久住昌之の突撃!男の仕事飯

Vol.20まるまるプリプリ、ホックホク。
鎌倉 灯り「アジフライ定食」

鎌倉で定食を食べてきた。
鎌倉には数人、友人が住んでいて、なんだかんだで年に何度か行く。
2年前には、鎌倉のカフェからオファーが来て、ライヴをやりに行った。
湘南新宿ラインができたので、ボクにとっては行きやすくなった街だ。
でもこの店には行ったことがなかった。

JR鎌倉駅の東口で、小町通りなどのある方とは反対側で、住宅街のような場所にあり、観光客相手というより、完全に地元客メインの店のようだ。ボクはそういう店が好きだ。見たことないようなメニューで目を引くより、何度も食べたい料理が出されるからだ。
木の看板には「AKARIDining」とあった。その文字の字体がハワイっぽい。ハワイっぽい、どでかい木の人形が置いてある。

店内に入ると、さらにハワイものがいろいろ飾ってあった。店主がハワイ好きなのかもしれない。あと車が好きそうだ。
店の前面がガラスなので店内は明るい。テーブルも広く、ゆったりしている。
定食屋、という雰囲気ではない。でも、レストランという感じでも、カフェという感じでもない。なんだろう、不思議な居心地のよさがある。
カウンター席もあり、さらに座敷もあった。

編集部の一人がイチ押しのメニューがあり、それが「アジの梅しそフライとオニオンフライ定食」だった。
人気で、遅く行くと無くなってしまうそうだ。
だから編集者が頼んで、とっておいてもらっていた。
そうまでされたら、それを頼むほかない。
他のランチメニューには、
「限定熊本霜降り馬刺しと揚げ物の定食」1700円
「豆腐ハンバーグとしょうがご飯定食」1050円
「限定オホーツク産ホタテ丼と揚げ物定食」1200円
「国産若鶏唐揚げ2ピース定食」950円
「鶏団子とスープ柚子胡椒風味定食」1050円
「豚肉のしゃぶしゃぶサラダ定食(胡麻orシーザー・イタリアン)」1000円
などがあった。

メニューの品名がどれも長いのが面白い。
店主が長い名前が好きなのだろうか。つい、長くなっちゃうのだろうか。
ボクはメニューを読むのが好きだから、こういうメニューは嫌いではない。
メニューには店の歴史と、店主の考え方が現れている。
ボクがチェーン店をあまり好きでないのは、メニューからそういうものを排除しているからだ。そのくせ料理の写真がやたらキレイだったり。そして出てきた現物が、たいてい写真より貧弱だったりする。
ちなみに、ネットで調べるとこの店は「居食屋灯り」とも書かれていた。店主のハワイ趣味が高じて、アルファベットになったのだろうか。そういうところを「読む」のも、個人店は楽しい。だから個人店には長く生きのびて欲しい。そして長く生きのびた店は、必ず時に磨かれたいいところや、他では食べられないおいしいものが見つかる。

ボクは、個人的には「豆腐ハンバーグとしょうがご飯定食」か「鶏団子とスープ柚子胡椒風味定食」が食べてみたかった。
「梅しそ」というのは誰もが一度は通る道だ。初めて食べた梅しそには、ちょっとびっくりして、ああ、こういう食べ方もあるのか、と感心したものだ。だが、最近は梅しそを「卒業」したのか、ずいぶんご無沙汰している。梅しそは、あってもいいが「プレーンが食べたい」という気持ちが梅しそを避けている気がする。

先日はドラマ「孤独のグルメ」の撮影で、千葉の内房・金谷で、最高にうまいアジフライを食べた。主人公の五郎も食べてたやつだ。金谷のアジフライ、本当においしい。身が厚くフカフカで、ソースで食べても、醤油で食べても、塩を振って食べてもウマイ。

