今と昔で変わった子どもの食物アレルギー、新常識 第2回

子どものアレルギー、対策は? 予防法はある?

2023.11.16 更新

何を食べても特に症状なく過ごしてきた子どもが、ある日突然「運動」をきっかけにアレルギー症状が出てしまったり、花粉に加えて果物でもアレルギー症状が出てしまったり……親であっても、わが子への対処法がわからず途方に暮れてしまうケースは少なくありません。ここでは、新たにわかってきた食物アレルギー発症の仕組みや、スキンケアとアレルギーの実は密接な関係、予防や対策に必要なことを紹介します。

トマトやメロンなどを食べたときに口の中や唇がかゆいのも、食物アレルギー?

特定の食物を食べると、蕁麻疹(じんましん)や声のかすれ、くしゃみなどの多様な症状が出るのが食物アレルギーですが、実は、花粉症から食物アレルギーに進むケースがあります。果物や野菜には花粉のアレルゲンと構造がよく似た物質が含まれているため、アレルギー反応を起こしてしまうのです。
例えばシラカンバの花粉症があれば、リンゴやモモ、ピーナッツ、大豆などの食物アレルギーが、カモガヤ、ブタクサなどの花粉症があればメロンやトマトなどの食物アレルギーが起こる可能性があります。これを「口腔アレルギー症候群(OAS)」といいます。

子どもの場合も3歳くらいから花粉症になる例が増えてきます。特定の果物や野菜を食べて、口の中や唇がかゆくなったり、イガイガしたりする場合はOASの可能性があります。また、果物や野菜が口の周りについて皮膚がかゆくなったり赤くなったりするけれども、きれいに食べると症状がないこともあります。IgE抗体が陽性の食物が付着すると、その場で皮膚テストをしているときのように赤くなるのです。これは感作を示すもので食物アレルギーではありません。食べる前に口の周りにワセリンを塗って保護しておくことも一法です」と東京慈恵会医科大学の田知本寛先生。

口の周りにワセリンを塗ってもらってトマトを食べている小さな男の子

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食後に運動すると発症! 「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」とは

「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」は、原因となる食物を摂った後に運動をすることでアナフィラキシー症状が引き起こされる食物アレルギーです。原因食物を摂取してから2時間以内、遅い場合には4時間以内に運動をすると症状が出てきます。運動をしなければ食べていても特段の症状がなく、本人や家族が食物アレルギーと認識していないこともあるので注意が必要です。

発症は中学生が最も多く、次に小学校高学年、高校生と続きます。原因食物は一番多いのが“小麦”で、そのほかにエビやカニなどの“甲殻類”も珍しくありません。メカニズムはわかっていませんが、アレルゲンの腸からの吸収が、運動で増加するためではないかと考えられています。症状は様々ですが、血圧低下や意識障害などの重いアナフィラキシーショックに至ることもあるので、症状が出たら救急車を呼びましょう。
食物依存性運動誘発アナフィラキシーを知らない人も多く、運動が様々な症状の引き金になっていることに気づいていない人も少なくありません。運動後に何らかの不調を感じる場合には、2〜4時間以内に食べたものをメモしておくといいでしょう。また、原因食物がわかれば、運動前には原因食物を食べない、食べたら2〜4時間は運動しないといった対策が有効です。睡眠不足や疲れ、ストレス、解熱鎮痛薬の服用で起こりやすくなるので注意しましょう
」と田知本先生。

運動以外でも食物依存性運動誘発アナフィラキシーが起こることがあります。
小麦による食物依存性運動誘発アナフィラキシーの大人のケースですが、パスタ(小麦)と一緒にアルコールを飲み、食後に入浴をしたところ、アレルギー症状が出てきたという方がいました。アルコールと入浴が運動と同じような引き金となり、小麦アレルギーが誘発されたものと考えられます。入浴だけでも起こることがあるので気をつけてください」(田知本先生)

エビを食べた後にランニングをしたところ、アレルギーの発作が起こってしまい苦しそうな男の子。

食物アレルギーかも、と思ったら、細かく「食物日記」をつけて

食物アレルギーを疑うような症状が出たら、アレルギーに詳しい医師に診察してもらいましょう。一般社団法人日本アレルギー学会が運営する「アレルギーポータル」というサイトで、各都道府県のアレルギー疾患医療拠点病院やアレルギー専門医などを検索することができます。

診察で最も重要なのが、問診です。いつ何をどのくらい食べたら、何分後にどんな症状が出たのか、症状はどのくらい続いたのか……など、医師が詳しく聞き取りをします。
その際、非常に参考になるのが『食物日記』です。保護者の方は、食べたものや症状などをできるだけ詳しく記録しておいてください。例えば、食物は生だったか、加熱したものだったか、どんな調理法だったか、どれぐらいの量を食べたのか、どんな場所・環境で症状が出たのか、症状が出る前の体調はどうだったか……など、気がついた点をなるべく細かくメモするようにしてください」と田知本先生。

