運動不足は生活習慣病やがんなどのリスクを高める
2025.5.30 更新
運動は筋肉量や関節の可動性の維持に役立ち、骨粗しょう症、フレイル(心身の虚弱状態)を防ぎます。それだけでなく、免疫力の低下、睡眠障害、うつ、認知症、生活習慣病、がんなど、様々な不調や病気のリスクを低減することが確認されています。運動が健康に良いとわかっていても、運動習慣がない人も多いのが日本の実状。運動というとジムに通ったり、何かのスポーツに取り組んだりするイメージがあるかもしれませんが、日ごろの家事や通勤・通学も立派な運動=身体活動です。運動による健康効果を得るには、どんな点に気を付けて日々を過ごせばいいのでしょうか?年齢や性別、ライフスタイルに応じた身体活動の上手な取り入れ方を紹介します。
日本人の歩数は20年以上も前から減少の一途をたどり、さらに座位時間は世界で最も長いといわれています。
運動の健康効果は多岐にわたり、「エクササイズ イズ メディスン(運動は薬)」という言葉もあるほどですので、少しでも体を動かす機会を増やしたいところです。体の中で最も大きい臓器である筋肉を動かすと、エネルギー代謝が活発になり、また筋肉からはマイオカインと呼ばれる、体に良い作用を及ぼす生理活性物質も分泌されます。ほかにも免疫力を高めて風邪などの感染症を防ぐ、うつを予防する、認知機能を維持する、睡眠の質を良くするなどの健康効果も認められています。
逆に運動不足になると、生活習慣病の発症リスクが高まり、筋肉や骨の弱体化も進み、死亡リスクや将来の介護リスクが上がることもわかっています。
とはいえ、運動は苦手という人も少なくありません。そんな人にお勧めなのが家事や仕事、通勤・通学などの生活活動を“運動化”することです。生活活動にある程度の強度を持たせ、「運動をしている」と“意識しながら行う”ことで、運動時のような効果が得られるそうです。
さらに、座位時間を減らすことも重要です。30分に1回椅子から立ち上がって、体を動かす。これを1日10分行うだけで死亡リスクの低下が期待できるとのことです。
自分に合った無理のない方法で、身体活動を増やしましょう。
運動が健康にとって大切なのはわかっているけれど、仕事や家事が忙しくてなかなかできない…。そういう人も少なくないでしょう。実際、日本人の運動不足は様々な調査にも現れています。
スポーツ庁が実施した「スポーツの実施状況等に関する世論調査」※1によると、運動不足を感じている人は全体の77.9%でした。性別で分けて見ると男性は74.1%、女性は81.6%が運動不足を感じており、特に女性で多いことがわかりました。また年代では30~50歳代で8割を超えていました。運動不足は多くの人が抱える悩みですが、とりわけ女性と働き盛りの世代に多いようです。
一方、運動習慣のある人はどのくらいいるのでしょうか。2023年(令和5年)度の国民健康・栄養調査によると、1日30分以上の運動を週2回以上実施する生活を1年以上続けている運動習慣者の割合は、男性が36.2%、女性が28.6%でした※2。前述のスポーツ庁の調査結果と同様、性別で分けて見ると女性の方が運動習慣者の比率が少なく、年代別では若い世代ほど少ないという結果でした。若い世代は仕事や子育て、介護などで忙しく、運動をする余暇時間を十分に取れない側面があると考えられます。
国民健康・栄養調査では1日の歩数についても調べています。2023年度の歩数の平均値は男性で6,628歩、女性で5,659歩でした。過去と比較するとどうでしょうか。例えば2013年の歩数は男性が7,099歩、女性が6,249歩ですから、この10年間で男女とも明らかに減少していることがわかります(グラフ参照)。
さらに「座位行動」の時間を調べた研究結果もあります。座位行動とは、座ったり寝転んだりして過ごす時間のことを指します。座位行動が長い人は、そうでない人に比べて、肥満度、2型糖尿病や心臓病にかかっている率などが高く、寿命まで短いとする報告があります。しかも、日本人はこの座位行動が諸外国に比べて長いのです。1日の総座位時間を国際的に比較したオーストラリアの研究では、日本の中央値は420時間で、これは20カ国中サウジアラビアと並んで1位の長さでした※3。
つまり、日本では運動不足を感じている人が多く、実際、運動習慣がある人は3人に1人前後しかおらず、年々歩数も減っているという現状です。一方で、座位行動の時間は世界トップクラス。これらの調査結果からは、身体活動量が低いという日本の実情が見えてきます。
このような現状について、早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学部教授の宮地元彦先生は次のように話します。