でも、だから逆に、今日は久しぶりの梅シソで、期待して待った。
出てきたものを見て「おおっ」と目をみはる。

アジが丸々と太って大きいのが二匹。アジフライというと開かれたものが普通だ。金谷で食べたのも、もちろん開きだった。だが、ここのは魚の形のまま頭がないフライだ。
それと分厚い玉ねぎのフライ。中皿のサラダ。小皿のお新香と、もやしのナムルみたいの。そしてワカメとネギの味噌汁。
ご飯の盛りがやや少なめだが、お代わり自由。味噌汁も。ボクはこのぐらいの量のご飯で十分だ。
まず味噌汁を一口すする。
おいしい。ここ、大事。汁と香の物がおろそかにされている店は、サビシイ。

そして、アジにかぶりつく。

おお、梅シソ、そういうことか。開いていない魚の内側に入っていた。
これは、おいしい。

何もつけないでよい。内側から滲み出る梅の塩分と香りで、アジの柔らかい身が抜群に味付けされている。何より、梅シソされてなお、アジが新鮮なのがよくわかる。身がウマイ。これにご飯がバッチリだ。このご飯が、粒が立っていてうまい。炊き具合がいい。

次に玉ねぎフライにはソースをつけてかぶりつく。いいじゃないかいいじゃないか。
これは金谷のアジフライとは、比べられない。これはこれですごくおいしい。同じアジフライでも、別の料理みたいだ。

ご飯と梅しそアジフライ、ホクホクすすむ。
そういえば、こういうお昼ご飯を食べていなかったなぁ、と思う。

そういえば、鎌倉が海辺の街であることを、急に思い出す。
昔鎌倉に住んだ文士たちも、市場でうまい魚を買って食べたと、いろんな文章で読んだ。それを読むたびに、鎌倉に住むことに憧れたものだ。
サラダのドレッシングも、さっぱりしておいしい。もちろんこういう場合、サラダはキャベツ中心であってほしい。そこにトマト、水菜、コーンが細かく切ってちりばめてある。地味だけど丁寧で、おいしい。

食事している間、店の中ではソウルのダニー・ハザウェイのライヴが控えめにずっと流れていた。ボクはダニー・ハザウェイが大好きで、「ダニー・ハザウェイ・ライヴ」というアルバムは大学生の時、LPでそれこそ擦り切れるほど聴いた。一番聴いたアルバムかもしれない。でもこの店でかかっていたのは別のライヴで、だからすごくウキウキ食事ができた。思わぬ所で思わぬ時間に好きな音楽が流れるとすごく嬉しい。

しょうがご飯や鶏団子のスープにも惹かれたけど、やっぱり今日のところはアジの梅しそフライにしてよかったと思った。
夜来たら、どんな感じなんだろう。
常連さんや家族もので賑わっているのかな。
カウンターに一人で来た若い男性客が、店の人たちと、ハワイや車の話をしながら楽しげに飲んでる様子が目に浮かんだ。

今回ご紹介したお店はコチラ!

灯り

住所 神奈川県鎌倉市御成町13-16
TEL 0467-61-4575
営業時間 11:00〜14:00(L.O.)
17:00〜21:00(L.O.)
(定休日:月曜日)

マンガ家/ミュージシャン 久住 昌之

PROFILE

マンガ家/ミュージシャン久住 昌之(くすみ・まさゆき)
1958年7月15日 東京・三鷹生まれ
法政大学社会学部卒。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。
1981年、泉晴紀と組んで「泉昌之」名でマンガ家としてデビュー。谷口ジローと組んで描いたマンガ「孤独のグルメ」は、各国で翻訳出版、2012年にTVドラマ化され、season6まで放送。劇中全ての音楽の制作演奏、脚本監修、最後にレポーターとして出演もしている。最新作は生まれ育った東京三多摩地区を散歩して綴った自伝的エッセイ集「東京都三多摩原人」(朝日新聞出版)1月20日発売。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2017.09.29