久住昌之の突撃!男の仕事飯

Vol.22何かと疲れがちな12月、優しく美味しいとろろ飯
神田 裏神田自然生村「自然薯付きランチ 牛カルビ焼肉膳」

麦とろ飯は好きだ。
あれは白いご飯でなく、麦が混じったごはんなところが本当に絶妙だ。
口の中でちょっとプチッとする食感に、とろろのネバヌルが巻き付いて、実になんとも口の中がおいし気持ちいいのだ。
白米だけのごはんにとろろをかけると、ごはんが負けてしまって、なんとも心もとない気持ちになり、よろしくない。味もなんだか頼りない味になってしまう。
仕事場の近所でも、麦とろ飯を食べることができる。牛タンチェーン店で、牛タン定食を頼むと、基本麦まじりのごはんで、もれなくとろろが付いてくるのだ。
その店で牛タン無しで、麦とろごはんとスープとお新香だけ、というのを頼んだことが一度だけある。麦とろが好きだから、それでいいと思ったのだ。
そしたらやっぱり、もの足りなかった。肉無しであらためて見ると、とろろが妙に真っ白だ。味も、出汁が効いていない。この店ではやっぱり牛タンがあってこその麦とろなんだなぁ、と痛感させられた。
それと、その店のとろろ芋は、自然薯ではない。

今回初めて知ったのだが、そもそも麦とろ飯は、自然薯を使った料理なのだ。
自然薯(じねんじょ)は、ヤマイモとも言われるが、同じようにヤマイモとかトロロイモと呼ばれる、ナガイモやヤマトイモとは別種で、唯一日本原産の種だ。
調理に際して他のヤマイモと大きく違うところは、皮ごと擦って食べるところだ。
だから真っ白なとろろは、自然薯ではないと思っていいかもしれない。

ボクは数年前、東京から大阪まで歩いたことがある。と言っても通しではなく、月に一度、歩いては戻ってきて、翌月に歩いたところまで電車で行って、続きを歩いて戻ってくるという繰り返しで、25ヶ月かけて歩いたのだが。
地図は見ない、下調べもしない、というルールで行ったので、道中、何度も道に迷ったり逆走したりした。
東海道を歩くと決めたわけでもないが、東へ東へと歩いて行くと、自然に何度も旧東海道を歩いていて、昔の宿場町も通り過ぎた。
その時に悔しかったのが、静岡の鞠子(まりこ)宿で「丁子屋(ちょうじや)」の看板を見ながらこれを通り過ぎて歩いて行ったことだ。
戻ってきて、何気なく広重の東海道五十三次の丸子(鞠子)宿のところを見たら「名ぶつ とろろ汁」と書かれた茶屋が描かれているではないか。
そんなに昔から続く鞠子のとろろ汁のすぐ脇を、みすみす通り過ぎていったのだ。
しかもその時の昼は、国道沿いの全然おいしくないラーメン屋で食べてしまった。
後の祭りとはこのことで、調べたら「とろろ汁」とはまさに麦とろ飯のことで、自然薯が使われていて、「丁子屋」の開業は戦国時代という。
ここのとろろは、味噌と鰹節と生卵で味つけるという。なんと味噌仕立て!食べたこと無い。ああ、うまそう。
麦とろ飯好きとしては、そういうのをネットで読んで、地団駄を踏む気持ちだった。

昔話が長くなってしまった。
今回の仕事飯は、裏神田(そういう呼び名があるの初めて知った)の「自然生村」である。村と言っても、もちろんそういう店名だ。
でもそういうからには、うまい自然薯を食べさせてくれるに違いない。
店舗はかなり古そうだった。でも古そうなところに、さらにレトロなホーロー看板とかを貼って、もっと古そうにしている。
「全てのランチに自然薯とろろ付」と書いてある。
ランチメニューは三種類。「まぐろの香味竜田揚げ膳」「大粒カキフライ膳」「牛カルビ焼肉膳」。全て850円。

店に入ると、広島カープ関係のものがたくさん目についた。どうやら店長は熱狂的なカープファンと思われる。カウンターには「カープ梅酒」が並んでいた。
レトロとも村とも、関係なくカープなようだった。面白い店だ。

