久住昌之の突撃!男の仕事飯

Vol.8【特別編】居酒屋で一杯
上野 やきとり文楽「やきとり」

今回は飯ではない。働く男が、仕事終わりに、焼き鳥でビールという設定なのだった。しかも明るいうちから。いいのだろうか。ボクはサラリーマン経験がまったくないので、会社が早く終わってビール、という感じが全然わからない。わからないままに、上野のガード下の焼き鳥屋「やきとり文楽」にやってきた。

古そうな店だ。「ガード下」というシチュエーションがいい。「ガード下の焼き鳥屋」という響きがいい。しかも店内ではなく、店先に出されたテーブル席。いわゆるオープンエアだ。でも日陰になっていて、少し風が吹くだけで気持ちいい。コンクリートの床が傾いている。それがまたいかにも屋外っぽくて、椅子テーブルのわずかに傾いた非日常が嬉しい。昼間っからビールを飲むというだけで、なんでも嬉しいのか俺は。

にやにやしていると、冷たい生ビールがやってきた。ジョッキじゃないのが意外。その意外が、サプライズとなってまた俺を喜ばせる。とにかくグイッとグラスを上げて、ゴクゴクと飲む。ウマイ!水門が開けられ、干上がった川にドドドッと清水が流れ込んだようだ。

前を人が行き交っている。買い物客、観光客、仕事の人、外国人家族、いろんな人で、上野は混雑している。だが誰もまだ飲んでいない。汗をかいて歩いている。そんな雑踏を眺めて、悠然と冷たいビールを飲む、軽い優越感と背徳感。申し訳ない。

「牛もつ煮込み」がやってきた。いかにもだ。味見する前に七味をかけてしまう。冷たいビールと熱い煮込み。いいじゃないかいいじゃないか。うん、予想通りウマい。予定調和の平和。当たり前のシアワセ。ビールをゴクリ。

「みそきゅうり」が出てきた。普通は「もろきゅう」といって、もろ味噌と生のキュウリが来る。だがここのは普通の味噌だ。実はボクはこの方が好きだ。味噌が強すぎないで、キュウリの味が立つような気がする。キュウリは夏の香りだ。夏の香りでビールを飲む。素晴らしいじゃないか。

もも肉の串焼登場。タレで頼んでみた。ひとりだから串から外さないでそのままいく。出てきた焼き鳥を、最初に全部串から外すのは、本当はシラケる。串のまま肉を歯で噛んで、串から引き抜くのが焼き鳥の醍醐味だ。うむ、プリプリしていい肉だ。「うむ」だって。エラそうな俺。いいじゃないか、ひとりなんだから。タレも、甘すぎず辛すぎずベトベトしすぎず、調度よい。肉の味がわかる。

もも肉をよく噛んで飲み込んで、ビールを飲む。ウマいと同時に口の中が清められる。焼き鳥とビール。本当によくできている。ビールを飲むとまた肉がうまい。肉を噛むとまたビールがうまい。永久運動。というわけで生ビールおかわり。

だんだん日が傾いているのがわかる。地球は自転している。その地球の動きを感じ、太陽の光がじんわりと色を変えていくのを感じながら、悠然と飲む。目の前の人々はそんなこと感じる余裕なく、せわしなく歩いている。みんな何をそんなに急いでいるのだ。わっはっは。

新たな冷たいビールが、新しくのどを潤す。じんわり酔いが回ってきた。いつの間にか客も増えている。若いカップル、古い飲み友達に見える年配の男たち。みんな楽しそうだ。

ここで、この店で人気商品という「みそにんにく」。ニンニクそのものが味噌で焼かれているのかと思ったら、焼き鳥に強いニンニク味の味噌ダレがかかったものだった。タレにはニラも入っている。これはさっきのタレとは、ハッキリ違って強烈な主張がある。これを食べて会社に戻ったら、確実に眉をひそめられる。だがこれが、ウマイ!新たな食欲がわいてくるようだ。ニンニクはスゴイ。あとを引く。人気なのも納得。

さあ、撮影が終わった。スタッフ、カメラマン、皆さん一緒に飲みましょう。実は恥ずかしかった。ひとり飲んでるところを、カメラで撮られているのだから。通行人にちらちら見られた。もう終わり。みんなで飲めば恥ずかしくない。さあ、飲み直しだ。みんな、ビールは来た?では、カンパーイ!

今回ご紹介したお店はコチラ!

【特別編】居酒屋で一杯
上野 やきとり文楽「やきとり」

住所 東京都台東区上野6-12-1 JR高架下
TEL 03-3832-0319
営業時間 [月〜金]14:00〜23:00
[土]12:00〜21:00
[日]11:00〜20:00
※無休(年末年始休み)

マンガ家/ミュージシャン 久住 昌之

PROFILE

マンガ家/ミュージシャン久住 昌之(くすみ・まさゆき)
1958年7月15日 東京・三鷹生まれ
法政大学社会学部卒。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。
1981年、泉晴紀と組んで「泉昌之」名でマンガ家としてデビュー。谷口ジローと組んで描いたマンガ「孤独のグルメ」は、各国で翻訳出版、2012年にTVドラマ化され、season6まで放送。劇中全ての音楽の制作演奏、脚本監修、最後にレポーターとして出演もしている。最新作は生まれ育った東京三多摩地区を散歩して綴った自伝的エッセイ集「東京都三多摩原人」(朝日新聞出版)1月20日発売。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2016.09.01