女性の体は2つの女性ホルモンでコントロールされている

女性ホルモンの周期的な“揺らぎ”を知り上手な付き合いを

2021.12.24 更新

初経から閉経を迎えるまでの約40年間、女性は女性ホルモンとともに生きていきます。女性ホルモンの働きは実に多彩。出産など女性ならではの働きをサポートするだけでなく、体や心の健康、美容にも深く関わります。この間に女性ホルモンの恩恵をしっかり受けることは、人生の後半戦を健やかに生きることにもつながります。
「人生100年時代」といわれる現代、女性ホルモンの正しい知識を得て、上手に付き合うことの重要性が増しています。女性自身だけでなく、家族やパートナーなど身近な人に必要な知識と理解を持ってもらうことも大切です。

エストロゲンとプロゲステロン、2つの女性ホルモンの働き

女性ホルモンには「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の2つがあり、どちらも卵巣から分泌されます。

エストロゲンは、いわば“女性らしさ”を作るホルモン。乳房や生殖器の発達、子宮内膜の増殖、月経、妊娠、丸みを帯びた女性らしい体つき、肌の潤いやハリなど、女性の成長や美容に深く関わっています。また骨や血管を守るなど、全身の健康にも貢献しています。

エストロゲンの信号を受け取る手(“受容体”という)は、子宮や乳房といった女性特有の臓器だけでなく、血管や骨、脳、皮膚など、頭のてっぺんからつま先まで全身に存在しています。つまり、エストロゲンは体の至るところで働いて、女性の健康を内側から支えているのです」と東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授の寺内公一先生は話します。

一方、プロゲステロンは“子どもを産み育てる”ことに関わるホルモンです。エストロゲンによって増殖した子宮内膜を受精卵が着床しやすいように整えるのがプロゲステロンで、いざ妊娠した場合はその状態を維持するように働きます。

女性ホルモンの主な働き

◎エストロゲン(卵胞ホルモン):“女性らしさ”を作るホルモン
卵子を包んでいる“卵胞”から分泌されるホルモン

  • 乳房や性器の発達を促す
  • 丸みのあるラインなど、女性らしい体つきにする
  • 子宮内膜を増殖させて妊娠の準備をする
  • 骨、血管、関節を健康に保つ
  • 認知機能を維持する
  • 肌や粘膜を潤す
  • 子宮内膜症や子宮筋腫、子宮体がん、乳がんなどの病気を悪化させる

肌がツヤツヤしている女性 ジョギングをする女性

◎プロゲステロン(黄体ホルモン):“子どもを産み育てる”ことに関わるホルモン
排卵後、卵胞が変化した“黄体”から分泌されるホルモン

  • エストロゲンによって増殖した子宮内膜を成熟させ、受精卵が着床しやすい状態にする
  • 妊娠したときに、その継続を助ける
  • 体温を上昇させる
  • 食欲を増す
  • 水分をため込む
  • 腸の働きを抑える
  • 眠気を催す

妊娠している女性 バランスよく食事している女性 眠気におそわれている女性

女性ホルモンが起こす“月々の波”が作る月経周期

月経もまた、女性ホルモンの働きによって起こります。月経周期は、女性ホルモンの変動に応じて「卵胞期」「排卵期」「黄体期」「月経期」の4つに分けられます(下図)。

「卵胞期」は、卵巣からのエストロゲンの分泌量が徐々に増え、それに伴って子宮の中で子宮内膜が徐々に増殖していく時期です。エストロゲンの分泌量がピークに達すると脳から指令が出て、卵巣内にある卵胞から卵子が飛び出す「排卵」が起こります。この期間が「排卵期」です。卵子が飛び出た後の卵胞は空になり、次に黄体という組織に変化。この黄体から分泌されるのが、プロゲステロンです。この「黄体期」はプロゲステロンによって子宮内膜が成熟し、妊娠しやすい状態に整えられます。そして、この段階で妊娠が成立すれば、子宮内膜の一部は胎児を育てるための胎盤を支え、妊娠しなかった場合は子宮内膜を体外に排出して子宮内をリセットします。これが「月経」で、この「月経期」の後にまた「卵胞期」が繰り返されます。