席につき、メニューを迷う。季節柄、カキフライにすごく惹かれたが、頭の中ではとろろが主役だ。カキフライは主役を食ってしまうのではないか。やめよう。カキフライは、とろろ無しに食べよう。
まぐろ立田揚げもかなりいいと思うが、しばらくまぐろの刺身を食べていないことを思い出し、うまいまぐろの刺身で白いごはんが食べたいなあ、と思ったら、立田揚げがボクの中で残念に思えてきた。
そういうわけで、消去法で牛カルビ焼肉膳に決定。
まったく、食べる人の心は勝手なもんだ。お店をやる人は、ランチメニューを考えるのも大変だなぁ、と人ごとながら思う。

そうして、目の前に出てきた牛カルビ焼肉膳。牛カルビ焼肉には、たっぷりの生野菜が添えられていて、お新香と味噌汁と、温泉卵一個と、自然薯とろろ。
自然薯とろろが、やや少ないかなあとも思えたが、これで850円はすごく安い!
肉もあるんだから、とろろもこのくらいで丁度いいのかもしれない。と思ったら、メニューに「おかわりととろ 200円」とあった。なんだか安心する。
ごはんはもちろん麦まじりだ。
これはヘルシーなランチじゃないか。女子好きしそうだ。
壁には自然薯の効能がいろいろ書いてある。こういうのを読みながら食べると、どんどんからだにいいことをしているような気持ちになってくる。

いただきます。
まずは焼肉でごはんを食べる。ウマイ。腹が減っているのを自覚。一口食べてから空腹がわかる時はあるものだ。
肉とごはんを飲み込んでから生野菜を食べる。うん。
味噌汁を一口啜る。うん、ちゃんとおいしい。

さてとろろだ。茶色っぽくて、皮の破片だろうか、褐色の小さな粒粒も入っている。いかにもの、自然薯だ。
おっと、かなりポッテリしている。水っぽくない。いいぞ。ちょっとそれだけで食べる。うまい。味がついている。醤油はいらないな。
麦ごはんにかける。食べる。・・・これだぁ!おいしい。

肉を食べる、生野菜を食べる。ごはんを食べる、味噌汁を飲む。
またとろろ飯を食べる。あんまり焼肉と、とろろ飯を一緒に食べたくない気持ち。
温泉卵を食べるタイミングが難しい。どう食べる。どう使う。このままでは食べ損ねて最後まで行ってしまうことが危惧されたので、とりあえず器に割り落とす。
とろろごはんがおいしい。とろろに生卵を落とす人もいるが、自分はあまりそれは好みではない。結局、温泉卵は、ちょっと醤油をたらして、ごはんにはのせることなく、おかずとしてちゅるちゅる食べた。

最後はとろろごはんで締めて、きれいに食べ終えた。とろろが足りなくなる、ということも無かった。
あっという間だった気がする。
食べ終わっても「ヘルシーなことをしたな」という気持ちが残ったから、これは近所のOL女子にウケるだろう。
いや、男の仕事飯としても、安くてしっかり食べ応えもある。
うまかった。ごちそうさま。

今回ご紹介したお店はコチラ!

裏神田 自然生村

住所 東京都千代田区内神田3丁目17-6 小山第3ビル1階
TEL 03-3251-0833
営業時間 11:30〜14:00(L.O.14:00)
17:00〜23:30(L.O.23:00)(定休日なし)

マンガ家/ミュージシャン 久住 昌之

PROFILE

マンガ家/ミュージシャン久住 昌之(くすみ・まさゆき)
1958年7月15日 東京・三鷹生まれ
法政大学社会学部卒。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。
1981年、泉晴紀と組んで「泉昌之」名でマンガ家としてデビュー。谷口ジローと組んで描いたマンガ「孤独のグルメ」は、各国で翻訳出版、2012年にTVドラマ化され、season6まで放送。劇中全ての音楽の制作演奏、脚本監修、最後にレポーターとして出演もしている。最新作は生まれ育った東京三多摩地区を散歩して綴った自伝的エッセイ集「東京都三多摩原人」(朝日新聞出版)1月20日発売。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2017.12.01