久住昌之の突撃!男の仕事飯

Vol.12ひとり静かに飲みたい夜に
新橋 Bar P.M.9「素敵なバーで一杯」

「男の仕事飯」というタイトルだが、今回はバーだ。バーですよ。飯、ないじゃん。バー行ったら、酔っ払って仕事になんないじゃん。

てなこと言わないで、今回は、会社の忘年会の後などに、ひとり静かに飲み直したいな、という設定ということだ。
それならちょっとわかる。

ボクは会社員をやった経験がないから、会社の忘年会を知らない。でも幹事がいて、知った顔同士、この日ばかりはこの時ばかりは、上司も部下も無礼講で、カニ鍋なんぞつついて飲んで、大いに盛り上ろう、という感じなのだろうとは想像がつく。

個人営業のボクだと、ドラマのクランクアップの打ち上げとかが近いような気がする。あれはあれで、現場のスタッフや、俳優や、俳優のマネージャーや、音楽家や、局の偉い人、制作会社の社長、スポンサーの人など、普段は顔を合わさない人が集まって、飲み食いして名刺交換なんかする。

あれはあれで、楽しい部分もある。
でもやっぱり「仕事飲み」だな、と思う。

ボクは正直言って苦手だ。最初はいいが、だんだん疲れてくる。なんか食べていても、すぐ挨拶されたり、全然味がわからない。酒はリラックスするために飲むものだと思っているのだけど、リラックスはしない。むしろ肩が凝ってくる。
ボクがもし会社員だったら、会社の忘年会は苦手だと思う。

もともと大人数で飲むのが好きではない。普通の話し声で、全員に話が通る人数がいい。2人から4人。テーブルくっつけないで座れる人数で飲みたい。特別な例で、バンドの打ち上げでも10人ぐらいまでだなあ。

さっきも書いたけど、大勢でいると、無意識に気を遣って、ストレスが溜まる。
だから、今回の設定は、非常によくわかる。というかはっきり言って、よくやってる。
ボクは、そんなにバーにはよく行かないし、いろんな店も知らない。だけど行く時はたいがい一人だ。慣れ親しんだ店にしか行かない。

いつも前置きが長くてすみません。でもバーのことを書く、と言っても別に何にもないのだ。行って、黙って数杯の酒を飲む。それだけだ。書くことがあまりにもない。

ウイスキーの銘柄も、カクテルの種類も、ほとんど知らない。でも進んで知りたいとも、もはや思わない。知っている洋酒、知ってるカクテルだけでもいい。そういう方面の知的好奇心・知識欲がものすごく希薄。

それが年齢によるものなら、歳とったと言われてかまわない。歳とってよかったと思う。もう、酒飲むのに、面相くさいのが全部嫌なのだ。薀蓄とか、説明とか、うるさい。静かに、うまい酒、飲ませてくれ。

旧友で飲み友達でもある、みうらじゅんに、
「一人で飲み屋に行って、何してんの?俺、タバコもやめたから、間が持たなくてダメ」
とか言われるが、何するって、おいしく酒飲んでるだけだ。
「うまいなぁ」と思って飲んでる。
「この店、居心地いいなぁ」と思ってリラックスしている。
「酔ってきたなぁ」と思って酔っている。
それ以外に何が必要なのだ。

一人でいて、あんまり酔っ払ってしまうのは、他の客から見て見苦しいものだ。店員から見て「店の雰囲気壊すから早く帰れ」なものだ。だから、これ以上飲んだら酔っ払うな、と思ったら、すぐ帰る。それができるのもバーのいいところだ。

さて、今回の設定は新橋だ。新橋といえばサラリーマンの聖地。ボクにはほとんど縁のない街だが、誘われて飲みに来たことはこの30年ではたくさんある。が、行きつけの店はないし、行った店もほとんど覚えてない。

場所は烏森神社のすぐそばの小道を入ったいわゆる飲み屋横丁だ。ボクには激しいアウェイ感で、とても一人で入れそうな店はない。だからこんな仕事で入ることができるのは、実はすこぶる嬉しい。もしよかったら2度3度と来て「新橋だったら、もうこの一軒でいいや」となれそうだからだ。

「BAR P.M.9」
夜9時に始まるのか、と思ったら「open4:30」と書いてある。はやっ。
では夜9時に終わるのかと思いきや「〜深夜」と書いてある。
P.M.9はなにを意味するのだろう。

