賢者の仕事、賢者の健康

Vol.9毎日の繰り返しの中に、とても大事な気づきがある
谷原章介氏 インタビュー(前編)

ドラマと映画、舞台では芝居がちょっと違うんです

− 非現実の世界観であれ、現実の世界観であれ、そうやってリアルな何かを探っていくことが、演じるという仕事では重要になってくるんでしょうね。

谷原そうですね。ただ、ドラマや映画、舞台など、芝居によって積み上げていく作業がちょっと違います。例えば連続ドラマの場合、撮影に入ってからも、最終回がどうなるかわからないことが多いんですよ。連続ドラマって「時代との共犯関係」にあると言いますか、その時々の流行だったり出来事だったり、あるいは視聴者の方のリアクションまでをも微妙に呼吸しながら、作り手側も時代を呼吸して作っていくんですね。それは例えるなら「塑像」というか、コネコネと粘土細工を作り上げることに似ていると思うんです。

一方で映画の場合だと、頭から最後までストーリーがわかってますから、「この芝居はいる」「この芝居はいらない」という判断も最初の段階でできるので、言うなれば「彫像」のような感じなんですよ。木の塊を見て「どれが一番いい形なんだろう?」と削っていく作業に近いというか。

これが舞台になってくると、観客の皆さんとの共犯関係が大きくなりますよね。とっても難しいものだなと思うのは、自分がよくできたと思う時は、お客さんからすればサイテーだったり、逆に「今日はダメだったな…」と思ったらすごく褒めてくださったり。ドラマや映画はプレビューができますから、自分でチェックして微調整しながら作り上げていくこともできますけど、舞台の場合、生の瞬間の自分をチェックすることができないので、出来上がるものと相手側の評価が常に一致するわけではない。それがまた面白いところでもあるんです。

前の日までのお客さんだったら笑わないところでゲラゲラ笑うお客さんがいた瞬間、自分に影響します。で、「今、面白いことやったんだ、もっと面白いことやっちゃう?」っていう場合もあれば、「あれ? オレ、芝居間違ってるの?」みたいに感じることもある。三島由紀夫さんの言葉に「俳優は自分の作り上げる作品を見られない唯一の芸術家だ」っていうのがあるんですけど、まさにその通りで。まあ、僕のやった仕事が芸術とは思わないんですけど。

− コマーシャルも映画やドラマ、舞台とはまた違いますよね?

谷原いやー、だから今日は僕、もう本当に勉強させていただいて。とっても充実した時間を過ごせてありがたいです。CMって面白いと思うのが、まず時間が短いですよね。15秒や30秒の中に、商品の良さや監督、出演者が伝えたい表現をぎゅっと凝縮させる。そのためには一緒に凝縮させるパートナーやスタッフがとっても大事で。その意味で今回は、視聴者の方々に伝わる空気感が出せているんじゃないかと。

壁にぶつかった時は、もう愚直に考えるしかない

− 今、まさに賢者なスタンスからお話くださっていて、さすがだなあと思うのですが、そんな谷原さんでも、仕事に飽きたり壁にぶつかったりすることもあるんですか。

谷原お芝居や司会の仕事自体に倦むことは今のところないですね。壁にぶつかった時は、僕のやりかたで言うと、もう愚直に考えるしかなくて。例えば稽古場でいろんな笑いがほしくなった時に、変な芝居で笑いをとることもできるんですよ。でも、もともと台本にないアドリブの笑いは、息も短いんですよね。台本にある磨き上げられた笑いや、時を経る中で研ぎ澄まされたものはずっと新鮮で面白いんですけど。

歳を重ねるにつれ、そういうこともわかるようになってきました。昔からずっと存在し続けて、なおかつ時代にフィットする形で変化してきたものって、やっぱり飽きられないんだと。「今ってこういう時代の流れだから、逆のことやったら目立つんじゃないの?」という発想法も大事だとは思いつつ、奇をてらうだけでは一時の流行りで終わってしまうと思います。

そう考えると仕事も、飽きたり壁にぶつかった時こそ頑張って続けることが必要なのかも。毎日同じことを繰り返しているように思えてつまらないんだけど、それでもずーっとやり続けて、「はっ! これって素晴らしいな」と気付けたら、そこからその人にとっての突破口が開けるんじゃないでしょうか。やり始めた時は「こんなのどうでもいいんだよ」と思っていたことの中に実はとても大事な気付きがあって、そのことがわかった瞬間、ふわっと霞が晴れるというか。

− 愚直にやり続けることで道が開けることがあるんですね。

谷原そうです。僕の場合、芝居をやり始めてから10年くらいまでは、どこか不安な気持ちがあって、お芝居をするたびに毎回毎回、「この仕事で終わるかもしれないな」とか「もうオレ、役者できないんじゃないかな?」みたいな怖さを感じていたんですけど、10年やり続けてちょっと肩の荷がおりたと言いますか、「まあ、ここまでやれたんだから…」と自分のことを認めてあげられるようになったのと同時に、台本にきちんと立ち返るようになりました。

台本に書いてあることをきちんと追い求めていって、演出家や共演者に誠実に向き合う、それが作品の一番のあるべき姿なんじゃないかな? と自然に思えるようになったんです。それまでは「奇をてらった芝居をしてないと面白いと思ってもらえないんじゃないか?」なんて考えていたんですけどね。それも10年続けたから気付けたんだと思います。

>>後編に続く

編集者/東北芸術工科大学客員教授 河尻 亨一

PROFILE

編集者/東北芸術工科大学客員教授河尻 亨一
雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心に多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集を手がけ、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。
現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。
  • カメラマン 稲垣純也
  • 更新日 2016.10.21