久住昌之の突撃!男の仕事飯

Vol.26新年度、おつかれ気味の胃に優しい仕事飯はいかが?
東銀座 好々亭(ハウハウテイ)「中華粥」

今回は銀座でお粥をたべるという。
中華粥だ。大好きだ。
初めてこれを食べたのは、20代の時だ。吉祥寺の街の百貨店的なビルの、地下飲食街にあった中華料理店だ。
カウンターだけの、ラーメン中心の店だったが、なぜか「おかゆ」というメニューがあった。大衆的な値段の店で、確かラーメンと同じような値段だった。
おっかなびっくり頼んだら、ラーメンと同じ丼に、お粥が入って出てきた。それは出汁の効いた中華粥だった。
薬味が何かのっていたような気がするが、覚えていない。ネギとか搾菜とかだけだったと思う。シンプルなものだった。
でも、レンゲですくって一口食べて、「これはいい」と思った。
その日は、ちょっと前夜の酒が残っている昼だったのだ。当時は今よりずっとたくさん酒を飲んでいた。
ちょっと荒れている気がする胃に、それはものすごくやさしい食べ物だった。
レンゲですくっては口に入れ、完食して、思わず丼の底を見つめ、うなずいた。
飲み過ぎた翌日には、これがあるんじゃないか。嬉しくなった。
カウンターだから、さっと入って食べて出られる感じもよかった。背中に壁がない店だった。
でもしばらくして、その店は閉店してしまった。ビルの地下飲食店街全体の大改装があって、その店は残らなかったのだ。階段を降りて行って、それを知った時はショックだった。

その後、駅ビルの地下飲食店街の台湾料理屋のメニューに「中華粥」を発見した時はすっごく嬉しかった。なんだ、ここにもあったのか、気がつかなかった。メニューのすごく多い店だった。
そこは肉のお粥やピータンのお粥や野菜のお粥があった。ボクはいつも野菜粥を食べてた。途中で黒酢をちょっぴりたらす。風邪気味の時とかも重宝した。
ところがそこも今はない。駅ビルの名前が変わり、経営が変わったら、無くなってしまった。
当時の地下街には、すごくいい感じのラーメン屋(「野菜タンメン」がおいしかった。スープが塩っぱ過ぎず、野菜が大切りで)や、蕎麦屋(手打ちじゃない昔ながらの街蕎麦屋。安くて、家族経営で、雰囲気がすごくよかった)もあった。それらボクの好きだった店は全部なくなった。
そしてチェーン店や大手の有名店の姉妹店ばかりになった。どこも、駅ビルに入っている店はみんな同じになっていく。それがオシャレなんだろうか。グルメなんだろうか。「人情」や「店長の毎日の工夫」のようなものは消えて、ただ無機質な「サービス」だけになって行く。
本当にこういうの、淋しい。この街が、だんだん嫌いになっていく。

その2軒に出会うまで、ボクは外食で一人でお粥を食べたことはなかった。
中華街でみんなで一つとかは食べたことがあったが。
外で食う「一人粥」は、二日酔いじゃなくても、なかなかいいもんだ。
でも夕飯じゃないな。やっぱり朝か昼。
朝粥は、からだにすっごくいいことしているような気持ちになる。

ボクにとって、お粥といえば、実家で作る鰹出汁の「おじや」だった。風邪の時とかに出てきた。
おじやは今でも好きだ。ネギを刻んで入れる。
風邪の時、おじやの熱いのをふうふうしながら食べて、布団に戻って少しすると、大量の汗が出た。多少生姜を擦り入れていたのかもしれない。それで下着からパジャマまで、全部着替えると、すごくさっぱりした。
また一歩風邪から健康に向かって浮上していくような気がした。

今回、お粥を食べたのは、なんと銀座だ。
わざわざ銀座に朝粥を食べに行くって、どうよ。都下の住民が。
どうよ、って言われても困るかもしれないけど。
そんなこと、考えたこともなかった。
午前11時、「好々亭」到着。「ハウハウテイ」と読む。
黄色い路上看板のコックさんのイラストに味がある。いい感じ。

営業時間が、平日は11時から16時までと、短い。夜は営業しないのか。と思ったら、28時までやってるそうだ。逆に銀座と思えない営業時間。すごい店だ。なぜ看板に書かない。知る人ぞ知る、でいいのか。
土日は、看板どおり、11時から23時までのようだ。

店構えは新しいが、結構古い店と読んだ。この店が入っているビルの入り口には「一般財団法人 寧波旅日同郷会館」と書いてあった。古そうだ。ビルができた時からこの店もあるような、そんな気がする。
表のホワイトボード立看板には「若鶏唐揚げのチリソース炒め」とか「豚肉とニラもやし炒め」などたくさんの定食が書いてあり、すべてライスとスープが付いて950円。
日替わりは「ニラ玉定食」ライス、スープ、杏仁豆腐がついて850円。安い。
銀座ではかなり良心的なのではないか。銀座でランチ食べたことほとんど無いからわからないが。
表にお粥とは書いていないが、担当編集者によると、もともとお粥中心の店だったという。
中に入る。奥に広い。まあ、いわゆる古くからの本格中華料理店だ。街の中華屋ではなく、テーブルの上の板が回転する丸テーブルがあるような店。
こういう店にしてランチ850円はやはり安いと思う。これはやっぱりすごく古い店なんだろう。家賃が今の銀座の平均より全然安いんではないか。なんて、勝手な読み。

