久住昌之の突撃!男の仕事飯

Vol.18【特別編】夏の夜のお供に!
高輪台 壇太「餃子」

餃子は大好きだ。餃子でビールを飲むのも好きだし、餃子をオカズに白いご飯を食べるのも好きだ。
中国では、餃子とごはんを一緒に食べると笑われるという話には驚いた。餃子の皮はごはんの役目をしているので、さらにごはんを頼むのはおかしい、というのだ。餃子という食べ物のとらえ方のあまりの違いに、頭の中がひっくり返った。
そう言われれば、わかるような気もする。でもボクはやっぱり餃子ライスは好きだ。醤油に酢をたらし、一味をふって(ボクは近年あまりラー油は入れない)、それに餃子をつけてがぶりと半分食べ、残り半分の断面にまた少しタレをつけてごはんと一緒に食べるのはタマラナイ。
だから、というか「ジャンボ餃子」がずっと嫌いだった。箸で持て余すような大きな餃子は、食べにくくて、なんだか憎らしい。
餃子は小振りな方がいい。…「舟歌」みたいだな。
でも餃子はこういうのでなくちゃ嫌だ、というようなことはあまり無い。
皮が自家製手打ちで、厚めでもちっとしたのもおいしい。
でも薄い皮で、中身がちょっと透けて見えているようなのも、おいしい。
皮がちょっと揚げた感じにぱりっとしてて、食べると肉汁が出るようなのも好きだ。
餃子のタネも店や家庭によって千差万別だ。
豚ひき肉とキャベツ千切りのみという潔い人もいる。
キャベツのかわりに白菜、という人もいる。キャベツも白菜も入れる人もいる。
そこにニラが加わる。シイタケが加わる。
もちろんそこにすりおろしたニンニクをガツンと加える人もいるし、匂いを気にしてニンニクは一切入れない人もいる。

もちろん大前提で、焼き餃子と水餃子とがある。でも今日書いている餃子は焼き餃子のこと、としたい。
かように、餃子と言っても千差万別だ。
で、ボクはどの餃子もそれなりに好きだ。
餃子に関しては、ジャンボ以外あんまりこだわりがないのかもしれない。というか、無頓着と言ってもいいかもしれない。
でも好きだ。
餃子の国、宇都宮の餃子も、店によって少しずつたしかに味が違って、どこもたしかにおいしかった。さすがレベルが高いと思った。
消費量を宇都宮と競う浜松の餃子は、茹でたもやしをたくさん一緒に食べるスタイルが、大好きだ。店で隣りに座った3人家族が、ビールを飲みながら一人何皿も食べ、さらに餃子ライスを頼んでシメているのを見たときは、さすがだなあと思った。
昼間のラーメン屋で、餃子をツマミに、冷たい瓶ビールをコップに注いで飲んでから、ラーメンを食べるのも楽しい時間だ。

前置きがいつも長くなってしまうが、今日餃子を食べにいったのは、宇都宮でも浜松でもない。高輪だ。
高輪。タカナワ。用事のない街だ。高輪プリンスホテル、というのは知ってる。いや、名前は知ってるけど、泊まったことは無い。何か高級感のある街のイメージがある。そこに餃子を食べに行く、というのにちょっと違和感がある。でもそこがちょっと面白い。
駅は都営浅草線の高輪台。五反田で地下鉄に乗ったら、なんとひとつ目だった。なんだ。ほとんど五反田。ゴタンダなら、餃子が似合うような気がする。
って、なんて偏見のカタマリだ。すいません。

高輪台、地上に出て少し歩いた路地を入ったすぐのところにその店はあった。「壇太」。入口の木の格子戸がいい感じに古くて風格ある。でも気軽な感じもする。看板に「居酒屋 餃子 壇太」とだけあるのが潔い感じで、いいな、と思った。きっとウマいに違いない。
この連載の担当者のひとりが、テニスの帰りにくるそうだ。テニスか。ちょっと五反田だな。って、また偏見。今回は5人がやってきた。
ボクを入れて6人で店に入った。開店同時なので、最初の客だったが、ここは人気店で、予約しないと入れないことも多いと言う。

