賢者の仕事、賢者の健康

Vol.16ゲーム音楽は"話し言葉"。日々の感動をメロディで伝え直している
植松伸夫氏 インタビュー(前編)

まず自分が楽しみたいんですよ、きっと。新しいアイデアで

− 「FF」シリーズは今年で30周年という話も聞きました(2017年)。こんなにヒットするゲームになるとはやはり予想もしてなかったですか。

植松誰も思ってないすよ(笑)。そもそもスクウェアという会社は倒産しかかってましたからね。それで「そろそろ会社畳む?」みたいな時に、ディレクターの坂口(博信)が「最後にもう一本だけ作らせてください」ということで、"最後の夢"みたいな意味合いもこめて「ファイナルファンタジー」ってタイトルになってるくらいですから。それがマグレ当たりしたというか。

− シリーズで15作あるわけですが、植松さんはトータルで何曲くらい作られたんでしょう?

植松何曲あるんでしょうね?数えたことなくて(笑)。タイトルによって作る曲数にも結構ばらつきがあって、1作目は20曲くらいだと思うんですけど、「Ⅸ」(2000年)が一番多くてたぶん140曲以上あったと思います。

今考えると大変ですよね、それ。制作期間は1年くらいあったんですけど、それで計算してもアイデア出しからアレンジまで2〜3日で1曲。正直今はあんまりやりたくないペースですよね(笑)。

まあ、ゲーム音楽もずいぶん変わってきましたから。最初は電子音3つで作っているだけでよかったのが、ゲーム機が急激に高性能化して今じゃフルオーケストラの音も鳴りますよね?つまり、最初は鼻歌のように作っていればよかった作曲家たちも、この20〜30年のうちにオーケストラの譜面も書けなきゃいけなくなってきたということ。これはね、結構なストレスというか重圧というか、なかなかハードな仕事ではありますね。

− そういうこともあって、最初おっしゃってたように「ボーッ」とアイデアを考える時間が大事になってるっていうのもあるのかもしれませんね。ただ、植松さんがタフだなと思うのは、そうやって新しい音楽を作りながら、FFシリーズ音楽の全国ツアーにも関わるなど様々な活動をされていて(BRA★BRA FINAL FANTASY)。あれは吹奏楽でやるのが面白いなと思ったんですけど。

植松楽しいですね。「BRA★BRA FINAL FANTASY」は一昨年から始めたコンサートなんですけど、僕はコンサートが始まる前にお客さんのところに出て行って前説みたいなことをやり、"ブラボー係"を決める役なんです(笑)。

− なんなんでしょう?その係は(笑)。

植松えっと、ブラボー係というのはですね、曲が終わったら「ブラボー!」って叫ぶお客さんのこと。コンサートを盛り上げるためのサクラです(笑)。挙手してもらって、毎回だいたい5人から10人くらい決めてるんですけど、ちゃんとブラボーバッチというのも用意してあって。

と言うのも、オーケストラのコンサートってお客さんが構える部分がありますよね。「おとなしく座って傾聴しないといけない」みたいな。クラシックならそういうコンサートもいいと思うんですけど、僕がやってるのはゲーム音楽のコンサートですから騒いじゃっていいんです。

そもそもこれ、基本は「皆さんも楽器を演奏しに来てね」っていうコンサートで、リコーダーなどを持参したお客さんと一緒に演奏する曲もあるんです。上手に演奏できなくていいんですよ。自分たちで作っていくんだってことが大事ですから。そういった意識がスタッフの皆さんにも浸透しているので、お客さんも退屈しないんでしょうね。

− さっき「しゃべり言葉の音楽」っておっしゃってましたが、コンサートにもそのスタンスが貫かれてますね。

植松まず自分が楽しみたいんですよ、きっと。いつも同じコンサートやってると、緊張感や新鮮味がなくなるじゃないですか。自分が楽しめるように毎回何らかの新しいアイデアを挟んでいきたいですし、それによってお客さんの笑顔が見られるのがうれしいんですよね。

>>後編に続く

編集者/東北芸術工科大学客員教授 河尻 亨一

PROFILE

編集者/東北芸術工科大学客員教授河尻 亨一
雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心に多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集を手がけ、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。
現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2017.04.26