月経周期の前半にはエストロゲンが大量に分泌され、後半にはプロゲステロンが増える―女性の体の中では、このようなホルモンのダイナミックな変動が毎月起こっています。これはひとえに妊娠に向けた準備なのですが、その一方で、このホルモンの“波”のあおりを受けて、体調を崩す女性も多いのです。その代表が、月経前にイライラや情緒不安定、頭痛などが起こる『月経前症候群(PMS)』です。女性ホルモンが働いて月経が起こること自体は健康な証拠なのですが、それが長い期間、毎月繰り返される状態が続くとPMSや月経痛に苦しむ回数が増えるだけでなく、子宮内膜症などの病気になるリスクも増えてしまいます」と東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座准教授の甲賀かをり先生は話します。

近年、ライフスタイルの多様化などにより妊娠・出産の平均年齢が上がるとともに、出産回数の減少が見られ、その分月経回数が増加しています。「生涯に経験する月経回数は、昔の女性に比べて10倍にもなるという報告もあるほどです※1。多すぎる月経は女性の健康を脅かす大きな問題になっています」と甲賀先生は指摘します。

※1 Hilary O. D. Critchley, et al: Am J Obstet Gynecol 2020; 624-664

参考:月経(生理)が起こるしくみ=プロスタグランジンが子宮を収縮させる(月経痛(生理痛)の症状・原因)

女性ホルモンの分泌の変化と月経周期の図

エストロゲンとプロゲステロンは脳からの指令を受けて卵巣から分泌され、子宮内を妊娠に適した状態に整える。妊娠が成立しなかった場合は、月経という形で子宮内膜を血液と一緒に排出して、子宮内をリセット。その後は再び同じ準備を始める。これが約1カ月の周期で繰り返されている。
(監修:東京医科歯科大学大学院・寺内公一先生)

エストロゲンが描く“一生の波”がもたらす女性の成熟と老化

女性ホルモンの変動が引き起こす波には、月経周期に伴う「月々の波」だけでなく、「一生の波」、つまり人生のステージによって変化する長いスパンの大きな波の動きもあります。これは「思春期」から「性成熟期 」、「プレ更年期」、「更年期」へと移行する中で起こるエストロゲン分泌量の変動で、特に初経を迎える思春期と閉経を経験する更年期は心身のバランスを乱すほどの“大波”になることがあります。

思春期

エストロゲンは8、9歳ごろから少しずつ分泌され始め、個人差はありますが12歳前後で初経に至ります。思春期には体と心が大きく変化し、月経もまだ安定せず、心身のバランスが不安定になりやすいのが特徴。人生において女性ホルモンの大波を最初に受ける時期だといえます。

友人同士で談笑する女子学生

性成熟期

次に10代後半から20代になって性成熟期に入ると、エストロゲンの分泌は安定し、分泌量もピークになります。こうして妊娠・出産に適した体内環境ができ上がります。人生においても恋愛や結婚、妊娠・出産、子育てなどのライフイベントが目白押しで、女性ホルモンの恩恵を最も多く受ける時期といえるでしょう。
その半面、女性ホルモンの分泌量の多さゆえに、月経困難症や子宮内膜症、子宮筋腫など女性ホルモンに関わる病気が増えてくる時期でもあります。

ビジネススーツで仕事をしている充実した顔の女性

プレ更年期

その後に訪れるのが、本格的な更年期の前段階ともいえる「プレ更年期」。「プレ更年期」は医学的に定義されているわけではありませんが、「性成熟期」の後半にあたる時期から「更年期」に移行するまでの期間です。
エストロゲンの分泌量はまだ保たれているものの、体の中では徐々に減少する女性ホルモンの揺らぎへの対応が始まる過渡期であるとともに、仕事や家庭で大きな変化が起こるといったライフイベントの変化も多い時期で、不調を感じ始める人も少なくありません。子宮内膜症や子宮筋腫といった病気が悪化する時期でもあります。

