多く見られるのが「こむら返り」。こむら返りは主にふくらはぎの筋肉(腓腹筋[ひふくきん]や平目筋肉)が過剰に痙攣する状態のこと。腓腹筋の「腓」を“こむら”と読むために、こむら返りと言われます。ふくらはぎ以外にも、足の裏や指、太ももなどさまざまな部位で起こることもあります。

竹谷内先生は「主な原因は、体内の水分やマグネシウムが不足すること。それにより筋肉が弛緩しにくくなってこむら返りを起こすと考えられています」と話します。
運動中や就寝中、熱中症のときに起こりやすいのは、発汗による脱水やミネラルバランスの乱れ、冷えなどが関係しています。

ただし、50代以上でこむら返りが起こりやすいときには、腰部脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)や甲状腺機能低下症などほかの病気が隠れている可能性があります。
脊柱管狭窄症は、加齢や腰に負担がかかる動作の積み重ねなどによって脊柱管が狭くなり、中を通る神経が圧迫されて腰痛、臀部痛、足の痛みやしびれ・脱力感などさまざまな症状が出る病気です。
こむら返りもその一症状として表れることがあります
」と竹谷内先生。

このほか、低栄養や服用している薬の影響などで起こることもあります。

腱鞘炎

腱鞘炎は、骨と筋肉をつなぐ腱を包んでいる「腱鞘」という組織が炎症を起こす病気です。指や手首、肘などさまざまな部分で起こります。原因は、その部分の使いすぎです。

例えば手首の腱鞘炎では、手首を甲側に反らす動作を繰り返すことで、主に手首の甲側や指の付け根が痛むようになります。パソコンのマウスやキーボード操作をはじめ、手首や指を酷使している人に多く見られます。
テニスなどのスポーツで痛みが生じる「テニス肘(外側上顆炎)」も、実は手首への負荷が多くなることで起こると、竹谷内先生は話します。
手や手首を甲側に反らす動きによって筋肉が収縮すると、肘の外側の骨が出ている部位(外側上顆)に引っ張る力が加わります。その力を繰り返し受けると、外側上顆に炎症や微細な損傷が起こって、手首を反らす動作で痛みが出るようになるのです

ライフステージで見ると、授乳期の女性は腱鞘炎を起こしやすくなります。その原因の一つは、赤ちゃんを抱っこするなどで腕や手首に過剰な負担がかかること。
もう一つの原因が女性ホルモンの減少です。産後数週間は女性ホルモンの分泌はほぼゼロに。実は女性ホルモンには関節を支える軟骨や筋肉の衰えなどを抑える作用があるため、「過剰な負荷」+「女性ホルモンの減少」で腱鞘炎を起こしやすいわけです。
さらに授乳期には、おむつ替えなどのお世話で腰をかがめる姿勢とることが多いため腰痛になる人も多くなります。
授乳期は睡眠不足になりやすく、疲労がたまることも腰痛の一因かもしれません」(竹谷内先生)

肘が痛そうな表情で赤ちゃんを抱っこしている女性

手指の痛み

更年期の女性に特に多いのが、「変形性指関節症」による手指の痛みです。これは、関節内でクッションの役割をしている軟骨がすり減り、関節に負担がかかることで腫れや痛みが生じます。更年期には女性ホルモンの分泌が乱れるとともに減少するため、関節痛が起こりやすいのではないかと考えられています。
また、仕事や家事などで手指を酷使することも変形性指関節症の原因になります。

進行すると、骨棘(こつきょく)という骨のトゲができて痛みが強くなり、次第に関節が膨らんだり曲がったりして変形してきます。指の第一関節に症状が出た場合は「へバーデン結節」、第二関節に症状が出た場合は「ブジャール結節」と呼ばれます。

第一関節が腫れて痛そうにしている女性

膝の痛み

老年期に起こりやすい膝痛の原因はさまざまですが、50代以上になると急増するのが「変形性膝関節症」です。膝の関節軟骨や半月板が加齢とともにすり減ることが原因となって痛みが生じます。
多くの場合、立ち上がったり歩き出したりするときなど、膝を動かし始めたときに、膝の内側や前側が痛みます。階段の上り下りがつらく、下りるときのほうがより痛み、しゃがんだり正座をしたりしたときにも痛みが生じるという特徴があります」(竹谷内先生)

スマホ首(ストレートネック)

