久住昌之の突撃!男の仕事飯

Vol.14山椒の刺激がやみつき!次の仕事の活力に。
人形町 汁なし担担麺ピリリ「汁なし担担麺」

ボクは、考えてみたら「汁なし担々麺」って、最近あまり食べていないことに気づいた。
昔の方がもっと食べていた。
なんでか、考えてみた。

まずは残念ながら、歳をとったってことですね。すごく辛いものとか、刺激が強いものに、あまり興味がなくなってきた。激辛とか、コップまでキンキンに冷えたビールとか、全然そそられない。
あれは味じゃなくて、刺激を求めている気がして。歳をとると、刺激だのスリルは避けるようになるもんなんだな。そういえばジェットコースターに乗ってる老人も見たことがない。どうせもうすぐ死ぬんだから、死ぬような思いしなくていいじゃないかって、思うのだろうか。

いや、汁なし担々麺がそこまで辛いものとは思っていないですよ。
でもドラマの「孤独のグルメ」で行った池袋のお店の汁なし担々麺は辛かった。悔しいけど完食できなかった。辛いことも辛かったが、舌がしびれるのも強烈だった。あの汁なし担々麺が、今のボクからそれを遠ざけているのかもしれない。

あとはやっぱり、何か変わったものを食べるのに、わざわざ遠出しなくなったということだな。仕事が忙しくなったからというのもあるけど。面倒臭くて、近場ですますようになってしまった。そうすると、近くに美味しい汁なし担々麺を食べさせる店がないのだ。

それと、もうひとつ。若い頃より大好きなラーメンを食べる回数が減ったので(食べる機会が減ったこともある)、ラーメンと汁なし担々麺があった場合、どうしてもラーメンの方を取ってしまう。汁が欲しいんだ。そもそも味噌汁とかスープとかおでんの汁とか鍋の最後の汁とか、汁もん好きなんです。汁のないの食べていると、途中で汁のあるのを食べている人が、すごく羨ましくなる。
この「人のをうらやましがって食べてる自分」ってのがすっごい嫌なんです。
そんなこんなで、汁なし担々麺とはご無沙汰しちゃっているのだった。
だから今回、水天宮前の汁なし担々麺、汁なし担々麺離れしたボクを、再び汁なし担々麺に近づけてくれるのかどうなのか、ちょっとドキドキなのだった。

店の名は「汁なし担々麺 ピリリ」。
直球だ。かわいいけど、ヒネリなし。
ビルの2階にある、まだ新しいお店だ。
階段登ったら、オシャレな店。
ドアを入ると、そこのスペースがガランとしてて、そこに観葉植物がポーンと立ってる。並んで待つ人用の木製の洒落たデザインの椅子がトントントンと窓際に並んで。
ラーメン屋のごちゃごちゃした雰囲気がまるでない。ボクはあのゴチャゴチャに落ち着くんだけど。
で、落ち着かないままキョロキョロしたら、正面に小さな自販機がある。自販機というところは洒落てないが「小さな」というところがちょっと洒落てる。

自販機の押しボタンを見ると「白胡麻担々麺」と「黒胡麻担々麺」とがメインのようだった。値段は同じ880円。ボクは先に書いてある「白胡麻担々麺」を頼んだ。迷ったら隅イチ。
他に「汁あり担々麺」もあった。ちょっと惹かれるが、ここは王道だろう。「坦々しらたき」というのもあった。「カロリーオフ、糖質オフで、ヘルシー」と書いてある。ラーメン屋に来てこういうのを見ると「やかましいわ!」と思う。が、お洒落な店なので、さもありなんだ。「子供担々麺」というのもあった。これ、いいかもしれない。大人が頼んだらだめですか?

あと「肉増し」「野菜増し」「麺増し」「全部増し」がある。
さらにトッピングに「パクチー」「白髪ねぎ」「ミョウガ」「シャキシャキ玉ねぎ」があった。ボクは「パクチー」と「ミョウガ」を選んだ。両方大好き。ミョウガは本来夏のお楽しみだが、あるならいただいてみよう。「ライス」「温泉卵」「激辛」はいらない。

飲み物に「ヱビスビール」と「VEDETTビール」があった。あえて「VEDETTビール」を頼む。お洒落に入ったらお洒落に従えだ。ベルギービールのIPAみたいだ。瓶もお洒落。
しかし、お洒落なのはいいが、ちょっとカチンときたのは「居心地0円」というボタン。これ、いらない。それ、客が決めること。ユーモアのつもりなら、全然面白くない。
でも、そんな小さなことに、この店初めての客が文句を言うもんではない。カチンを懐にしまう。でも、帰ってきて今これを書きながら、そのボタンを押してみなかったことに後悔。何が出てきたんだろう。何も出てこなかったら、ちょっと怒る。

