妊娠中になりやすい症状と対策

妊娠による体の変化に伴い、さまざまな症状が起こりやすくなります。症状やその程度には個人差がありますが、妊娠中に起こりやすい症状と、その予防法・対処法をご紹介します。

つわり

妊娠がわかるころから始まり、多くは妊娠16週ぐらいには自然に治まります。吐き気、嘔吐、食欲不振のほか、食べ物の好みが変化したり、逆に食欲旺盛になったりすることもあります。症状には個人差が大きいものですが、残念ながら予防できる方法はないので、少しでも症状をやわらげられるよう工夫をしながらこの時期を乗り切りましょう。
なるべく水分だけはとるようにし、食べられるものを食べるようにします。空腹になると、より気持ち悪くなるため、こまめに少しずつ食べるといいでしょう。不安やストレスがあると、つわりが重くなる傾向があるので、この時期は栄養バランスのことなどはあまり考えず、心身ともにリラックスしてゆっくり過ごすことが大切です。
つらい場合には、症状によっては薬を使える場合もあるので、医師に相談しましょう。水分も全くとれないほど吐き気や嘔吐がひどい場合、体重がどんどん減ってしまう場合などは、点滴などの治療が必要なため、受診しましょう。

歯周病

妊娠すると、ホルモンの変化や唾液の分泌量の低下、つわりや食習慣の変化などにより、虫歯や歯周病などの口腔トラブルが起こりやすくなります。歯周病により、早産や胎児発育不全などのリスクが高まるという報告もあります。妊娠中に、歯科で虫歯や歯周病のリスクをチェックしてもらい、必要な治療やセルフケアのアドバイスを受けましょう。

貧血

鉄分は、赤ちゃんの血液を作る材料となるため、妊娠中は母体の鉄分が胎盤を通して赤ちゃんにたくさん送られ、お母さんの体では鉄分が不足しがちになります。また、妊娠後期には血液の量が増え、血液が薄まった状態になるため、鉄欠乏性貧血になりやすくなります。
貧血予防のためには、毎日の食事で鉄分の摂取を心がけ、鉄分に加えてたんぱく質やビタミンB6・B12、葉酸などをとることも大切です。鉄分のサプリメントをとることもいいでしょう。また、鉄分はビタミンCと一緒にとることで吸収されやすくなります。
食事やサプリメントだけで必要な鉄分を補うことが難しい場合は薬(鉄剤)を服用します。医師に相談した上で利用しましょう。

便秘

妊娠中は、プロゲステロンというホルモンの分泌が増加するため、腸の働きが悪くなり、便秘になりやすくなります。妊娠後期になると大きくなった子宮が腸を圧迫し、さらに腸の働きが悪くなるため便秘が悪化しやすくなります。
便秘予防のためには、食物繊維を多く含む食品や、発酵食品など腸内環境を整える食品を取り入れた食事を心がけましょう。また、十分な水分摂取や適度な運動も大切です。
生活習慣を見直しても改善しない場合は、整腸剤などの便秘薬を使うことができます。ただし、下剤の成分によっては流産や早産につながる場合があるので注意が必要です。生薬やハーブなどでも安心とはいえません。妊娠中に使える薬を医師に相談しましょう。

腸内環境を整える食品

シミ

女性ホルモンの増加や新陳代謝の活発化により、妊娠するとお肌の状態も変化します。女性ホルモンの働きでメラニン色素の分泌が増えるため、シミやそばかすが目立つようになることも。特に日光に当たるとシミが増えやすくなるため、外出時は日焼け止めや日傘などで紫外線対策をしっかりしましょう。ビタミンCをとることも大切です。

口内炎

口内炎は、免疫力の低下や疲労、ストレス、栄養不足など、さまざまな原因で起こります。妊娠によるホルモンバランスの変化、つわりによる食事の偏りや口腔ケア不足などでも起こりやすくなることが考えられます。
ホルモンバランスの変化は予防できないため、十分な睡眠、栄養バランスのよい食事、ストレス解消など、生活習慣を見直して予防を心がけましょう。口内炎の治療薬には、飲み薬、塗り薬、貼り薬、スプレー薬などさまざまなタイプがあります。市販薬を使用する前には、念のため主治医に相談しましょう。

腰痛

妊娠中期~後期になると、大きくなったおなかを支えるために体の重心が変わり、上体を反らせる姿勢になることが多いため、腰痛が起こりやすくなります。子宮が大きくなり、骨盤の周りの筋肉(体幹支持筋群)が引っ張られることも、腰痛の原因になることがあります。
予防のためには、骨盤を支えるベルトなどを着ける、座るときは背中をまっすぐ伸ばせるように深く座る、寝るときは横向きになる、などを心がけましょう。ストレッチなど適度な運動も大切です。
痛み止めを使いたい場合、薬の成分が赤ちゃんに影響する場合があるので、医師に相談しましょう。

腰痛予防のストレッチ

むくみ

妊娠中は、ホルモンの変化や体内の血液量の増加などによりむくみやすくなります。
軽いむくみは、妊娠による生理的な変化ともいえ、多くの妊婦さんが経験します。ただし、全身がひどくむくむような場合は妊娠高血圧症候群などの病気の可能性もあるため、主治医に相談しましょう。つらいむくみを解消するためには、寝るときに足を少し高くする、弾性ストッキングをはくほか、マッサージや足浴なども効果的です。食事においては、カリウムやビタミンB1、カルシウムの摂取がすすめられますが、水分制限は赤ちゃんの血液をわるくするため禁物です。

糖代謝異常

妊娠が進むと、インスリンという血糖値を下げる働きを持つホルモンの働きが弱くなり、血糖値が上がりやすくなることがあります。妊娠中に初めてみられ、まだ糖尿病には至っていない糖代謝異常を「妊娠糖尿病」といいます。食生活などに関係なく起こり、特に、家族に糖尿病の人がいる人、35歳以上の人、妊娠高血圧症候群の人などは注意が必要です。
妊娠中にお母さんの血糖値が高い状態が長く続くと、赤ちゃんが大きくなりすぎたり(巨大児)、低血糖になったりすることがあるため、食事療法やインスリン注射などによる治療をおこない、血糖をコントロールすることが必要になります。

高血圧

妊娠中に、血圧が高くなり尿にタンパクが出る病気を「妊娠高血圧症候群」といいます。もともと高血圧の人、糖尿病や腎臓病の人、初産の人、肥満の人、高齢の人などに起こりやすいため注意が必要です。
妊娠高血圧が進むと、お産の前に胎盤がはがれてしまう「常位胎盤早期剥離」や、「子癇発作」とよばれる痙攣などのリスクが高くなるため、入院による管理が必要になります。妊娠高血圧症候群のいちばんの治療は妊娠を終わらせることのため、母子の状態を見ながら出産する時期を検討します。

本文監修:日本赤十字社 葛飾赤十字産院 副院長 鈴木俊治 先生

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