原因

全身疾患との関係(2)

全身疾患との関係(2)

歯周病は、さまざまな全身疾患を引き起こす可能性があります。
今回の記事では、歯周病と加齢が合わさったときに起こりやすい疾患を中心に、まとめていきます。

1.歯周病とアルツハイマー型認知症~歯周病菌が記憶を奪う!?~

アルツハイマー型認知症とは?

アルツハイマー型認知症とは?

認知症とは、正常に働いていた脳の機能が低下し、記憶や思考に影響が出る病気です。 アルツハイマー型認知症は、認知症の中で一番多く、脳の一部が萎縮していきます。 高齢になるほど、発症のリスクが高まります。

症状

  1. もの忘れが多くなる
  2. 言葉が出てこない
  3. 人や物を正しく認知できない
  4. 計画通りに行動できない

以上の4つは、軽度の認知症状です。認知症は、記憶を奪う恐ろしい病気です。

歯周病との関連

最近、歯周病と認知症の関連性が注目されています。そのメカニズムは、増殖した歯周病菌に伴い炎症性物質が増加します。この炎症性物質は血流に混ざり、全身へ運ばれ脳に到達します。アルツハイマー型認知症は脳の炎症です。運ばれてきた炎症性物質により、脳で炎症が強まり認知症が進行します。
また、歯を失うと食事の際に噛みにくくなり、噛む回数が減ると脳への刺激が減ります。このことは認知症の発症リスクを高めることも分かっています。

高齢化が進む日本では、認知症が増加していきます。
認知症を完全に治す治療法は確立されていません。進行の速度を抑える保証もありません。だからこそ、認知症を予防するためにできることから始めていく必要があります。
まずは、お口の中のケアに目を向けて、歯周病を予防することで少しでも認知症予防につなげていきましょう。

2.歯周病とフレイル~歯周病が体の老化を進行させる~

歯周病とフレイル~歯周病が体の老化を進行させる~

フレイルとは「加齢に伴い生じる体の衰弱」を意味します。
その中で、オーラルフレイルは歯と口の機能の低下のことで、老化の始まりを表すサインとして注目を集めています。オーラルフレイルは早期に発見し対処することで改善が可能です。

歯周病との関連

歯周病によって歯を失うことは、噛む機能の低下に影響を与えます。そうすると、食事量が減って栄養不足になり体の筋力が低下します。筋力が低下し、体力が低下すると、外出の機会も減ります。社会との関わりが減ると、心身ともに活力を失っていきます。このように、負の連鎖が起こるのです。

歯を守ることは、健康的に生き生きと過ごすことにつながります。

3.歯周病と骨粗鬆症

骨粗鬆症とは?

骨粗鬆症とは?

骨は常に新陳代謝が行われています。しかし、閉経により女性ホルモンが低下すると、骨をつくる細胞の力が弱まるため骨粗鬆症になりやすくなります。新しい骨と古い骨の入れ替わりが上手くいかなくなると骨はスカスカになり強度が弱まり、骨折しやすくなります。
これが、骨粗鬆症です。

原因

  1. 体の特徴→加齢、女性ホルモンの減少、やせすぎ
  2. 生活習慣→過度の飲酒、喫煙、カルシウム不足
  3. その他→服薬、卵巣摘出

骨粗鬆症は女性に多い疾患と言われています。閉経後にホルモンバランスが乱れるからです。加齢や性などは排除できない危険因子ですが、その他の因子は生活習慣によってリスクを低下させることができます。

歯周病との関連

歯周病は、顎の骨が細菌により破壊されていく感染症ですが、骨粗鬆症も顎の骨に影響を与えることが分かってきました。特に、女性のカルシウム不足は歯周病のリスクを1.5倍にあげます。また逆に、骨粗鬆症の治療をしたら歯周病が改善した例もあります。この両者の詳しい関係性は研究中の段階です。

歯周病予防と同時に、骨密度を下げない生活習慣が大切になります。

4.歯周病と誤嚥性肺炎~歯周病菌が肺を襲う!?~

誤嚥性肺炎とは?

誤嚥性肺炎とは?