食物日記の記入例

食物日記の記載サンプル

診断の際は問診に加え、血液検査(特異的IgE抗体検査)や皮膚テスト(プリックテスト)も行います。血液検査は原因物質に対するIgE抗体の量を調べるもの。また皮膚テストは、アレルゲンのエキスを皮膚にのせ、専用の針で皮膚に小さな傷をつけてアレルギー反応が現れるかどうか調べます。

血液検査と皮膚テストは補助的なもので、これらの結果だけで診断が下されることはありません。最も重要なのは、原因食物を食べて本当に症状が出るのかということ。診断が困難なときには、医療機関で疑われる食物を少量から複数回に分けて摂取して症状の有無を確認する『食物経口負荷試験』を行って、最終的に診断します。試験中に症状が出ても即座に対処できるよう、入院して実施することもあります。食物負荷試験は耐性獲得の診断をするために行うこともあります」(田知本先生)

医師の正しい診断に基づいて原因食物が明らかになったら、その食物をすべて除去するのではなく、必要最小限の範囲で除去します。症状が出てこない“食べられる量”を見極め、その量までは食べられるようにすることを目指すのです。これらの治療は医師と十分相談しながら進めていきます。

テーブルを囲んで「食物日記」をつける親子

「経口免疫療法」は専門医がいる施設で慎重に

食物アレルギーを起こす食物も、医師の管理下で少しずつ継続的に食べていくと、体がその食物に慣れ(耐性獲得)、いずれ食べられるようになる――。こんな知見に基づいて行われるようになったのが、「経口免疫療法」です。原因食物を除去するのではなく、いわば食べることで治していこうという治療法です。前述の食物経口負荷試験で症状が引き起こされる量を確かめた上で、専門の医師の指導のもと段階的に原因食物の摂取量を増やしていきます。お子さんが「経口免疫療法」の適応になるか必ず医師と相談してください。

「経口免疫療法」の治療中に強いアレルギー症状が出てくる可能性もありますから、注意が必要です。現段階では臨床研究段階の治療であり、どこの医療機関でも受けられるわけではありません。
『食物アレルギー診療ガイドライン2021』では、「食物アレルギーの一般診療としては推奨しない」、「食物アレルギー診療を熟知した専門医が臨床研究として倫理委員会の承認を得て、患者や保護者に十分な説明を行い、症状が出現した場合の救急対応に万全を期した上で慎重に実施すべき」と記されています。

(Topics)食物アレルギーを予防するには生後3日間が勝負!?

食物アレルギーの発症予防には、アレルゲンとなる食物を早期から少しずつ摂取することが有効だとされています。
これまでは生後数か月くらいから始める例が多かったのですが、そのころにはすでにアレルギーを発症している例も見受けられます。そこで我々は従来よりももっと早く、生まれた直後から早期介入し、発症予防効果について調べてみました。

対象は、アトピー性皮膚炎のリスクを持つ新生児312人。『母乳(+アミノ酸乳)』を飲む群151人と『母乳+人工ミルク』を飲む群151人に分け、2歳の段階で牛乳に対する食物アレルギーを発症しているかどうかを調べました。両群とも母乳栄養を主体としています。『母乳(+アミノ酸乳)』群は母乳が不足したときにアミノ酸乳で補充します。生後4日目からは人工ミルクで補充しました。『母乳+人工ミルク』は人工ミルクを初日から少なくとも5ml与えました。アミノ酸乳は、アレルギーを起こさないミルクです。

赤ちゃんに母乳をあげる母親

その結果、『母乳(+アミノ酸乳)』群では牛乳アレルギーを発症した子どもが1人だったのに対し、『母乳+人工ミルク』群ではそれが10人と、『母乳(+アミノ酸乳)』群での食物アレルギーの発症が抑えられていました※1。同時に、鶏卵や小麦アレルギー、何らかの食物によるアナフィラキシーも『母乳(+アミノ酸乳)』群で抑えられていました。

生後3日間という超早期に異種たんぱくである牛由来の人工ミルクの摂取を控えることにより、食物アレルギーを予防できる可能性が示唆されたわけです」と田知本先生は話します。

  • アミノ酸乳は、精製アミノ酸のみをアミノ酸源として配合調製したミルクです。通常の人工ミルクは、従来の牛乳由来のタンパク質を含むミルクです。
  • 1 JAMA Pediatr. 173(12):1137-1145, 2019

アレルギー・マーチに気をつけて

アレルギー疾患には、食物アレルギー以外にもアトピー性皮膚炎や気管支喘息、アレルギー性鼻炎など、様々なものがあります。小児期にはこれらが次から次へと異なる時期に出現することが多いと知られ、これを音楽隊の行進(マーチ)になぞらえて「アレルギー・マーチ」といいます。
乳児期には食物アレルギーやアトピー性皮膚炎、2~3歳になると気管支喘息、3~4歳ではアレルギー性鼻炎を起こす例が多く見られます。もちろん個人差があり、順番が変わることもあります」と田知本先生。

乳児期に食物アレルギーを発症した場合には、花粉やダニなどのアレルゲンを近づけないような生活環境を整えることでアレルギー・マーチの進行を予防したり症状を軽くしたりできる可能性があります。

(Topics)5歳時のアレルギー症状で13歳時の花粉-食物アレルギー症候群を予測できる!?

