久住昌之の突撃!男の仕事飯

Vol.275月病も、なんのその。栄養満点レバニラ定食で、仕事の活力を。
北千住 ここのつ「レバニラ炒め」

子供の頃はレバが嫌いだった。
子供というか、大学生ぐらいまで好きじゃなかった。
炒めたレバは、口に入れて噛むとモニュモニュして噛み心地がはっきりしない。
なのに口の中の唾液を絡め取るみたいで、やわらかいのに飲み込みにくい。
飲み込めずに口の中にあると、独特の匂いが口の中を支配する。
無理に飲み込もうとしても、素直に一丸となって喉の奥に落ちず、バラバラになってだらしなく口腔内にへばりつく。味もなんか肉とは違う妙なクセがある。
親が食卓にたまに出すので、がんばって挑戦するのだが、やっぱりダメだった。

大学生ぐらいになって、一人で外食するようになると、街の定食屋で気になるようになったのが「レバニラ炒め」だ。「ニラレバ炒め」と書いてあるところもある。
当時はマンガやエッセイの中にも、それはよく出てきた。今より学生はビンボーだった頃だ。
一番安い定食ではなかったが、値段の割に栄養がありそうな気がした。
ニラは好きだった。ニラのおひたしも、ニラの味噌汁も、ニラの卵とじもおいしい。
歯ごたえもいい。

レバの焼いたやつの嫌な噛み心地を、ニラがカバーしてくれるんでは、とも思った。
それである日、近所のラーメン屋で、思い切ってレバニラ炒め定食を頼んでみた。
そしたら、やっぱりレバはあんまりおいしくなかった。
でもニラに、かなり救われた。レバニラと言いながら、もやしもかなり入っていた。ニラより、むしろ多く入っていた。でも、もやし炒めは大好きなので、文句はなかった。
しかもニラともやしのおかげで、レバが少なめだった。これもボクには嬉しかった。
ニラともやしで、ごまかしごまかしレバを食べ、定食を平らげた。
これがちょっと自信になった。レバニラなら食べられる。

焼き鳥のレバも同じように好きではなかった。
ところが、焼肉屋でレバ刺しを食べ、これはおいしいと思った。今では食べられないレバ刺しだ。ごま油と塩で食べたのもよかった。
あのボクの嫌いな部分が、ごま油のなめらかさと香りによって、かなりカバーされていた。何度か食べるうち、積極的に頼むようになった。
そのあと、もつ焼き屋で、ブタのレバ刺しを食べた。これはにんにくネギ醤油で食べたが、感動的においしかった。牛とは全然違うさっぱりさと、コリコリさがあった。大好きになったが、これも残念ながら今は食べられない。

でもそうやって、歳をとるごとにレバの焼いたのも大丈夫になった。
牛でも豚でも鳥でも大丈夫になった。大丈夫になったけど、積極的に頼む気にはならなかった。
ところがもっと歳をとると、レバにもいろいろあり、ある種のレバ焼きには、ボクが若い頃、忌み嫌った部分がほとんどないことも知った。もちろん、ちょっと値段が高いことが多いのだが。

そういうレバ焼きなら大歓迎だ。
子供の頃から嫌いだったレバの味を、味覚が成長して克服し、全て好きになったわけではない。
ずいぶんレバ焼きに対して寛容になったとはいえ、全レバに完全に心を許したわけではない。申し訳ないが、初めて会うレバには猜疑心を持ってしまう。

と、これが、今までのレバとボクの関係だ。
そしてボクは北千住まで、レバニラ炒めを食べに来たのだった。
「究極のまかない ここのつ」という店だ。
そこの「究極のレバニラ定食」を食べようというのだ。
究極が多い。正直言ってあまり「究極の」と自分で言い放つ店には、ちょっと身構えてしまう。
自分でそんなに言わなくていいんじゃないか。究極かどうかは、他人が決めることなのではないか。
いや、そんな真面目に批判しているわけではない。
最近の傾向だ。「俺の○○○○」とかもそうだし、店の表に店主が腕組みしている写真を載せるラーメン屋もそうだ。
自信あるものは、テレず謙遜せず遠慮せず、言ったほうがいい、というのが最近の飲食店の傾向だ。
実際この店を選んだ編集者も「究極の」の言葉に惹かれて食べに行き、そのおいしさに納得して、この店をボクに紹介したようだ。
ボクが単に照れ屋で気が弱くて、内向的なのかもしれない。

さて入店して、それはもう仕方が無い、「究極のレバニラ炒め定食」を食べるしか無いだろう。
と思ったら黒板にレバニラ炒めの「ハーフ」があると書いてある。
そして、ハーフにした場合、鳥の唐揚げを付けるセットと、納豆丼をつけるセットがあると書いてある。
ボクは、レバニラハーフと納豆丼の定食にすることにした。
納豆は大好きだ。でもこんなに何十年も納豆を食べて来たが、言われてみれば今まで「納豆丼」というものを食べたことがない。
それがレバニラ炒めと合うのか。でもメニューにあるのだから、頼む人もいるのだろう。