イライラして部下を叱責する上司

更年期

一般的に45歳ごろになるとエストロゲンが減少し始め、50歳前後で卵巣からの分泌が止まり閉経を迎えます。この閉経をはさんだ前後5年の約10年間を更年期と呼びます。女性の体と心を長年にわたって支えてきたエストロゲンがなくなるため、ホットフラッシュやイライラ、関節の痛みなどさまざまな心身の不調が現れやすくなります。
更年期になるとエストロゲンの分泌が不安定になり、多くなったり少なくなったりと乱高下を繰り返して揺らぎながら減少していきます。単にエストロゲンが欠乏するからというよりも、この“揺らぎ”によって起こるのが、ほてりやのぼせ、発汗、不眠などの更年期症状です」と寺内先生。まさに心身がホルモン量の変化の大波に揺さぶられる、それが更年期なのです。
健やかな更年期を過ごすためには、そうした大波に揺られている時期だということを家族や周囲の人にも理解してもらうことが大切です。

更年期症状のお母さんを労わって家事を手伝う子どもたち

女性のライフステージとエストロゲンの変化

思春期から始まり、性成熟期を経て更年期へ。女性のライフステージにおいて、エストロゲンの分泌量は上のようなカーブを描く(イメージ)。エストロゲンの分泌が始まる思春期と、それが終わる前後の更年期は、ホルモンの大波の変化の大きさに翻弄されて心身のバランスを崩しやすい。
(監修:東京医科歯科大学大学院・寺内公一先生)

女性ホルモンとともに生きる約40年が人生後半戦の健康の礎に

人生100年といわれる時代。いかに健康に人生の後半戦を生きるかが以前にも増して重要になっています。閉経を機に女性は約40年間ともに生きてきた女性ホルモンと決別するため、それ以降の人生は女性ホルモンとは関係ないと考えがちですが、「人生の後半戦を健やかに生きるには、閉経までに得てきた女性ホルモンの恩恵がものをいう」と、甲賀先生は次のように続けます。
80歳、90歳になっても自分の足で元気に歩くためには、骨折をしない丈夫な骨が必要です。エストロゲンには骨を強くする働きがあり、老年期になってからの骨の強さは17、18歳ごろの骨密度に規定されるともいわれています。例えば10代のときに過度なダイエットをして卵巣からのエストロゲンの分泌が抑えられ、月経が止まったまま放置すれば骨密度は明らかに低下します。そして、それは年をとってから骨粗鬆症になるリスクを高めてしまうのです。これは骨に限らず、血管などの健康にも同じことがいえます

ご自身やご家族が女性ホルモンの揺らぎのどのステージにいるかを知っておくことは、つらい症状に共感して気持ちに寄り添ったり、不調の原因を明確にするため早い段階で医療機関の受診を検討するうえで、大切なことといえそうです。

元気に楽しそうにテニスをしている初老の女性

専門家プロフィール(あいうえお順)

甲賀かをり 先生
東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座准教授。1996年、千葉大学医学部卒業。東京大学大学院修了。三井記念病院産婦人科、武蔵野赤十字病院産婦人科などを経て、豪州プリンスヘンリー研究所、米国イエール大学留学。帰国後、東京大学医学部産婦人科学講座講師、2014年より現職。医学博士。
寺内公一 先生
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科寄付講座 茨城県地域産科婦人科学講座教授。1994年、東京医科歯科大学医学部卒業。同大医学部附属病院、国保旭中央病院、東京都立大塚病院にて産婦人科研修。米国エモリ―大学リサーチフェロー、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科寄附講座女性健康医学講座准教授を経て、2016年より教授。女性健康医学講座は2020年4月から「茨城県地域産科婦人科学講座」に。医学博士。
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