花粉にアレルギーのある人が、似たアレルゲンを持つ食物を摂取して口腔アレルギーを呈する「花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)」。国立成育医療研究センターが同センターで出産した母親(1,701人)とその子ども(1,550人)を追跡調査した結果、このPFASもアレルギー・マーチの一つである可能性が明らかになりました※2。

この調査結果によると、5歳の段階でアトピー性皮膚炎(喘鳴や鼻炎を伴う)があると、13歳時にPFAS発症のリスクが高くなることがわかりました。また、シラカンバやスギ、ネコに対するIgE抗体が陽性という子どもも、13歳時にPFAS発症リスクが高くなりました。
つまり、5歳時のアレルギー症状やアレルギー検査結果によって、13歳時のPFAS発症を予測できる可能性があるということです。

  • 2 Nutrients.14(13), 2022

アレルギー対策に皮膚のケア(スキンケア)が欠かせない理由

“口から食べる”が前提と思われる食物アレルギーと、“皮膚”に対するスキンケア、一見無関係に思えるかもしれませんが、実は密接な関係があります。
正常な皮膚は角質層に守られ、外界の異物が侵入しにくい状態になっていますが、皮膚のバリア機能が低下すると、異物が皮膚を通って体内に入りやすくなります。異物(アレルゲン)が入ると、免疫細胞がIgE抗体をつくり、感作(かんさ)が成立します。“皮膚を介した「経皮感作」”が起こりうるということです。

例えば、部屋の中で家族がピーナッツを食べていると、ホコリの中にピーナッツのアレルゲンが混じることになります。それが子どものカサカサした皮膚から体内に入り、経皮感作が成立し、ピーナッツを摂取してアレルギー反応が起こることもあります。
つまり、食べてはいないのに、ピーナッツの“アレルゲンが皮膚から入る”ことで、ピーナッツアレルギーが起こるわけです。皮膚を健康な状態に保つことは、アレルギー予防の観点からも非常に重要です。

食物アレルギーを気にして口に入れるものは厳格に気にしていたけれど、部屋の掃除が不十分だった、子どもの肌がカサカサでかゆそうにしている、という場合には、アレルゲン侵入(アレルギー発症)に対する盲点があります。生活環境全般に目を向けて取り組むことを心がけましょう」と田知本先生は強調します。

本来、私たちは食物を異物と認識せずに自分の体に取り込み、栄養に変える力を備えています。これを「経口免疫寛容」といいます。食物アレルギー発症のメカニズムは、食物への免疫寛容成立の失敗と経皮感作と考えられています。

ピーナッツを食べる父親のそばで痒そうにしている女の子

アレルギー対策としての“正しいスキンケア”はどうしたらいい?

スキンケアは、食物アレルギーの予防にもつながります。生後間もなく、できるだけ早くから始めましょう。皮膚を洗うときは必ず石けんを使います。皮膚には黄色ブドウ球菌などの細菌やアレルゲン、汗なども付いていますから、清潔を保つにはお湯だけでは不十分なのです。赤ちゃん用の石けんをよく泡立て、やさしく手のひらや柔らかいタオルで洗い、洗浄成分が残らないようにしっかりと洗い流します。洗った後は、肌が乾燥しないようにワセリンなどの保湿剤を塗りましょう。
それでも湿疹などがあれば、医師に相談しましょう。アレルギーを防ぐためにも、目指すのは、“つるつるの肌”です」と田知本先生。

お風呂でもこもこの泡で体を洗っている親子

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(Topics)スキンケアにも世代間ギャップ!?

第一三共ヘルスケアが2022年8月に実施した「0~2歳の子どもを持つ現役パパ・ママに聞く、『育児に関する世代間ギャップ』調査」によると、子育て中のお父さん・お母さんでは「子どものスキンケア開始は新生児から」と答えた割合が7割以上と大半を占め、「子どもの肌は早めのスキンケアでバリア機能を守ることが大切」という認識が正しく理解されているようです。
ただし同調査内では、こうしたスキンケアに対して「親世代とのギャップを感じる」と答えた方も3人に1人と多く挙がりました。子育てについて、親世代の過去の経験によるアドバイスは尊重し、その想いは受け取りつつ、様々な情報が溢れる中で上手に取捨選択をして、最新の知識を取り入れることが大切です。

子どものスキンケア開始時期のグラフ

専門家プロフィール

田知本寛先生
東京慈恵会医科大学小児科学講座准教授。1991年、東京慈恵会医科大学卒業。98年、同大学院修了。国立小児病院小児医療研究センター・アレルギー研究室、米国Johns Hopkins大学臨床免疫学教室、独立行政法人国立病院機構相模原病院小児科などを経て、現職。日本小児科学会指導医、日本アレルギー学会指導医。日本アレルギー学会代議員、日本小児科学会代議員、日本小児科学会東京都地方会幹事、日本小児アレルギー学会評議員も務める。
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