「運動だけでなく、家事・仕事・移動などを含む身体活動の量の客観的指標として最もよく使われているのが歩数です。実は日本人の歩数は、20年以上も前から減少し続け、男女ともに1日平均で1000歩以上も少なくなっています。例えば買い物ひとつ取ってみても、近年はネット通販などが増え、わざわざお店に出かけなくても買い物ができる環境が広がりました。また地方では車を使う機会が多く、都市部よりも歩数が少ない傾向があります。このような社会環境の中、体を動かす機会がどんどん減っているのです。」
そもそも運動はなぜ必要なのでしょうか。宮地先生によると、運動不足になると大きく2つの側面から健康が脅かされるといいます。
「一つは生活習慣病のリスクが高まることです。運動不足になるとエネルギーが十分に消費されないため、肥満になりやすくなります。そして肥満により、糖尿病や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病も発症しやすくなります。生活習慣病が進むと、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの心血管系疾患のリスクも上がります。さらに運動不足は大腸がん(男性の場合)や乳がん(女性の場合)など、一部のがんのリスクを上げることもわかっています※4。
もう一つは、筋肉や骨の弱体化が進むことです。加齢とともに筋肉が衰える“サルコペニア”や、心身が衰える“フレイル”、骨がもろくなって骨折しやすくなる“骨粗しょう症”などが起こりやすくなります。そうなると自立した生活を続けるために必要な筋肉や骨や関節などの機能が低下し、体力も衰えるため、将来、要介護のリスクが高くなるわけです」
運動不足は様々な病気を招き、寿命を縮め、将来の自立した生活を阻害する元凶の一つといえます。
では、運動の健康効果には具体的にどのようなものがあるでしょうか。代表的なものを紹介します。
筋肉も臓器の一つです。しかも、体重の約4割を占める、体の中で最も大きな臓器なのです。「筋肉は一番大きく、そして最も多くのエネルギーを使う“代謝臓器”です。運動で筋肉を動かすと、食事から摂った糖がたくさん消費され、脂肪も多く燃焼します。つまり、筋肉が多く運動をよくする人は、しない人に比べてエネルギー代謝が活発で、肥満などのリスクが低下します」と宮地先生。
運動は免疫機能を高め、風邪やインフルエンザなどの感染症を防いでくれます。ただし、これは“適度な運動”を行った場合です。
「例えば鼻や口などの粘膜で働く免疫物質に免疫グロブリンA(IgA)という抗体があります。鼻水や唾液の中にはIgA抗体がたくさん含まれていますが、適度な運動をするとこれが増えることがわかっています※5。ただし、激しい運動は疲労を招き、逆に免疫の働きを低下させますから過度な運動には注意が必要です」(宮地先生)
運動をした夜はよく眠れるという経験がある方も多いのではないでしょうか。運動は睡眠に良い影響をもたらしてくれます。
「運動などの身体活動の習慣がある人は、そうでない人よりも中途覚醒が少ないことに加え、深い睡眠が得やすく、睡眠の質が高いことが脳波などの研究でわかっています」と宮地先生。例えば成人男性に、最大酸素摂取の60%強度の運動を行ってもらい、その後の睡眠の質を脳波で解析した筑波大学の研究では、睡眠初期の深い睡眠が安定し、質の良い睡眠がとれる可能性があると報告されています※6。
宮地先生は、「こうした運動と睡眠の関係の背景には自律神経の働きも関係していると考えられます。運動をすると体を活動モードにする交感神経の活性が高まりますが、運動が終わると今度は体をリラックスモードにする副交感神経が活発になります。たとえば夕刻に運動を行って交感神経を優位にし、夜に副交感神経が優位になるようにすると、入眠しやすく睡眠の質が良くなる可能性があるわけです。ただし、激しい運動をやりすぎると、交感神経優位の状態が続き、寝つきが悪くなることもあるので気を付けましょう」
適度な運動は、脳にも良い影響を及ぼします。
「運動をすると、精神を安定させる働きがあるセロトニン、意欲や運動調整に関わるドーパミンなどの神経伝達物質、神経細胞の成長や再生を促す脳由来神経栄養因子(BDNF)が多く分泌されることがわかっています。また脳における記憶や感情に関わる部位の神経細胞を維持する働きもあるといわれています。運動は、うつの改善※7、認知機能の低下抑制※8など、脳の健康にも重要な役割を果たします」と宮地先生は話します。
最近注目されている生理活性物質に「マイオカイン」というものがあります。これは、筋肉から分泌されるホルモンやタンパク質、ペプチドなどのことです。意外かもしれませんが、筋肉は様々な生理活性物質を分泌する内分泌臓器でもあるのです。マイオカインは、ギリシャ語の「myo(筋)」と「kine(作動物質)」を組み合わせて作られた名称です。
