賢者の仕事、賢者の健康

Vol.16ゲーム音楽は"話し言葉"。日々の感動をメロディで伝え直している
植松伸夫氏 インタビュー(前編)

今回の賢者

PROFILE
作曲家植松伸夫

1959年3月21日生まれ。高知県高知市出身。作曲家。株式会社ドッグイヤー・レコーズ代表。有限会社スマイルプリーズ代表。これまで全世界で1億本以上を売り上げた「ファイナルファンタジー」シリーズを始め、数多くのゲーム音楽を手掛けてきた作曲家。ゲーム音楽だけでなく、様々なアーティストへの楽曲提供もしている。また、2001年5月アメリカ「Time」誌の"Time 100: The Next Wave - Music"にて音楽における「革新者」の一人としても紹介され、2007年7月には「Newsweek」誌にて"世界が尊敬する日本人100人"の一人にも選出されている。近年では日本国内をはじめ世界各国でオーケストラコンサートや自身のバンド"EARTHBOUND PAPAS"によるワールドツアーを開催し好評を博すなど、さらに活躍の場を広げている。

各界の一線で活躍するキーパーソンが、「仕事と健康」について語るインタビュー連載「賢者の仕事、賢者の健康」。今回のゲストは作曲家の植松伸夫さん。「ファイナルファンタジー(FFシリーズ)」等のゲーム音楽を手がけてきた植松さんが実践する、毎日が「ブラボー!」になる仕事への向き合い方とは?
(聞き手:河尻亨一)

えっと…仕事は毎日イヤです(笑)。だけど楽しみ方もあるんです

− 仕事と健康についておうかがいするインタビュー連載なのですが。

植松(伸夫氏 ※以下、植松)僕、どっちかと言うと不健康ですよ、ライフスタイルは(笑)。カラダはね、もともと丈夫なほうなんですけど、健康にいいことは特にしてなくて。そんなんで大丈夫ですかね?

− 大丈夫です(笑)。半分は仕事の話ですから。あと、「仕事が健康の元」といったお話になるかもしれませんので。

植松えっと……仕事は毎日イヤです(笑)。サボりたいし遊びたい。でも、締め切りがあって引き受けちゃってるものは逃げるわけにはいかないので、めんどくさい仕事も「どうやって楽しむか?」っていう方向に気持ちを切り替える。そのお話ならできるかも。

というのも最近まとまった休みを取る時間もなくて、年がら年中ずっと仕事してるわけじゃないですか? だけどイヤイヤやるのは、自分の精神衛生上も良くないし、たぶん出来上がる音楽もよくないと思うんですよ。

− そのお話をぜひ。ハードな仕事を「どうやったら楽しめるか?」という植松さん流のやり方を教えていただけましたら。

植松まあ、シンプルなんですけどね。めんどくさい時は逆にみずからのめり込んで行くんです、その仕事に。回避しようとするんじゃなく、あえてこっちから新しいアイデアを出したりして積極的に関わっていくようにする。「こんなアイデアどう?」「こんなこともできるよ」って。そうすると仕事って結構ワクワクしながらできるんですよね。

そうやって半ば意識的に「ワクワク」に持っていかないと、コワいんですよ。自分が楽しめてないと、それこそいつか「カラダを壊しちゃうんじゃないか?」なんて思って。幸いこれまで大病は患ったことないから、無理もきいてますけど、歳も歳ですし若い頃みたいに、ただただ頑張るだけだと、ひょっとするとカラダがついて来ない年頃になってきているかもしれない。

− 植松さんはどんな感じで毎日仕事されてるんですか。例えば朝起きたらすぐ曲作りに向かわれるとか?

植松ええ、基本的には起きたらすぐ仕事です。顔も洗わないで、ボーッとしたまんま作曲に入る。そうすると悩まなくて済むんですよね。なまじ頭が冴えて来ると、「5小節目からはどう展開しよう?」なんて迷いも生じ始めてなかなか先に進めないんですけど、ボーッとしてる時って、「とりあえず最後まで作っちゃおう!後で直せばいいや」っていう気持ちになれますから(笑)。

− それも仕事のモチベーションをキープするひとつの工夫かもしれませんね。大きなところから入って、小さく詰めていくのは。最初から「出来る気がしない」状態だと萎えちゃいますから。

植松まあ、すべての仕事に当てはまるかはわからないけど、作曲ってとりあえず頭からお尻まで出来ちゃうと気分が楽なんです。その土台の上にディテールを積み重ねて行くことができるので。その意味では寝起きでボーッとしてる時にやるのは、我ながら効率いいなって思うんですけど(笑)。

あと不思議なことに、そうやってボーッとしている時のほうがいいアイデアが出てくるっていうのはホントにある気がするんですよね。考えすぎて煮詰まっちゃうと、いつまでも解決策を思いつけなかったりするんですけど、「ちょっと作業やめよ」と思った瞬間に「あ、そういうことか!」ってひらめくことが多くて。犬を散歩に連れて行ってる時とかね。

そう言えば以前、お風呂に入ろうと思ってパンツ脱いだ瞬間いいアイデアを思いついて、また服を全部着て仕事部屋に戻った、なんて経験もあります(笑)。