久住昌之の突撃!男の仕事飯

Vol.5シーズナルな仕事飯
神泉 たもいやんせ「日南一本釣りカツオ炙り重」

今回の「たもいやんせ」、ずいぶん前から気になっていた。いろんな人がおいしかったと書いているのを読んだ。でも店名が憶えにくい。「たいやもんせ」とか「たもいやもんせ」とか「たいもんせんや」とか、どうしても正しく憶えられない。ところが、そのことで、神泉にあるそんな感じのひらがなの変な名前の店、として頭に残っていた。そんな店の憶え方も珍しい。

だから編集部から今月はこの店に決まったと聞いて「ついに行けるのか!」と思った。そして「たもいやんせ」が宮崎弁で「めしあがれ」という意味だと耳で説明を聞いて、やっと正しく憶えられた。

井の頭線で渋谷からひとつ目の神泉駅。まず利用することのない駅だ。駅を降りて、南側を歩くのは初めてだ。狭い道が多くごちゃっとした狭い住宅地だが、さすがに渋谷に近いだけあって、小さな小洒落た飲食店がぽつぽつある。その地帯から旧山手通りに出るところに「たもいやんせ」はあった。ここのランチタイム限定の「日南一本釣りカツオ炙り重」を今回は食べにきた。

しっかりした作りの板の間の座卓に、低いカウンター席もテーブル席もある。壁に小学生のお習字よろしく、半紙に酒の銘柄を筆書きしたものがびっしり張ってある。よく見たら全部焼酎。すごい種類。さすが九州だ。

さて、やってきたのは、熾した炭と焼き網、そして細く切った焼き海苔をのせた重箱ご飯、飫肥の天ぷら風さつま揚げ、お新香、あら汁。そしてコチュジャン風味のタレと、ゆず風味の麦味噌たれをつけたカツオ刺身。

カツオは、最初そのままご飯のせて食べる。コチュジャン風味から食べた。正直、コチュジャンじゃ味が強過ぎて、カツオの味が台無しになるのでは、と思ったが、カツオが強いのか、タレに負けていない。むしろ、カツオの風味が口の中で立ち上がってくる感じ。ウマイ!これは飯が進む。酒よりごはんの食べ方だ。

次にゆず麦味噌タレ。これも正直(甘いんじゃないの?ゆず、余計なんじゃないの?)と疑ってかかったが、ゴメンナサイ、これまたご飯にのせて食べると、カツオの味がしっかり主人公になっていて、甘くも邪魔でもない。ドシロートの勘ぐり、恥じ入ります。

次に炙ってみる。どのくらい炙ればいいのかわからない。店の人に聞いたら「さっと炙るくらいで…でも白くなるまででも」と、お好みのようだ。軽く炙ってみたが、あまり変わらないので、片面が白くなるまで炙ったら、たしかに風味が強くなる。これはこれでご飯が進む。

そうなんだ、とにかく飯に合う。というか、ここの飯がまたウマい。

ここで忘れていたさつま揚げを食べてみた。まだ温かい。む、甘い。甘いが、しゃりっと歯ごたえがある。タマネギのみじん切りだ。これ、いい。これはご飯というより、生ビールか、焼酎ロックにバッチリだと思う。玉ねぎいいわぁ。

あら汁もウマい。出汁の鰹節味が、濃厚。いろんな魚のあらが混じっているようだ。これも、これだけで焼酎のアテになりそう。

ある程度食べ進んだところで、出汁汁登場。小鉢にお重のご飯をとりわけ、炙ったカツオをのせ、熱い出汁汁をかけて食べる。これはもう、タマリマセン!まず、出汁汁が、ウマい!鰹節の味が濃厚なれど、臭くなし、クドくなし。カツオにカツオをかけているのに、そういう重ね感なく、むしろあっさり、さらさらと入る。ヤバい。

出てきた時は、量が多いかなと思ったが、これはおかわりしたくなるウマさ。この、カツオ炙り重、新しい宮崎のご当地グルメということで、十四の決まりがあり、その条件を満たしたものだけが「カツオ炙り重」の名を語っていいとか。まあ、その内容は割愛するが、つまり宮崎の新鮮な一本釣りのカツオと、宮崎産の食材にこだわるということだ。これを東京で食べられるのはたいやもんせ、じゃない、たもいやんせ一軒ということだった。近所の会社員ぽい若い人が、結構食べにきていた。

カツオというと、たたきか刺身、ショウガで食べるか、わさびで食べるか、ミョウガや玉ねぎなどツマをたくさん一緒に食べるか、くらいの食べ方しか知らず、しかも酒の肴ばかりだったが、この食べ方はイイ。飯がとにかく進む。夜、飲みにきてみたい気もするが、その前にまた昼飯をいただきに来てしまう予感がビンビンの店だった。

今回ご紹介したお店はコチラ!

宮崎県南の郷土料理屋
たもいやんせ

住所 東京都渋谷区神泉町10-10神泉ビル1F
TEL 03-3461-4333
営業時間 [月〜金] ランチ 11:00〜15:00
[月〜木] 18:00〜翌01:00
[金] 18:00〜翌02:00
[土・日・祝] 17:00〜翌01:00

※ランチ営業、夜12時以降入店可、定休日無

マンガ家/ミュージシャン 久住 昌之

PROFILE

マンガ家/ミュージシャン久住 昌之(くすみ・まさゆき)
1958年7月15日 東京・三鷹生まれ
法政大学社会学部卒。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。
1981年、泉晴紀と組んで「泉昌之」名でマンガ家としてデビュー。谷口ジローと組んで描いたマンガ「孤独のグルメ」は、各国で翻訳出版、2012年にTVドラマ化され、season6まで放送。劇中全ての音楽の制作演奏、脚本監修、最後にレポーターとして出演もしている。最新作は生まれ育った東京三多摩地区を散歩して綴った自伝的エッセイ集「東京都三多摩原人」(朝日新聞出版)1月20日発売。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2016.06.01