誤嚥性肺炎とは、老化や脳血管障害の後遺症として、飲み込む力や咳をする力が弱まり、本来気管に入ってはいけないものが入ってしまうこと(誤嚥)で引き起こされる肺炎のことです。
せき込んだり、むせたり、たんが出るような症状は喉の機能が低下している証拠なので注意が必要です。
最新のデータでは、肺炎は死因の第5位となっています。過去と比べると、下がってきてはいますが、悪化すると死に直面する疾患なのです。

症状

  1. 食欲の低下
  2. 発言が少なくなり、元気がない
  3. 慢性的な微熱

以上の症状が現れた際は、誤嚥性肺炎を疑いましょう。

歯周病との関連

誤嚥性肺炎の原因の一つに細菌感染があります。歯周病菌を含んだ唾液があやまって肺に流れ込むことで起こります。つまり、歯周病菌が増加することは誤嚥性肺炎のリスクを高めるのです。

また、不顕性誤嚥と言って、誤嚥してしてもせき込んだり、むせたりなどの症状が現れないことがあります。
これは、喉の感覚が鈍ることにより誤嚥が起こります。気づいたときには、たくさん誤嚥していたなんてことがないよう、「最近むせることが減ったな?」などの疑問をもつことが大切です。

誤嚥性肺炎を予防するためにも、日ごろから体の変化に目を向けておく必要があります。
飲み込む力が弱くなったと感じる方は、お口の中をきれいに保つと同時に、食べ物の形態や食事中の姿勢に気を付け、なるべく誤嚥しにくい食事環境で食事をするようにしましょう。

誤嚥を予防する食べ物の形態

水やお茶などサラサラした液体は誤嚥しやすいため、

  1. とろみをつける
  2. プリン状やゼリー状にする

以上の症状が現れたときは、誤嚥性肺炎を疑いましょう。

誤嚥を予防する食事のときの姿勢

  1. 足の裏はきちんと床につける
  2. 顎は引き気味にする
  3. 腰や背中を丸めず、しっかり伸ばす

以上のような食事形態・姿勢で食事をすることで、正しく飲み込みやすくなり、誤嚥防止につながります。

また、高齢などで手先が鈍ると、フロスや歯間ブラシなどの細かい動作がしにくくなるので、汚れが残りやすくなります。必ず歯科医院の定期メインテナンスを受診し、プロフェッショナルによる歯のクリーニングを行いましょう。

5.歯周病だと風邪をひきやすい!?

歯周病だと風邪をひきやすい!?

お口の中の細菌は、コロナウイルスの感染に関係が深いのではないかと研究が進められています。インフルエンザでは、歯周病菌が出す強いタンパク分解酵素がウイルスの感染を手助けすることが分かっています。つまり、歯周病菌が原因となりインフルエンザ以外の風邪もひきやすくなる可能性があります。
インフルエンザやコロナウイルスを予防するためにも、丁寧にブラッシングをおこない細菌を排除しましょう。

まとめ

少子高齢化と言われる日本では今後働き手が少なくなり、多くの高齢者が所得や資産があっても十分な医療を受けられない可能性もあります。歯周病を予防することで、さまざまな全身疾患のリスクが下げられるのであれば、歯科医院での定期メインテナンスは未来への先行投資とも言えます。
毎日のブラッシングとプロフェッショナルのクリーニングで、歯周病を予防していきましょう。

Drコメント

  • ユースケイシカワ

    ユースケイシカワ歯科医師

    超高齢社会の日本では当然ながら高齢者に特有な病気への配慮が必要になってきます。
    そういった病気と口腔内環境は密接な関係にあり、
    疾病予防、健康増進のためにも高齢者に対する口腔ケアの重要性が見直されています。
    特に死因5位にあたる肺炎は誤嚥から生じるものも多く摂食嚥下の観点でも重要です。

  • 角 祥太郎

    角 祥太郎歯科医師

    口をケアするだけで全身にかかる医療費が3倍安くなる、という話もありますが、
    数字に現れないメンタルやコミュニケーションにも障害が出てくるようにも思います。
    口臭が気になる、前歯に自信がない、等で
    人と会うのが億劫になりメンタルを傷める方が特に高齢者に多いようです。
    しかし、日々のケアや食習慣で良くなります。諦めずに今日から気をつけましょう。

  • 岡田 真和

    岡田 真和歯科医師

    だれもが望むこと、それは人生の最期はピンピンコロリであの世に行きたい。
    そのためにはお口から栄養を摂る事が一番大切です。
    お口の中の細菌が多ければそれだけ誤嚥性肺炎のリスクも増えます。
    しっかりとお口の中をきれいにして人生の最期までおいしく食事ができるようにセルフケアを大切にしていきましょう!

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