賢者の仕事、賢者の健康

Vol.23インスタのミニチュア写真が"職業"になるまで
田中達也氏 インタビュー(前編)

SNSで仕事に"広がり"や"発展"が生まれた

− ここでうかがってみたいのは「仕事の選び方」。今って人気のインスタグラマーやユーチューバーには、いろんな会社から「自社製品を宣伝してください」みたいなオファーが殺到してると思うんですが、なんでも引き受けるってわけにはいかないんじゃないかと。特にネットに発表してるコンテンツの世界観が崩れるようなものはやりづらいですよね?ファンがガッカリすることにもなりかねないので。皆さん、そこは色々工夫してると思うんですが、田中さんの場合、どう対処されてるんでしょう?

田中重要なのは「いかに企業を自分のテリトリーに取り込むか?」じゃないでしょうか。どんな仕事でも、自分のいつもの作風を崩さない。それはものすごく大事なことで、それが崩れるぐらいだったら断ったほうがいいと思うんです。ブランドを守るじゃないですけど。

僕がよくお断りするのは、「新製品のボトルを使って何かに見立ててください」っていうご依頼。見立てというのはそもそも、見た人が「あれだ!」ってわかるから成立するんですけど、新発売ということは、みんなそれが何なのかわからない可能性も大きいですよね?ボトルの大きさなどもイメージできないですから、そうなると難しくて。

あと、ただミニチュアを作ってくださいというご依頼もたくさんあるんですが、そういうのも丁重にお断りしています。「ミニチュアライフ」のコンセプトを理解してくださった上で、楽しくやれそうな方ならご一緒したいなと。そこの見極めは、すごく大事です。

とはいえ、企業の仕事って面白いんですよね。日頃のミニチュア写真ではできないことにチャレンジできますから。いま「ミニチュアの街をVRで走る」という企画をやってるんですけど、そういうのは僕一人の毎日の投稿ではできないことなので、せっかく企業とコラボするのなら何か新しいことをやりたいなと思ってるんです。案件はそういうことも考えて受けることが多いですね。

− 企業とのコラボだけでなく展覧会も各所でされてますね。

田中ええ、展覧会をやるのも目的があって、ネットだけの発信ってなんだかんだでまだ弱いんです。テレビに出た時のフォロワーの増え方とは全然違いますから、SNSをやってない人たちにアピールするためにはどうしたらいいかな?と思った時に、展覧会のように実際の場で見てもらうのはすごくいいなと思って。そこにお年寄りがたくさん足を運んでくださったりするのはうれしいですよね。

− この「賢者」のインタビュー連載に出ていただいたゲストの中では、おそらく田中さんが最年少だと思うのですが、お話うかがってて、つくづく今風の働き方、仕事の作り方だなあと。ご自身ではどう思います?

田中僕の場合、仕事に"広がり"や"発展"がほしいんです。自分は「デザイナーだから」とか「もの書きだから」なんて決めつけてしまうと、毎日が同じことの繰り返しになっちゃう。それは僕には後退と同じだと思えて。

最初は狭い範囲でやっているけど、それがだんだん広くなっていく。そこを意識しながら仕事を発展させていきたいんですよね。

その点、ネットやSNSがいいのは、自分を客観視できるところ。全部数字が出るので、外から見てどれくらい人気があるかないかがわかる。相手の反応もわかります。その反応を見ながら、「あ、これ、まずかったな」とか「じゃあ、こうしようかな」とやり方を変えていけるんですよ。いいものをただ作ればいいということではなく、その展開や広がり方まで個人で考えて発展させることができる。その意味では「自分を中心にメディアを作る」ことが仕事になっている気がしますね。

>>後編に続く

編集者/東北芸術工科大学客員教授 河尻 亨一

PROFILE

編集者/東北芸術工科大学客員教授河尻 亨一
雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心に多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集を手がけ、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。
現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2017.12.01