賢者の仕事、賢者の健康

Vol.16FFの作曲家は"中くらいのおっさん"。5分間仕事術のススメ
植松伸夫氏 インタビュー(後編)

朝から晩まで頭の中で音楽がずっと鳴ってるんです

− 今のお話うかがっていて思ったのは、やっぱり大事なのかもしれませんね。ロジックや科学で説明できないことも楽しめる余裕や遊び心みたいなものって。特に創作は不思議で人を感動させる仕事ですから。

植松あまり人には話さないですけどね、(頭上を指差しながら)僕、曲って「すでにここにある」って思ってるんですよ。これ、言葉でうまく説明できないんですけど、完成品は頭の右上のほうにすでに存在していて、僕は一生懸命「これかな?これかな?」ってその曲の周りにある雲をはらってるような気がして。

作曲って言うと「何もないところから作る」って思われるかもしれませんけど、必ずしもそうではなくて、すでに存在する何かを僕はキーボードと指で照合し合ってるようなところがあるんです。

これは僕だけじゃないと思うんですけど、作曲屋さんって朝から晩までずっと頭の中で音楽が鳴ってると思うんですよ。例えば「今曲作れ」って言われたとして、それがどんな音楽でもいいのであればたぶん死ぬまで作り続けられるんです。

− その意味では「5分仕事」どころか「24時間仕事」とも言えますね。

植松仕事というかクセというか。音楽ってほんと不思議で、涙に直結しますよね。スピルバーグ監督も「映画で涙を流させるのは音楽の役割だ」みたいなこと言ってるんですけど、それは一理ある。

例えば「シェルブールの雨傘」っていう映画は、物語も感動的なんですけど音楽だけでも泣けるんです。メロディや和音が人の心を揺さぶってくるというか。だから不思議な遊びです、音楽は。物理的に言うなら周波数をいじって空気を揺らしてるだけなのに。空気を揺らすから僕らの心も揺れるのかな?

曲は「曲がる」から面白い。中くらいのおっさんはジグザグ道を楽しめる

− ゲームの音楽にはどういう役割があると、植松さんは考えてらっしゃるんでしょうか。

植松僕がこの仕事を始めた頃は初期のファミコンでしたから、絵も8ビットでしょぼかったし、セリフも今みたいに声優さんが話すのではなく文字で表記してたんです。つまり、今より機械感が強くて、あそこに音楽がなかったら息が詰まっちゃう。でも、そこに何かしらのメロディが乗っかることで遊んでる人が感情移入しやすくなる。そういう役割なんでしょう。

あの頃に比べると、いまは機械の進化がすごくてゲームも高機能化してますが、結局僕の作るメロディは機械の進化とは関係ないこと。先ほども言いましたけど(前編)、だったら自分の語り口調を大事にして、「今日はこんなこと感じました」って毎日日記をつけるように表現していったほうがいいと思うんですよね。

なんせ今って情報量がすごいじゃないですか?PCでもスマホでも立ち上げると、世界中の情報がバーッと入ってきますけど、僕はあんまりそれに振り回されたくない気持ちがあります。こんな時代だからこそ、自分のやり方をどこかで保っていかないと自分を見失いかねない。

− うーん、仕事術的な話に始まり深くなってきました。いいですね、言葉によるこのセッション感。ところで植松さんは「中くらいのおっさん」というファンクラブを主催されていますが、"中くらい"というのは?

植松ふつう「中くらい」って言うと上と下があって真ん中みたいに思うでしょ?平凡な人みたいな。でも、そうじゃなくて、生きていれば上に行くこともあれば下に行くこともある。ジグザグ道を進んで最終的にプラマイゼロになる。「そんな中くらいがいいな」っていう意味なんです。

だって退屈じゃないですか?一直線って。高校生の時にね、古典の授業が大嫌いだったんですけど先生からひとつだけいい話を聞いて、いまだに覚えてるんですけどね。先生が「音楽って何が楽しいかわかるか?」って言うので「なんだろう?」と思ってたら、「『曲』って書くだろ?曲がるから楽しいんだよ」って。

それ聞いた時「いいこと言うなあ」と思いましたよ。で、結局そうなんですよね、面白いことって。平らなものってあんまり面白くない。いいことがあったかと思うと、時には「あいたたた」みたいなことがあったりするから楽しいわけで。

− 面白いですね。それで「音楽」と言うのかと思うと。最後に「中くらいのおっさん」の夢というか今後やってみたいことがあればお聞かせいただきたいのですが。

植松シンセサイザーを車に乗せて全国のライブハウス巡りをしたいです。デモテープを送って。50人くらいの規模のライブハウスで、FFの曲じゃない自分のオリジナルを演奏したい。すでにファンクラブの皆さんの前で、実験的に年に2回くらいやってるんですけどね。僕が作った物語を絵本ぽく描いてもらい、それをスクリーンに映しながら演奏するコンサートを。朗読の人にも入ってもらってね。そうやって新しいことに挑戦するのはコワいけど、やっぱりワクワクするんですよね。

編集者/東北芸術工科大学客員教授 河尻 亨一

PROFILE

編集者/東北芸術工科大学客員教授河尻 亨一
雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心に多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集を手がけ、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。
現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2017.05.15