スマートフォンやパソコンを長時間使うことが多い世代に起こりやすいのが、いわゆる「スマホ首」や手首の「腱鞘炎」です。
スマホ首は、スマートフォンの操作によって首への負担が大きくなることで、首の後ろや付け根、肩にこりや痛みなどの不調が表れる状態です。

スマートフォンを操作するときは、胸やお腹のあたりの位置でスマホを持つことが多くなりますが、その結果、首を曲げてのぞきこむような姿勢になります。約5kgもある頭の重さのため、そうした姿勢をとり続けると、頚椎を支える周囲の筋肉が緊張し、首や肩の痛みを引き起こすことになります。これがスマホ首の正体です」と竹谷内先生は説明します。

また、「スマホ首の人にX線検査をするとストレートネットになっていることが多く、その場合は医学的には『頚椎症』と診断されます」と、竹谷内先生は指摘します。
ストレートネックとは、頚椎がまっすぐになっている状態のこと。正常な頚椎は、体の前側に緩やかにカーブしています。このカーブで重たい頭を体の真上に持ってきて支えるようにして、首や肩にかかる負担を軽減しているのです。
ところが、スマホを見るときの頭を下げた姿勢では、湾曲がなくなりまっすぐに。この姿勢を長時間、長期にわたって繰り返すと、関節や筋肉がその状態で硬直してしまうのです。
」(竹谷内先生)

ストレートネックと正常な首のイラスト

その痛み、単なる筋肉や関節の痛みじゃない? 痛みに潜む病気に注意!

肩こりや腰痛は、姿勢の悪化や不規則な生活習慣、さらに肉体的ストレスや精神的ストレスが原因となっていることが多く、自律神経が乱れているサインでもあります。
一方、ひどい肩こりだと思っていたら実は関節リウマチや狭心症、結石、子宮がんなどの別の病気が潜んでいることもあります。

通常の肩こりとはどう見分ければ良いのでしょうか。

ポイントは、

  1. じっとしている時にも痛い
  2. 痛みに加えてしびれがある
  3. 他の症状もある

かどうかです。

首や肩、腰といった運動器の病気では、基本的には動かすと痛みが出るものなので、安静にしていても痛みがある場合には注意が必要です。
例えば、じっとしているときに腰に強い痛みや鈍い痛みが出るときは腎結石が疑われるなど、内科的な病気が隠れている可能性があります
」(竹谷内先生)

また、痛みにしびれが伴うときにも注意が必要です。
首や肩の痛みに加えて腕の方に広がるしびれや、腰から足の方に広がるしびれがあるときには椎間板ヘルニアや糖尿病など、神経障害を起こす病気の可能性もあるので、医療機関を受診してください」(竹谷内先生)

さらに、肩こり以外に「体を動かしたときに息切れがする」「胸が締め付けられる感じがする」といった症状があれば、狭心症や心筋梗塞などの可能性があります。
また、線維筋痛症では強い痛みに加えて疲労感やこわばり感などがあります。

このように、首や肩の痛みの他に症状がある場合には受診することが重要です。

3つのポイントに当てはまらなくても、生活習慣の改善や鎮痛消炎薬などによるセルフケアを2週間以上行っても痛みが続く場合にも、医師に相談するといいでしょう。

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(Topics) 腰痛は健康寿命を短くする!?

WHO(世界保健機関)など、世界の主要な7つの機関の共同研究として2007年から始まった世界の疾病負荷研究(GBD)で、日本人の健康寿命(障害調整生存年数:DALYs)を下げる最大のリスク要因として「腰痛(Low back pain)」が挙げられています。
DALYsは障害調整生存年を基にした健康長寿の指標。「死亡により失われる年数」と「病気とともに生きる年数」を足し合わせて病気による社会への影響を測り、国などの研究開発の優先順位の判断基準に役立てるために作られたものです。
これによると、169の疾患別のリスクを見たところ、2015年のリスク要因の1位が腰痛、2位がアルツハイマー病、3位が脳卒中、4位が虚血性心疾患、5位が転倒でした。

これについて竹谷内先生は「腰痛があると生活全体での活動性が低下します。痛みを抑えるために運動や外出を控えるようになり、さらに足腰の筋肉が落ちて活動量が低下するという悪循環に陥り、それが生活習慣病などのリスクを高めることで健康寿命を下げるのではないでしょうか」と話します。

最近では、ぎっくり腰でも急性期をすぎて動けるようになったら、無理のない範囲で積極的に動くことが勧められています。日頃から腰痛予防を心がけるとともに、痛みがあっても安静にしすぎないことも大切です。