さてようやく決まって、奥のラーメン屋にしては広々した4人掛けのテーブルに着く。このテーブルもラーメン屋とは思えない。木製で、高そう。
まずビールが来た。かわいらしいデザインの瓶は、確かにこの店のインテリアに合っているように思える。IPAビールは、シトラスみたいな柑橘系の香りがして、ちょっとアルコール度が強いのが特徴だ。ボクは嫌いではない。ガブガブ飲むビールと違う。

しかし、ここはデザイナーズラーメン屋と呼んでいいだろう。照明もいちいち面白いものを使っている。
結構時間がかかって、白胡麻担々麺が登場した。わはは、笑ってしまったのは、そのお皿だ。四角っぽい円で、大きい。こんな器は、麺類では初めて見た。水菜、肉がどっさり乗っている。刻み葱もかかっている。小エビも見える。いい香りがする。 
これを熱いうちに全部混ぜる。よく混ぜる。それが汁なし担々麺の食べ方だ。
パクチーとミョウガは別皿で、ケチらずたくさん盛ってあって、心強い。最初からはかけず、途中から投入しよう。

さて、いただく。うん。まずは香りがいい。ゴマの香りが強いが、上品。
辛さは最初、さして感じないが、3口目くらいから、来る。そういうもんだ。コショウの痺れも、しだいに舌に響いてくる。でも大丈夫。ボクはこの辛さ、好き。汁なし担々麺に、このくらいの辛さは欲しい。
おいしい。これは今までに食べた汁なし担々麺の中でも上位だ。汁がないけど、どんどん食べられる。

さて、まずパクチー投入。うん。いいけど、大量の水菜が食感の幅を利かせていて、パクチーらしさがいまいち発揮できていないようにボクは感じた。

次にミョウガ投入。これはいい。汁なし担々麺に、ミョウガは合う。香りもいいし、シャキシャキが水菜とぶつからず、さわやかな変化をつける。この担々麺には、ボク的にはミョウガ、必須だ。それも途中から入れられるのが実に効果的だと思う。ミョウガのおかげで、最後までおいしく食べられた。気がついたらかなり汗をかいていたけど。

「男の仕事飯」というテーマに、果たしてお洒落は必要か?と実はずっと半信半疑だった。誰がこの店選んだんだ?連載テーマわかってるのか?ともちょっと思った。
だけど全部食べ終わってみれば、この汁なし担々麺は、ボリュームもあり、肉やエビもたっぷりで、栄養にもあると思う。辛さは次の仕事への活力、気分転換にもなるような気がする。
OLさんらしい一人女性客も結構いた。テーブルが広いから、一人でも落ち着くのかもしれない。男女4人組の大人客も、ソファー席でワイワイ話しながら食べていた。ボクの仕事場の周辺にはない雰囲気だ。ここに来る客は、この店をお洒落とかなんとかそんな風には思ってないのかもしれない。と思ったら自分が多摩の田舎者にも思えてきた。

食べ終わって、しびれた舌で水を飲むと、水が水じゃないように感じて面白い。というおきまりの遊びをして、席を立つ。
それから一週間ぐらいしたが、仕事をしていて腹が減ると、汁なし担々麺もいいな、と思うようになっている。ということはこの店は失敗ではなかったということだろう。
歳をとるほど、その味が本当に自分に必要かどうかは、時間が経ってからだんだんわかってくるような気がしている。

今回ご紹介したお店はコチラ!

汁なし担担麺ピリリ

山椒の刺激がやみつき!次の仕事の活力に。
人形町 汁なし担担麺ピリリ「汁なし担担麺」

住所 東京都中央区日本橋人形町2-15-17 海老原ビル2F
TEL 070-3201-4649
営業時間 11:00-15:00
18:00-22:00(L.O)
ランチ営業、日曜営業

マンガ家/ミュージシャン 久住 昌之

PROFILE

マンガ家/ミュージシャン久住 昌之(くすみ・まさゆき)
1958年7月15日 東京・三鷹生まれ
法政大学社会学部卒。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。
1981年、泉晴紀と組んで「泉昌之」名でマンガ家としてデビュー。谷口ジローと組んで描いたマンガ「孤独のグルメ」は、各国で翻訳出版、2012年にTVドラマ化され、現在season5。劇中全ての音楽の制作演奏、脚本監修、最後にレポーターとして出演もしている。最新作は生まれ育った東京三多摩地区を散歩して綴った自伝的エッセイ集「東京都三多摩原人」(朝日新聞出版)1月20日発売。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2017.04.03