店内は結構広い。テーブル席についたら、担当者が
「飲み物はどうしますか」
と言う。問答無用。
「じゃ、生ビールで」
反射的に言ってしまった。ごはんという選択は無い感じだった。
テーブルにジョッキが6つ並んだ。外はまだ明るい。
めいめいジョッキを持ち、自然に乾杯した。
これは仕事飯の連載ではないのか。
まあ、こういう流れなんだ、今日は。しかたない。
しかたないという割には大胆にゴクリ、ゴクリと飲んだ。
冷たいビールが、口の中で味わわれることもなく、喉の奥に送り込まれた。食道を通って、胃袋に落ちて行く。
「アー!」
息をついた、ウマイ。ウマさがあとから口の中に広がる。夏のビールだ。今日も外は暑かった。そうだ、日の高いうちは机に向かい、一応仕事もしてきた。ここには「取材」という気持ちでやってきたが、その気持ちが早くもぐずぐず崩れていきそうだ。「ま、いいか」という気持ちさえ芽生えてる。みんなも嬉しそうだ。その笑顔が、ますます仕事という緊張感を弛緩させていく。

そして餃子が来た。なんとひとり一皿づつ。一皿6個。テーブルの上には合計36個の餃子が並んだ。できたてだ。熱々だ。焦げ目が美しい。好みの小振り。いかにもウマそうだ。

最初、何もつけないで半分食べてみる。
ウマイ。皮は割とかりっと焦げ目がついている感じで、ニラが入ってる。キャベツも入ってる。肉も肉汁が適度にじわっとして・・・、いや、やめよう。そういうのは、インターネットの食べ物サイトにいくらでも出ている。
見た目通りにウマい餃子だ。酢醤油をつけて食べた。これまたウマい。

ビールにバッチリだ。もうライスはいらない。
もうひとつ。軽い。こういう餃子、好きだ。
もう一個。うん。
ビールを飲んで、口の中を洗って、もう一個。
気がつけば、一皿ほとんど一気に食べきってしまった。
こんなことは久しぶりだ。
はっとして、テーブルを見れば6枚の餃子皿には、ほとんど餃子が残っていない。みんな、一気に一皿食べていた。
さらに3皿の餃子を注文。ビールのお代わりも。
しかも、一皿6個で420円。安い。これはいい。
このあとは、餃子以外のいろんなものを注文した。餃子以外の料理も豊富だ。しかもどれもおいしい。なんとラーメンまである。別の酒も飲んだ。
でもその話は割愛する。

ボクがビール片手に一皿ひとりで一気に餃子を食べた、というだけで充分だ。それだけおいしい餃子だったのだ。でもすごい御馳走感があるわけではない。そこがいい。親しみのある餃子だった。仕事飯として、すごくいいと思う。一気に食べてわかったが、たしかに中国の人が言うのはわかる。餃子は、一品でごはんとオカズの役割を果たしている。ここが飲み屋じゃなかったらもっともっと食べて、餃子だけでお腹いっぱいにしたいかもしれない。
だけど、仕事のあと、餃子を食べて、ビールを飲む。そしたら元気が出る。仕事飯の基本じゃないか。餃子っていいなぁと、あらためて思った。
店を出る頃は、店内は客で一杯だった。予約の電話もひっきりなしにかかってきていた。すっかりいい気持ちになって、表に出た頃は、ここが高輪であることもすっかり忘れていた。

今回ご紹介したお店はコチラ!

壇太

壇太(だんた)

住所 東京都港区高輪3-7-14
TEL 03-3442-8386
営業時間 17:30〜24:00(L.O.23:30)(定休日:日曜・祝日・第3土曜)

マンガ家/ミュージシャン 久住 昌之

PROFILE

マンガ家/ミュージシャン久住 昌之(くすみ・まさゆき)
1958年7月15日 東京・三鷹生まれ
法政大学社会学部卒。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。
1981年、泉晴紀と組んで「泉昌之」名でマンガ家としてデビュー。谷口ジローと組んで描いたマンガ「孤独のグルメ」は、各国で翻訳出版、2012年にTVドラマ化され、season6まで放送。劇中全ての音楽の制作演奏、脚本監修、最後にレポーターとして出演もしている。最新作は生まれ育った東京三多摩地区を散歩して綴った自伝的エッセイ集「東京都三多摩原人」(朝日新聞出版)1月20日発売。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2017.08.10