姿勢を整え、ストレッチや食事でセルフケアを

これまで解説してきた通り、筋肉や関節の痛みの原因の多くは肉体的・精神的ストレスによるものです。痛みの予防や改善には、これらのストレス対策やセルフケアが欠かせません。

最も重要なのが、日ごろの姿勢です。肩こりや腰痛の予防には、悪い姿勢をとらないことに加え、同じ姿勢をとり続けないことも大切です。
パソコンを使ったデスクワークが多い人は、前かがみの姿勢に気をつけてください。特にノートパソコンでは前屈みになりがちです。机とイスの距離を近づけて座ったり、パソコンのディスプレーの高さを目線がやや下がる程度の位置に調整したりするといいでしょう。また、同じ姿勢を続けないように、30分に1回は立ち上がって、腰や肩の筋肉をほぐすストレッチを行うのもおすすめです」と竹谷内先生はアドバイスします。

テレワークで姿勢が悪くなっている男性

掃除や洗濯、キッチンに長時間立つといった家事の動作も、知らず知らずのうちに姿勢が悪くなったり、同じ姿勢をとり続けたりするものです。
こうした日々の積み重ねが肩こりや腰痛につながるので、家事の合間にこまめに首や肩を回したり、膝の屈伸運動をしたりする時間をとってリフレッシュを。

現代人の生活に欠かせないスマートフォンですが、首を曲げて画面をのぞきこむような姿勢にならないようにしましょう。

スマホの画面を目の高さに上げるようして持つ習慣をつけて。その際、机などに肘をついたり、反対側の手で肘を支えたりするようにすると腕が疲れにくくなります。首肩のストレッチや、猫背を直す背中のストレッチ体操もおすすめです」と竹谷内先生。

肩首ストレッチ体操のイラスト

右手を頭の上から左耳の上に当て、優しく手で頭を右側に倒して首から肩を伸ばして20〜30秒キープ。左手で椅子の座面を掴むと効果的。同様に反対側も行い、これを2、3回繰り返す。

背中ストレッチ体操のイラスト

腰の後ろで手を組み、腕を斜め後方に引き下げるように力を入れる。顔は正面か、上を見上げるようにする。この状態を10〜30秒キープ。1日数回気づいたときに行う。

(監修:竹谷内医院・竹谷内康修先生)

腱鞘炎やテニス肘の予防では、なるべく手首を甲側に反らす動作を繰り返さないように気をつけましょう。サポーターやバンドで手首や肘を固定しておくのも一法です。

膝痛の予防には、関節を支える筋肉量を維持することが大切です。日ごろからスクワットなど下肢の筋肉を鍛える筋力トレーニングや、ウォーキングなどを行いたいものです。全く歩かなくなってしまうと筋力が衰えるので、痛みがあっても動かせる程度なら、無理のない範囲で、休憩を入れながら歩くことをおすすめします」(竹谷内先生)

このほか、疲労やストレスがたまらないように十分な睡眠をとること、栄養バランスの良い食事をとることも重要だと、竹谷内先生は強調します。
食事では特に、疲労回復や神経の修復を助けるビタミンB群(B1・B6・B12 など)が不足しないようにとってほしいと思います。ビタミンB群は豚肉や青魚、貝類などに含まれています

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こうした予防を心がけていても筋肉や関節の痛みが出てしまったときには、まずは市販の鎮痛消炎薬を使ってケアする人も多いでしょう。
後編では、筋肉や関節のセルフケアに役立てたい鎮痛消炎薬の選び方や活用法をご紹介します。

専門家プロフィール(あいうえお順)

竹谷内康修先生
竹谷内医院(東京都中央区)院長、整形外科医、カイロプラクター。2000年東京慈恵会医科大学卒業。福島県立医科大学、米ナショナル健康科学大学を経て、2007年に東京駅の近くにカイロプラクティックを主体とした手技療法専門のクリニック(現・竹谷内医院)を開設。
三上彰貴子先生
(株)A.M.C代表取締役、薬剤師、衛生検査技師。製薬会社、コンサルティング会社勤務を経て、2005年から現職。慶應義塾大学にてMBA取得。薬局薬剤師・登録販売者向け講師、薬科大学非常勤講師も務める。「生活総合情報サイトAll About」で市販薬を中心にした薬の情報提供も行う。
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