久住昌之の突撃!男の仕事飯

Vol.10定食の定番といえば!
駒場 菱田屋「豚肉生姜焼き定食」

生姜焼き定食。
そこには、なんというか一種独特の響きがある。いろんな定食があるが、豚肉の生姜焼き定食は、定食の中でも最もポピュラーなのに、どこか孤高のイメージがある。

餃子定食やレバニラ炒め定食やサバ味噌煮定食とは、何か一線を画している。

生姜焼き定食は、おいしい。確かにおいしいのだけど、おいしさが前面には出ていないようなところがある。

味よりも、実質。口よりも腹。食べる者の空腹を満たし、そのあと力をわかせる。それが生姜焼き定食の第一の願いであり、グルメだかなんだか講釈をぶつおいしさや、見た目のオシャレさや豪華さ、カロリーオフだかなんだかヘルシー志向などという結局脳みその考えは、二の次三の次だ。首から下の肉体のための定食という実直さが感じられる。

質実剛健。豪放磊落。直球勝負。猪突猛進。我が道を行く。腹が減ったら黙って食え。食いもんに、つべこべ言うな。そういう姿勢を、生姜焼き自身、黙って貫いているように見える。

まさに「男の仕事飯」そのものではないか。最近この連載、「男の仕事飯」と冠しながら、ちょいちょいアルコールを合わせ飲んでヘラヘラしちゃいねぇかぁ?ぶったるんでるんじゃねえか?クスミさんよぉ。編集さんたちよぉ。

そうだ。男の飯は、ガツンといかにゃあ。

というわけで、駒場東大前にある「菱田屋」さんに生姜焼き定食をいただきにやってまいりました。

昼のメニュー黒板には「まぐろと炙り金目鯛刺身定食」「おまかせ海鮮丼」「大海老・いかフライとヒレカツ定食」「チキン南蛮定食」「生ラムジンギスカン定食」「海老と帆立のチリソース定食」など、魅惑的かつジャンル縦横無尽な定食が並んでいて圧巻。その下から三番目にやや目立たないようにひっそりと「豚肉生姜焼き定食」があった。だがもちろん人気メニューの一つだそうだ。

別の黒板を見ると、飲み物も日本酒、焼酎、ビールにホッピーハイサワー角ハイボール、フランスワインまで、それもいい酒を見繕って置いてある。

いいえ、飲みませんよ。「男の仕事飯」のフンドシの紐を締め直しに来たんだ、今日は。

夜は居酒屋営業になるのだろうか?と思って店の人に聞いたら、夜の客も皆食事客だそうで、食べる前に1杯2杯飲む程度だそうだ。お見それしました。

さあ、頼んでいた生姜焼き定食が出てきた。まずは出来立ての匂いが、鼻腔を襲う。生姜と醤油と肉の焼けた油の匂いだ。炒められた玉ねぎの甘い匂いも混じっている。うまそう!これだこれだ。男の飯の匂いだ。

学生。肉体労働。ガテン。部活。体育会。モーレツ社員(古過ぎ)。そういう男たちの胃袋が渇望する匂い、そしてこのボリューム。

残念ながら50代後半のマンガ家ミュージシャンの俺は、ちょっと気圧されるような肉の積み上げである。

キャベツの千切り、レタス、プチトマト、パセリも添えられ、さらにはちょっと懐かしい付け合わせのスパゲッティ。これ好きなんです、メシのおかずに。

そしてドンブリ飯、豆腐とワカメの味噌汁、お新香、水。お盆にのった姿が、どうだと言っているようだ。箸置きが本物の落花生であるところが唯一かわいらしい演出だ。

炒められた豚肉を食う。肉が厚い。生姜と醤油の味付けがまさに「これで飯をたらふく食え!」と無言で語りかけてくるようだ。

焼いた汁が多いのもいい。これを千切りキャベツにしみさせて食うのがたまらない。それだけでおかずになる。

玉ねぎと肉を一緒に口に入れると、玉ねぎの歯ごたえが嬉しい。味噌汁をすすりつつ、お新香をアクセントに使いつつ、黙々と白い飯を食う。この飯がまたすごくうまい。

スパゲティーを箸でちょいとつまみ食いする。子供じみた嬉しさがちょっぴり心にわく。でも基本は黙々食いだ。黙ってひたすら生姜焼きで飯を食う。つべこべ言う隙がない。だんだん生姜焼き定食と戦っているような気分になってきた。

クスミ、善戦しているも、後半疲れが出てきたか。手数が減って、ロープを背にしてキャベツをつまんで肉を避けているシーンが増えてきた。おっと足が止まった。棒立ちで打たれている。これは危ない。レフェリー、止めに入るか、入りました。挑戦者クスミ、最後までがんばったが、チャンピオンの生姜焼き定食にTKO負け。肉とご飯、無念にも少しずつ残しました。

いやー、悔しかったなぁ。おいしかったけど、このボリュームはもう食べられないのか。無理して全部食べたら、それこそ今日はこの後、苦しくて仕事にならないだろう。せっかく作ってくれたお店の方達にも、申し訳ない。残念だが、歳には勝てない。

店の人に聞くと、昼の時間帯だけで、2升の米を5回炊くんだそうです!どんだけ飯を食うんだみんな!

東大が近いし、お客さんは学生が多いかと思いきや、7割が社会人、3割が学生だそうです。そういえば、学生が毎日食うには、若干値段が高めかもしれない。男女比も7:3ぐらいだそうで、女性客が3割もいるのにはちょっと驚いた。でも女性も喜びそうな定食も多いからな。電車に乗ってやってくる客や、主婦や女性の一人飯もいるそうな。

この店、定食屋というには、作りも小ぎれいでオシャレ。むさ苦しい男ばかりの大衆食堂とは、全然違う雰囲気だ。前日から体調を整え、腹を減らして、万全の態勢で再チャレンジしたい、すごくいい店でした。

今回ご紹介したお店はコチラ!

定食の定番といえば!
駒場 菱田屋「豚肉生姜焼き定食」

住所 東京都目黒区駒場1-27-12
TEL 03-3466-8371
営業時間 [月〜金]昼11:30〜14:00(L.O.13:50)/夜18:00〜23:00 (L.O.22:00)
[土] 18:00〜23:00 (L.O.22:00)
※日曜、祝日休

マンガ家/ミュージシャン 久住 昌之

PROFILE

マンガ家/ミュージシャン久住 昌之(くすみ・まさゆき)
1958年7月15日 東京・三鷹生まれ
法政大学社会学部卒。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。
1981年、泉晴紀と組んで「泉昌之」名でマンガ家としてデビュー。谷口ジローと組んで描いたマンガ「孤独のグルメ」は、各国で翻訳出版、2012年にTVドラマ化され、season6まで放送。劇中全ての音楽の制作演奏、脚本監修、最後にレポーターとして出演もしている。最新作は生まれ育った東京三多摩地区を散歩して綴った自伝的エッセイ集「東京都三多摩原人」(朝日新聞出版)1月20日発売。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2016.11.01