「マイオカインは運動などの身体活動で筋肉を動かすと、筋肉自体から分泌されます。いろいろな種類がありますが、それらが血流に乗って全身を巡り、筋肉の合成を促したり、糖や脂質代謝を高めたり、炎症を抑えたりと、全身の臓器で様々な作用を及ぼすことが明らかになっています。例えば運動をすると筋肉痛が起こりますが、このときにはインターロイキン-6(IL-6)というマイオカインが分泌され、筋肉の修復が促されます。マイオカインの種類とその働きに対する関心は高まっており、いろいろな研究が進められています。動物試験の段階ではありますが、大腸がんのリスクを減らすマイオカインがあることもわかってきています※9。『エクササイズ イズ メディスン(Exercise is Medicine)』という言葉の通り、まさに運動すること自体が薬になる可能性があるのです」(宮地先生)
これまで見てきた通り、運動には様々な健康効果があり、毎日の生活の中でできるだけ多く行いたいものです。一方、運動というと、特別なスポーツやハードなトレーニングを思い浮かべる方も少なくないでしょう。けれども、スポーツなど以外の「体を動かすこと」も、ちょっとしたコツで立派な運動になります。
「体を動かす」ことを表す言葉にはいくつかあり、代表的なものとして「身体活動」「運動」「生活活動」があるので、まずはそれらの違いを整理しておきましょう。
身体活動=安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する、筋肉の収縮を伴うすべての活動のこと。
運動=身体活動の一部で、スポーツやフィットネスなどの、健康・体力の維持・増進を目的として計画的・定期的に実施する活動。例えばジムなどで行う筋トレやエアロビクス、テニスやサッカー、バスケットボールなどのスポーツ、余暇時間のウォーキングや活発な趣味など。
生活活動=身体活動の一部で、日常生活における家事・労働・通勤・通学などに伴う活動。例えば買い物や掃除、洗濯物を干すなどの家事、犬の散歩、子どもと屋外で遊ぶなどの生活上の活動、また営業の外回りや階段昇降、荷物運搬、農作業、漁業活動などの仕事上の活動など。
できれば、ジムでの筋トレやジョギング、趣味のスポーツなどを習慣化したいところです。しかし、「運動はあまり好きでない」「忙しくて運動の時間をなかなか取れない」という人も少なくありません。その場合に、「日常的に行っている家事や仕事、通勤・通学などの生活活動を“運動化”することで、運動に近い健康効果が期待できる」と宮地先生は話します。
「生活活動の“運動化”でカギとなるのが、「強度」です。身体活動の強度は一般に『メッツ(METs)』という指標で表します。安静に座っているときに消費するエネルギーを1メッツとし、その何倍のエネルギーを消費するかで強度を表します。この強度が3メッツ以上の身体活動を行うと、運動とほぼ変わらない健康効果が得られると考えられています」(宮地先生)
例えば、料理や洗濯は2メッツで、ヨガやストレッチに近い強度です。掃除機かけは3.3メッツ、風呂掃除は3.5メッツで、ウォーキングや軽い筋トレに匹敵します。また通勤・通学、階段をゆっくり上るのは4メッツで、水中ウォーキングに近い強度。階段を速く上ると8.8メッツになり、こちらはジョギングやサイクリングよりも強度が高くなるといった具合です。毎日の生活活動も内容次第で運動に匹敵する強度になるのです。
宮地先生は「3~6メッツ程度の中強度で、軽く息が弾むような運動を継続的に行うことが望ましい」と話します。
メッツ | 運動(METs) | 生活活動(METs) |
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1 |
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2 |
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3 |
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(出典:医療基盤・健康・栄養研究所、改訂第2版『身体活動のメッツ(METs)表』成人版)
さらに、日常の生活活動を運動化する場合、ぜひとも知っておきたい重要なポイントがあります。それが体を動かしているときにそれを「意識すること」です。宮地先生は次のように説明します。