「Charge¥1000」とある。まあ、こんな店なら仕方ない。会計がとんでもないことになるような値段ではない。のだろう。と思う。

あとは禁煙とあるだけ。その他のメニュー、値段など情報、無し。
木の格子戸のようなドア。丸い欄間的な窓。中は全く見えない。

無理。一人じゃ絶対入れない。でも今日は大丈夫。スタッフもいる。取材だ。よし。

まあ、いわゆる、バーでした。想像と違うものではなく、L字型の高いバーカウンターがあって、ちょっとよいしょっと上る感じに座る高い椅子があって。若いバーテンダーさんがいて、その後ろに洋酒の瓶がずらりと並んでいる。そこには見たことのある酒、飲んだことのある酒もあり、ひと安心。

ボクは、初めて行ったバーでは、大抵ジントニックを頼む。そのぐらいしか知らないんです。
あと、実はドライマティーニも好きなんだけど、初めての店で頼む時「マティーニ」の「ティ」を発音するのがなぜか恥ずかしい。
なぜだろう。「パンティ」っていう言葉も声に出して読めない日本語だ。まあ、口にする機会はないけど。パンティに引きずられてるのかマティーニ。

まあ、どうしようかなと酒瓶を見る。設定では、会社の忘年会の帰りに、二次会をうまく逃げて、一人でこの店に入った感じか。そしたら、ビールと焼酎や日本酒を結構飲んでいるだろうから、変わったのを一杯、ゆっくり飲んで帰る感じかな。

無難なのは日本のウイスキー。山崎も白州もある。山崎はロックで、白州ならソーダ割りにしてもらうことが多い。どうしようか。

と迷っていたら、バーテンダーさんが、
「薬草のお酒なんてどうですか?」
と切り出してくれた。いいね。気分をガラッと変えるのによさそうだ。

3本の薬草酒をボクの前に並べてくれて、説明してくれたが、全然味の想像もつかない。手がかりにもならない。こういう時は瓶やラベルのデザインで決める。不思議なもので、味は大抵、容器に現れるのだ(全然違う時もあるが)。

ボクが選んだのは「Wurzel Peter」で、ラベルでは、赤い帽子をかぶって、白い長い髭をたくわえた、森の小人が、何かを鍋でグツグツ煮て混ぜ合わせているイラストが描いてある。絵柄がコミカルで少し不気味なのが気に入った。

このお酒は「シナモンやコリアンダーをはじめとする、世界中から集められた35種類のハーブやスパイスからつくられ、花をミックスしたような複雑な香りが特徴。さらにシナモンとミント、アカシアのニュアンスを感じ魅力的な甘いフレーバーを楽しめるハーブリキュールです」以上、全部編集部の書いたメモのコピー。どうでもいいんだボクは。
要するにそういう説明書きに引っ張られて飲むのが嫌なんで、覚えないの。その味を本当に好きになったら、自然にそのわけや成分を知りたくなったり、意味がわかったりする。初めて飲み食いするものに、食べる前、説明受けたくない。

ロックにしてもらい、少しずつ飲んだ。すっごく美味しい。やや甘い酒で、度数は35度とやや高め。でもこの度数というのも、あんまり酔いに比例していないと感じている。飲みやすい酒は、ついついペースが速くなって酔いがち、くらいに思っている。
ハーブ感もすごくある。ボクの好きな感じだ。「この香りなんだっけ、何かで嗅いだことがあるぞ」と思いながら、最後まで思い出せなかった。でも美味しかったから、いい。今度飲んだときわかるかもしれない。

すごくゆっくり飲んだ。だんだん体が中からポカポカあったまってくる。この感じは絶対薬草のせいだ。いいお酒を知った。名前をメモした。

このお店はいい。ボクは結構気に入った。広すぎないのもいいし、落ち着く。もう一度来てみよう。新橋のこんな場所に、こんな店を知ってるなんて、大人な感じがする(もう十二分に大人だ!)。
きっと大宴会でストレスが溜まったボクの心と体を、じんわり静かにほぐしてくれると思う。

今回ご紹介したお店はコチラ!

ひとり静かに飲みたい夜に
新橋 Bar P.M.9

住所 東京都港区新橋2-15-13
TEL 03-3509-9720
営業時間 16:30〜翌00:00 (L.O.23:30)
※夜10時以降入店可

マンガ家/ミュージシャン 久住 昌之

PROFILE

マンガ家/ミュージシャン久住 昌之(くすみ・まさゆき)
1958年7月15日 東京・三鷹生まれ
法政大学社会学部卒。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。
1981年、泉晴紀と組んで「泉昌之」名でマンガ家としてデビュー。谷口ジローと組んで描いたマンガ「孤独のグルメ」は、各国で翻訳出版、2012年にTVドラマ化され、season6まで放送。劇中全ての音楽の制作演奏、脚本監修、最後にレポーターとして出演もしている。最新作は生まれ育った東京三多摩地区を散歩して綴った自伝的エッセイ集「東京都三多摩原人」(朝日新聞出版)1月20日発売。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2016.12.26