さて、メニューを見ると、ランチメニューのお粥の種類がすごく充実している。

野菜粥。鶏肉粥。いか団子粥。おっと、これは聞いたことない、いか団子。
鮭粥。これも聞いたことないけど、おいしそうだ。
ピータン粥。ザーサイ粥。これは定番だ。
中華発酵豆腐粥。おお、いいねいいね。ここまで650円。安い!
のりタマゴ粥。うわーこれもおいしそうだ。ここから750円シリーズ。
豚肉粥。高菜粥。塩たまご粥。スナギモ粥。
さらに100円アップして850円の粥。しいたけ粥。そうきたか。干したのを戻したものだろうな。角煮粥。おお、ちょっとヘビーな。海鮮粥。エビやイカホタテ?ちょっといらないなあ、ボクは。お粥に求めている味とズレるような。好みだけど。
モツ粥。下手すると匂いに癖がありそう。中華街で昔食べて、ちょっとダメだったような。でも今食べたらおいしいかもしれない。
そしてアワビ粥。1500円。うわー、そうでしょう。
さらにフカヒレ粥。同1500円。そりゃそうだ。

かなり迷った。この際アワビ粥食ったろうか!とも思ったけど、踏みとどまって、もっと普通ので「中華発酵豆腐粥」をセレクト。

結果。大正解。中華発酵豆腐は、思った通り、沖縄の豆腐ようみたいなやつで、別の小皿に付いてきた。これ大好きなんだ。酒のアテにも。チビチビ食べるのが。

お粥は丼に入っていて、揚げた薄い春巻きの皮を砕いたようなやつと、刻んだ青ネギが控えめに振りかけられていた。
さらに小さな肉まんみたいなのと、見たことないつるんとした肉まんの皮のような白い饅頭?が付いている。
レンゲでお粥をすくって、食べる。うん、いい味。さらりとしている。お粥はボテボテよりサラサラが断然好き。
ふりかかってる揚げたやつが、パリパリして、でもそれが微かな感じでお粥の邪魔をしてない。中国の人って、よくお粥に揚げ物を入れますね。もっと派手に、長細い揚げパンみたいなのとか。あれがどうもボクには今ひとつ理解できない。
レンゲで発酵豆腐を削って、少しだけ粥に入れて、ちょっと溶いて、そこを食べる。ウマイ!これはいい。これにしてよかった。ニンマリしてしまう。
レンゲですくって、するする入る。朝食を食べていなかったので、おいしくてあっという間に平らげてしまった。量もちょうどいい。

編集者に「のりタマゴ粥」を頼んでもらった。そしたら、タマゴは粥に溶いてあって、ムラなく黄色いお粥だった。そこに刻み海苔がドッサリのせてある。黄色とドッサリ具合が、きれいでかわいい。海藻からできた海苔と、鳥のタマゴが合うのは昔から不思議だ。人間しかこの組み合わせは食べない。

小さい肉まんも「点心」という感じでよかった。もう一つのは、本当に中に何にもない肉まんの皮のパンのようなもので、醤油をちょっとつけて食べたらなんだか楽しい美味しさだった。辛子と酢醤油の方がよかったかな。

お粥の朝や昼は、その後、お腹の空き方がすごくいい。きれいにお腹が空く。胃袋になんにもなくなった空腹が数時間後に訪れる。次の一食を腹ペコでおいしくモリモリ食べられる。お粥のいいところだ。

しかし、この店は平日、朝の4時までやっている。夜中にもお粥が食べれるなら、終電を逃した後、タクシーで帰る前に、締めのお粥が食べられるということだ。もはや飲んだ後の締めラーメンが重くてダメになった自分には、それはかなり心強い。なんて、銀座でそんなに遅くまで飲む機会なんて、今からもう無いだろう。というか、そんな時間まで銀座くんだりで飲んでいたく、ない。

店を出て、ボクは銀座でちょこっと買い物をした。と言っても、雑誌と本だけど。この頃東京では路面店の本屋とCDショップがほとんどなくなっていて、立ち読みの楽しみがなくなっているので、これもまた散歩好きには、寂しいことだ。

今回ご紹介したお店はコチラ!

好々亭(ハウハウテイ)

住所 東京都中央区銀座6-13-7 同郷会館ビル1階
TEL 03-3248-8805
営業時間 月〜金11:00〜翌4:00(フードL.O.翌4:00)、
土日祝11:00〜23:00(フードL.O. 23:00)
(定休日:なし)

マンガ家/ミュージシャン 久住 昌之

PROFILE

マンガ家/ミュージシャン久住 昌之(くすみ・まさゆき)
1958年7月15日 東京・三鷹生まれ
法政大学社会学部卒。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。
1981年、泉晴紀と組んで「泉昌之」名でマンガ家としてデビュー。谷口ジローと組んで描いたマンガ「孤独のグルメ」は、各国で翻訳出版、2012年にTVドラマ化され、season6まで放送。劇中全ての音楽の制作演奏、脚本監修、最後にレポーターとして出演もしている。最新作は生まれ育った東京三多摩地区を散歩して綴った自伝的エッセイ集「東京都三多摩原人」(朝日新聞出版)1月20日発売。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2018.04.02