久住昌之の突撃!男の仕事飯

Vol.15GW明けのカラダを起こすエネルギーご飯
阿佐ヶ谷 キッチン男の晩ごはん「レバーのしょうが焼き丼」

「孤独のグルメ」の主人公・井之頭五郎は、ドラマでもマンガでも、すごく大食いだ。
だから、原作者であるボクも、食いしん坊の大食いと思われがちだ。
でも事実は違う。ボクは昔から小食のほうだ。何でもいっぱい食べられる男は、ボクの憧れなのだ。

マンガ家あるいはその原作者なんてものは、たいていコンプレックスを抱えていて、それを吹っ飛ばすような主人公を描きたいものなのだ。子供の頃いじめられていたマンガ家が無敵のスーパーヒーローを描く気持は、すごくよくわかる。

ミュージシャンでも画家でも小説家でも、そういう「憧れ力」は絶対必要だ(まれにそういうものをまったく必要としないで傑作を作り出す本物の天才がいるが)。

話は反れたが、もともと小食な上に、最近は加齢も加わって、ますます量を食べられない。

酒を飲んだ後、夜中にラーメンを食べることが、いつの間にか無くなった。飲んだ後にラーメン食べる余力が、この胃袋にはもう無い。

スープの表面に3ミリぐらい油膜が張った背脂トンコツラーメン、若い頃は嬉々として食べたものだ。だがもうそういうラーメンを出す店には、少なくともひとりでは、一生入らないだろう。たまに無性に食べたくなるけど。

脂したたる分厚いステーキなど、見るだけでうんざりする。霜降りの牛肉より、サイコロに切ってもらった赤身を、大根おろしとポン酢で130gも食べれば十分に満足する。
「大盛りでお願いします」という言葉をボクの口が発することは無いだろう。

ラーメンもパスタも丼物も、器が小振りだと嬉しい。
歳だ。歳をとったのだ。残念だがしかたがない。来年還暦なのだから。
そんなボクに、この連載の編集部が指定してきた店が、この店だ。

「男の晩ごはん」。見た瞬間に、これは若者の店だと思った。みなぎる体力を持った男の食欲に、ドスンと答える店だと思った。ボクが黙って通り過ぎる店だ。この連載の、あのボリュームたっぷりの豚肉生姜焼き定食における、かなしい敗北を思い出す。なんでこんな店をあてがうのだろう。

いじめだろうか。いや、わからないのだろう。自分が老いるということが。自分が今より食べられなくなるイメージが、まったくわかないのだろう。ボクも三十年前はそうだった。それが若さだ。ボクは今、十年後にもっと食べられなくなっている自分が、まざまざとわかる。

今回、前フリが重い。すみません。いや、そうなんだ、店を悪く言うつもりは、まったく無いんです。ボクだって、若い頃なら喜んで飛び込んだだろう。店の前に来ると、いかにもおいしそうな匂いがする。しかし、その開け放った扉の横にある、おびただしいメニューを見た時、すぐにこの中に自分でもしっかり食べられる定食があるだろうかと、不安になったのも事実だ。

そのネーミングだけでお腹がいっぱいになってきそうだ。「満州トロトロ担々油そば」「スタミナ野郎丼にんにくミックス」「スタミナ野郎男カレー」「スタミナ野郎ファイアードラゴン」「殿様ランチ」最後のには笑った。もうネーミングがすでに大盛り満腹仕様だ。すべてのメニューには写真が載っている。全部に温泉卵がのっている。丼の端に少なくとも二枚のフライが突き立っている。入口の両側に数十のメニュー写真が出ている。

今日の作業はまずこの中から自分の食べられそうなものを探すことだ。ナポリタンももちろん大盛りでさらに上に温泉卵のようなのがのっている。とにかく徹底していて、ごはんはデフォルトで大盛りになっている。このシリーズで、一番メニュー選びに時間がかかった。結局「レバの生姜焼き丼」にした。ごはんは少なめにしてもらおう。店に入ると、お昼時を過ぎていたので、混んではいなかったが、客はやはり若い男か、肉体労働系の中年男性だった。

