久住昌之の突撃!男の仕事飯

Vol.7夏の元気飯
練馬 サプナ「インドカレー」

暑い季節になると、必ず書店の雑誌コーナーの表紙にカレーが現れる。それも数誌同時に。写真を使ったデザインまで似ているから笑ってしまう。でもたしかに、うだるような猛暑から逃げるように駆け込んだ書店で、それらを見ると「おっ」と思って、思わず唾液が出る。「どこのカレーだ」と思ってしまう。

カレーの辛さと香りの刺激、それを喚起させる見た目は、鈍りがちな真夏の食欲を奮い立たせる。まさに今、サラリーマンなど働く男飯に、カレーライスはぴったりだ。

今回行ったのは、地下鉄成増駅から近い「サプナ」。カレーには大きく分けて「日本料理として定着したカレーライス」と「本格インド式カレー」とある。前者は必ず普通の白米を炊いたものにカレールーをかけて食べるのが大前提。後者は、白米に限らず、サフランライスやインディカ米、さらにナンなどと一緒に食べる様式だ。

僕は正直、日本式カレーライスが好きなんだが「サプナ」はインド式だ。でもカレーは好きだから、問題はない。むしろどんなインドカレーが登場するのか楽しみにして出かけた。

ところが駅から店に向かう道で、突如空がかき曇り、店に着いた途端、ゲリラ豪雨!道を歩いている人の悲鳴が聞こえるほどの、雷を伴ったすごい土砂降り!間一髪、ずぶ濡れから逃れた。編集者やカメラマンとテーブルに着くと「いやー、よかったねぇ」と、思わずインドビールを頼んでしまった。働く人は昼には飲まないだろう。ごめんなさい。

しかし、注文されてから、仕込まれたカレーを調理するので、多少時間がかかる。その時間をインドビールのちょっと違った味わいで繋ぐのは、実に楽しい時間だ。

この店の一番人気カレーは「グッカー」というマトンカレーだそうで、それを注文した。普通のと、辛さ2倍のものとを注文。さらに今回はスタッフも一緒なので、今の季節だけの「ハーブチキン」のカレーも頼む。それにせっかくだからインディカ米と、ナン、チーズナンも注文。この店はとにかく料理の種類が多い。グループで来て、じっくり攻めたいところだ。

さて来ました、グッカー。すごい。でっかい骨つきマトンがゴロンとカレーに浸かっている。これをまずナイフとフォークで骨から外す。柔らかい!簡単に肉から骨を取り出すことができた。この肉をシャバシャバ系のカレーに浸して食べる。

「ウマイ!」
まず、マトンそのものがすんごくウマイ。いわゆる羊臭さは無く、いや、無いわけじゃ無い、あるんですが、それがウマイ!いい香りとしておいしさの一大要素になっている。それがスパイシーなカレーとものすごく合ってる。「肉が柔らかい」とか「臭みが無い」とか「スパイシー」とか、ボクが原作してる食べ物マンガでは使わないような、テレビチックな凡庸な形容ばっかりして申し訳ないが、このカレーは凡庸ではない。複数のスパイスが複雑に混じり合っている深い香りと辛さがある。ピリピリ辛いのではなく、食べているうちにじんわり辛みが口に広がり、からだが温まってくる感じ。人気なのがわかる。このマトンカレーはヤバイ。と、また若者めいた感想を軽薄に言ってしまうオヤジここにあり。

黄色くてパラパラのインディカ米も美味しい。今まで食べたインディカ米でも一番美味しい気がする。ルーを米にかけて食べるというより「合わせて食べる」という表現が合う。2倍のカレーの方が普通の辛さのカレーよりコクがあって美味しかった。店によっては、辛味香辛料を小さなスプーンに何杯加えるかで、辛さの倍率が決まるようだが、ここは辛さの倍率の分だけ色々な香辛料も多く加わるので、辛さだけでなく、味そのものも変わっていくようだ。しかし、インド式と言っても、どこかに日本式カレーファンの心をくすぐる味がある。今度は普通の白いご飯を頼んで(用意されている)、かけて食べてみたいと思った。

ナンも美味しい。ナンそのものが、香ばしくて、もっちりとして、それだけで美味しい。なんだかカレーで汚すのがもったいないようなナンだ。でもちぎってカレーに浸して食べても、もちろんウマイ。

さらに、ハーブチキンカレー。数種類の生のハーブを入れているそうだ。ハーブっぽさを期待して口に入れると、最初ハーブっぽさが感じられない。ハーブらしき断片は目にも見えないし。だけど、肉と一緒に食べているうち、なんだか口の中が爽やかになっているのに気がつく。ボクはチキンカレーが好きなのだが、このチキンカレーはかなりイイ。これまた日本式で食べてみたいと思った。

気がつくと冷房の効いた店内で、顔や背中が汗ばんでいる。でもスプーンが止まらない。これぞカレーのマジック、スパイスの魔法だ。

ここでお店の人が「ピクルスです」と言って、真っ赤な付け合わせのものを出してくれた。ピクルスと思って単体でポイと口に入れた一人の編集者がその辛さに悶絶していた。恐る恐る崩して、ルーに混ぜて食べてみたら、さらにさらにカレーが美味しくなった!これは絶対こうして食べたほうがイイ!最初から言ってよ!と思ったが、こうして途中で変化をつける食べ方のほうが楽しい。最初から入れちゃうのは、月見そばの黄身をいきないり潰してから食べるようなものだ。

いやー、おいしかった。そして、食べ終わったら、なんだか元気が出た。汗をかいているのに、ビールも小瓶一本飲んだのに、からだも心もシャキッとした気がする。やっぱり夏の働く男飯は、鰻とカレーだ。そうめんや冷やし中華ばかりでは、気力も減退する。じっくり煮込まれたマトンカレーとハーブチキンカレーという選択、バッチリだった。今度は夜来てカレー以外にもいろいろ食べたい。ちなみに「サプナ」はインドの言葉で「夢」という意味だそうだ。

空が明るくなり、雨も小雨になっていた。さあ、ボクも仕事場に戻ってがんばるぞ。 

今回ご紹介したお店はコチラ!

夏の元気飯
練馬 サプナ「インドカレー」

住所 東京都練馬区旭町3-27-15
TEL 03-3939-3083
営業時間 12:00-14:30
17:30-23:00
※日曜営業、不定休

マンガ家/ミュージシャン 久住 昌之

PROFILE

マンガ家/ミュージシャン久住 昌之(くすみ・まさゆき)
1958年7月15日 東京・三鷹生まれ
法政大学社会学部卒。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。
1981年、泉晴紀と組んで「泉昌之」名でマンガ家としてデビュー。谷口ジローと組んで描いたマンガ「孤独のグルメ」は、各国で翻訳出版、2012年にTVドラマ化され、season6まで放送。劇中全ての音楽の制作演奏、脚本監修、最後にレポーターとして出演もしている。最新作は生まれ育った東京三多摩地区を散歩して綴った自伝的エッセイ集「東京都三多摩原人」(朝日新聞出版)1月20日発売。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2016.08.01