そしてそれがやって来た。
グリーンサラダとポテトサラダとお新香が付いている。
納豆丼は、考えたら当たり前だけど、丼に入っていた。レバニラをハーフにしたわりに、ドカンと大きい印象。ボクは、レバニラがハーフ、納豆丼もハーフ、と思っていた。まあ、それはいい。

とにかくまずはレバニラだ。

レバがプリンとでかい。これは鶏のレバだ。ニラがシャキンとしている。
レバをいただく。

ウマイ!
これはおいしいレバだ。ボクが子供の頃から苦手なレバの側面がまるでない。醤油ベースの味付けもすごくいいのだろう。
もうひとかけ、今度はニラと食べてみる。
うーん、おいしい。レバとニラが噛み合ってる。両者の歯ごたえのバランスがいい。これはおいしいレバニラ炒めだ。

ボクが今回チャレンジだと思ったのは、レバニラを食べたら白いご飯を追っかけたい。でもそれが納豆丼で大丈夫か?ということだった。

大丈夫でした。
レバニラの味付けが、塩っぱくないのだ。レバニラ炒めをレバニラ炒めだけでおいしく食べられる。
それから納豆丼を食べてみた。これも普通においしい。生卵が入っている。ボクは普通、納豆を食べるときは生卵を入れない。でもこれは味付けがよくて、生卵もすごくなじんでいて、おいしかった。刻み海苔が載っているのが、生卵と響き合っていい。
誰が考えたのか、のりたまは絶妙な取り合わせなのだ。
納豆丼を納豆丼として食べながら、レバニラ炒めをつまみ食うのが、悪くない。
普通のレバニラ炒めは、白いご飯と一緒に食べて、バランスが取れる。
試しに、納豆をどかして白いご飯部で、レバニラを食べてみた。これはこれでとてもおいしい。究極のレバニラ炒め定食を、ちょっと味わった気分。

大根とニンジンのお新香もおいしい。これ、重要。
ポテトサラダとクリーンサラダも丁寧に作られている。
究極のまかない、というのも、間違っていない。まかないは、いらない飾りをつけない。まかないは、味付けが濃くない。
ただ、汁がないのが、定食として決定的に弱いな、と思って店の人に聞いたら、単純に味噌汁を出すのを忘れていたのだった。これはちょっと面白かった。
この店は「究極の」とかたくさん言ってるけど、いたって庶民的な、高飛車でない、居心地のいい店だった。

結局、ボクはやっぱり納豆丼だけ、少し残した。でもこれはボクが年齢で食が細くなっているからで、今度来たときは納豆丼もハーフにしてもらう。

いや、今度来たときは、レバニラ炒めをハーフで、白いご飯で普通に食べたい。
やっぱりそれが、ここのレバニラ炒めを一番おいしく食べられるような気がする。
でも、納豆丼の他に「梅じゃこしそご飯」というのもあり、これも絶対おいしそうだ。
でもこの味付けの感じだと、鶏の唐揚げもきっとおいしい。
さらに「本日の焼き魚」というのがあり、この日は「アジ開き」と「目抜け」だった。これも間違いないと思う。
食べ終わってみれば、やっぱりどこか北千住らしい、気取りのない、安くてボリュームもあるおいしい定食屋だった。

こんなお昼を食べたら、午後は仕事、またがんばれると思った。すごくいい男の仕事飯をいただいた。

今回ご紹介したお店はコチラ!

ここのつ

住所 東京都足立区千住旭町43-13
TEL 03-5284-9281
営業時間 月〜金11:30〜15:00(L.O14:30)、17:30〜24:00(L.O.23:30)
土曜祝日11:30〜22:00(L.O. 21:30)
(定休日:日曜日)

マンガ家/ミュージシャン 久住 昌之

PROFILE

マンガ家/ミュージシャン久住 昌之(くすみ・まさゆき)
1958年7月15日 東京・三鷹生まれ
法政大学社会学部卒。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。
1981年、泉晴紀と組んで「泉昌之」名でマンガ家としてデビュー。谷口ジローと組んで描いたマンガ「孤独のグルメ」は、各国で翻訳出版、2012年にTVドラマ化され、season6まで放送。劇中全ての音楽の制作演奏、脚本監修、最後にレポーターとして出演もしている。最新作は生まれ育った東京三多摩地区を散歩して綴った自伝的エッセイ集「東京都三多摩原人」(朝日新聞出版)1月20日発売。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2018.04.26