皆さん、丼の端にフライを立てているから「スタミナ野郎丼」系のものだろう。

さて、やってきたレバ生姜焼き丼。思ったより大きくなく、威圧的ではなく安心した。何をビビっていたのだ。しかも、たっぷりの玉ねぎと少量のニラが入っているのが嬉しい。そして、レバがプリプリでうまい。味付けも、ごはんにバッチリな生姜しょうゆ味。濃すぎることも塩っぱすぎることもなく、すごくいい。

レバ炒めといえば「レバニラ炒め」だ。だがボクは、一緒に食べるなら玉ねぎの方がむしろ好きだ。レバの食感を玉ねぎの歯ごたえが実によく中和させる。

そう、子どもの頃、レバがダメだったのは、食感だ。噛んでると口の中でぐちゃぐちゃしてきて、レバが舌や口の中にまとわりつくようで、飲み込みにくい。飲み込みにくいと思っていると、レバ特有の臭みみたいなのが口に広がる。

あれがダメで長いことレバは苦手、というより嫌いだった。大人になるにつれ、あまりぐちゃぐちゃしないプリッとしたおいしいレバを知り、レバニラ炒めとライスのおいしさもわかってきた。

さらに言えば、酒を飲むようになって、レバ刺しのうまさを知った。牛のレバ刺しもおいしいのは本当においしいが、僕はにんにく醤油で食べる豚のレバ刺しの方が、コリコリしていて好きだ。今は法令で食べることができない。いいじゃないか!自己責任で食べさせろ!と言いたいが、まあ、他にも食べるものはたくさんあるからと、諦めている。

また話が反れた。この「レバタマちょいニラ」、うまい!おいしくて嬉しくなった。しかも、レバタマちょいニラとごはんの間に、キャベツの千切りが入っているではありませんか!こいつぁ驚いた。キャベツ好きなボクには最高のサプライズ!

うーん、こんな千切りキャベツの使い方があったか。熱でちょっとしんなりした千切りキャベツも、悪くない。この丼は、かなり好みだ。レバと玉ねぎとニラとキャベツが、渾然一体となって、ごはんをうまくする。ごはんが進む。いいことだ。このニッポンの食事において「ごはんが進む」は、正義だ。味噌汁はワカメとネギ。直球。

でもやっぱり食べ進むと、塩気が多いのか喉が渇いて、水が欲しくなる。この時の飲む水が、またウマイ!そうそうそう、こういう丼物を勢いで食べた時の、水ってウマイんだ。思い出した。どこそこのミネラルウォーターでなくていい。水道水でいい。それが、うまい。

食べ終わるまでに水、2回お代わりした。久々の満腹。壁の張り紙に「『キッチン男の晩ごはん』は、お客様の満腹・満足・満面の笑顔のために日々努力しています!」と書いてあった。

正直、満腹すぎて、満面の笑顔になれたか心配だが、おいしかった。仕事飯としては、胃袋に血液が集中しすぎて、脳の方が血が足りなくなり、ちょっとすぐには仕事ができないレベルだ。

仕事場がわりと近くでよかった。電車で戻って、仕事場に戻ると、ソファで1時間ぐらい横になっていた。でもこなれたら、今夜はガッツリ仕事ができそうな気がする。

今回ご紹介したお店はコチラ!

キッチン男の晩ごはん 阿佐ヶ谷本店

住所 東京都杉並区阿佐谷北2-12-22 TYビル1F
TEL 03-5373-8337
営業時間 10:00〜翌1:00(L.O) ※売り切れ次第で早仕舞いあり
ランチ営業、定休日なし

マンガ家/ミュージシャン 久住 昌之

PROFILE

マンガ家/ミュージシャン久住 昌之(くすみ・まさゆき)
1958年7月15日 東京・三鷹生まれ
法政大学社会学部卒。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。
1981年、泉晴紀と組んで「泉昌之」名でマンガ家としてデビュー。谷口ジローと組んで描いたマンガ「孤独のグルメ」は、各国で翻訳出版、2012年にTVドラマ化され、season6まで放送。劇中全ての音楽の制作演奏、脚本監修、最後にレポーターとして出演もしている。最新作は生まれ育った東京三多摩地区を散歩して綴った自伝的エッセイ集「東京都三多摩原人」(朝日新聞出版)1月20日発売。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2017.04.26