「トレーニングの原理原則の中に“意識性の原則”があります。トレーニングの内容や目的を意識して取り組む場合と、そうでない場合とでは効果が違ってくるのです※10。例えばストレッチなら、『今、太ももの裏側の筋肉を伸ばしている』と意識して行う場合と、ただポーズを真似て伸ばしている場合とではストレッチ効果に差が生じます。同様に、通勤・通学で『よし、会社まで運動のつもりでいつもよりサッサと歩くぞ』と、歩くフォームや速度に気をつけながら歩くのと、ただ漫然と歩いているのとでは、運動としての効果は異なってきます。ですから生活活動を運動化する際は、この“意識すること”をぜひ心がけるようにしてください」(宮地先生)
また、“感情”も大切だといいます。
「嫌々体を動かすとストレスホルモンが出るなどして、体にとってマイナスの影響が生じる可能性もあります。例えば、同じメッツの身体活動でもスポーツとして自発的に行う場合と、仕事で肉体作業を『やらなければならない』気持ちで行う場合とでは、前者の方が、運動効果が高いこともわかっています※11。同じ身体活動量なら、意識してポジティブな気持ちで取り組む方が運動の健康効果が高いのです」と宮地先生
身体活動を、意識することと、ポジティブな気持ちでやることの効果を実証した有名な研究があります※12。
ニューヨークのホテル客室清掃員84人を2群に分け、片方の群には、彼らがやっている仕事が良い運動なのだということと、どのくらいのエネルギー消費量になるかを説明しました。すると、説明を受けた人たちは受けなかった人たち比べて、4週間後の平均体重、体脂肪量、血圧などが減っていたのです。
清掃は運動なのだという意識と“お得な仕事をしている”というポジティブな気持ちが、ダブルでいい結果を生んだようです。
身体活動量を増やすことに加え、もうひとつ取り組みたいのが、座位行動を減らすことです。
前述したように、座位行動とは座ったり寝転んだりすることで、安静に座っている状態のメッツは1。座りっぱなしの時間が長いと様々な健康リスクが高まります。そこでぜひ習慣化してほしいのが、「ブレイク30」と「スイッチ10」です。
「ブレイク30」は、30分に1回椅子から立ち上がるというもの。30分に1回立ち上がって、座りっぱなしの状態をブレイク(中断)します。
さらに厚生労働省が「アクティブガイド2023」で勧めるのが「スイッチ10」です。
「30分に1回立ち上がったら、ストレッチをしたり、歩いてみたり、トイレに行ったり、深呼吸をしたりして、とにかく体を動かします。これを1日に計10分間行い、それまでの座位行動を身体活動にスイッチするわけです。やり方は、1回1分を10回でも、5分を2回でも構いません。あるいは1週間分の60分、休みの日にまとめて運動するという方法もあります。細切れでも、まとめてでも、自分がやりやすい方法で座位行動を身体活動にスイッチしてください。
このスイッチ効果についての研究報告はたくさんあり、我々が発表したコホート研究(注)の解析※13から、1日10分の、座位から身体活動へのスイッチで死亡率が低下するとの解析結果が出ています。世界で座位行動の時間が最も長い日本だからこそ、取り組む価値があります」
厚生労働省では「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」や「アクティブガイド2023」で、子どもや成人、高齢者ごとに推奨される身体活動量を公表しています。身体活動は、年齢や体の状態により変わってきます。下の表も参考に、自分に合った身体活動を習慣化していきましょう。
身体活動 | 座位行動 | ||
---|---|---|---|
高齢者 | 歩行又はそれと同等以上の (3メッツ以上の強度の) 身体活動を1日40分以上 (1日約6,000歩以上) (=週15メッツ・時以上) |
運動 | 座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する (立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないように少しでも身体を動かす) |
有酸素運動・筋力トレーニング・バランス運動・柔軟運動など多要素な運動を週3日以上 【筋力トレーニング※1を週2~3日】 |
|||
成人 | 歩行又はそれと同等以上の (3メッツ以上の強度の) 身体活動を1日60分以上 (1日約8,000歩以上) (=週23メッツ・時以上) |
運動 | |
息が弾み汗をかく程度以上の (3メッツ以上の強度の) 運動を週60分以上 (=週4メッツ・時以上) 【筋力トレーニングを週2~3日】 |
|||
こども (※身体を動かす時間が少ないこどもが対象) |
(参考)
|
(出典:厚生労働省、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」)
(注) 共通の要因を持つ集団と持たない集団を長期間観察し、病気や健康状態の変化を調べる研究手法
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