賢者の仕事、賢者の健康

Vol.10気持ちがグラグラするのを恐れずに生きていきたい
北川悦吏子氏 インタビュー(後編)

自分のことをよくわかってるのは、結局、自分ですから

− ほかに体調管理の上で心がけてることもありますか?

北川なんでしょうね? スケジュールをあまりキツく組まないとか。そういうことは気をつけてます。たとえその1日がパーフェクトじゃなくても、「何かひとつできたらいいかな?」くらいの感じにして、あまりたくさん自分に課さないようユルくしておくのも、ひとつの心がけかもしれませんね。たとえご飯を作れなかったとしても、そのことで自分を責めたりしないで、「スポーツセンターに行けたからいいかな?」なんて前向きに考えるようにしているんです。

病気が長かったんでそうなったところもあると思うんですけど、その時に大事なのは何か?、と必ず「優先順位をつける」んです。常に自分の中で優先順位を考えるようなところがあって、もっといえば、これだけやっとけば、あとは、ま、いいか、みたいな。「何が一番大事か?」を考える習慣はついてます。親からも「あなたはカラダが弱いんだから無理はしないで」と言われ続けて、「そういう自分がどうやって生きていくのかな?」というのは自分なりに考え、時には脇道にそれつつなんとか生き延びれそうな道を探して来たというか。

病気が増えて「なんで私ばっかりこんな目に遭うの?」なんて思ったこともあるんですけど、「じゃ、どうやったら元気になれるんだろう?」って自分の機嫌の取り方にも敏感になれたというか。結局、自分のことを一番よくわかってるのは自分ですからね。自分とは24時間一緒にいるわけで(笑)。よく他人のほうが自分のことをよくわかっているなんて言いますけど、それって嘘だと思うんです。

− そういう毎日の中で、北川さんがあれだけたくさん脚本を書いたり、映画の演出もしているというのは正直ビックリなんですが。

北川いつも人を巻き込んできましたね。体調のことを内緒にしていては立ちいかないので、プロデューサーに話をしつつ、それでも「やりたい」という意志を伝えるにはどうすればいいかってことを考えて。でも、その時に「お願いします!」だけではできないと思うんです。「えっ? ダメですよ、そんなの」って言われるじゃないですか? だって、病気なんでしょ?倒れたらどうするんですかって。

なので、プロデューサーやテレビ局の人と同じ方向を見ることから始めて、自分も相手のことをわかり、相手に自分のことをわかってもらい、「じゃ、こういう方法があるよね」ってところまで持っていけるかどうか。そういうことを繰り返してきた気がします。で、「これを書きたいというパワーはすごいんだな」ということに、みんなに気づいてもらえる瞬間というのがあって。もうね、すごい頑張るんです(笑)。

生きてる限りハッピーでいたい

− その頑張りみたいなものが、脚本のタイトルひとつにも出ている気がして、たとえば「ロングバーケション」。婚約者に裏切られた女性が、あまり知らない男性とひとつ屋根の下で暮らすそのヘンな状況を「長い休暇」って言っちゃうんだ、みたいな。

北川タイトルフェチなんです(笑)。タイトルはいつでも考えてるっていうか、ある時「ふっと来る」んですよね。すべて自分でつけたわけではないんですけど、名前をつけるということはとても大事で、タイトルが浮かぶと作品の世界がふわっと広がるみたいな感じがあって。

まあ、「えっ!?」っていう方もいますよね。「どういう意味ですか? それ」みたいな。そこそんなに捻らなくていいから、もっとわかりやすいタイトルにしてくださいってこともあるわけじゃないですか? そこはいつも戦いますね。「オレンジデイズ」なんかは自分で考えたものなんですけど、最初はビックリした方も多いみたいで。

− やっぱり戦いなんですね? さっきご自身の中でも葛藤があるとおっしゃってましたが(前編)。

北川うーん、やっぱりグラグラしてますよね。気持ちの上でグラグラする部分を抱えつつ、その上に平気で立ってることができるようになるといいなと。しんどいことですけど。でも、ものを書いてる人ってちょっとグラグラしているところがあったほうが、そのぶん何かを感じたりすることもできて、ある種、強みなのでは? とも思います。もっと平坦な毎日になって、「明日も絶対今日みたいに元気」と思っていたら、気づけないことだってあるんじゃないかと。だからグラグラするのを恐れないでいたいと思っているんです。

日頃よく感じるんですけど、「元気?」って言われたら「元気だよ」って返さなきゃいけないような社会は、ちょっと息苦しいのではないかと。そういうこともあって病名も公表したんです。隠すことではないし、私自身、病を克服したり、闘病している方々の手記や記事にとても助けられましたから。

ものを書く人に限らず、誰しもグラグラする部分を抱えながら生きているわけで、その意味では人って24時間ずっと元気じゃなくてもいいんじゃないですかね? 肉体的な面でも精神的な面でも。持病がない方でも調子悪いこととかあったりすると思うんですけど、それでも生きていくわけですし、今日はここまで作業が進んだとか、友だちとおしゃべりできて楽しかったなとか、自分で自分にOKが出せればそれでいいんだと思うんですよ。だって生きてる限りはハッピーでいたいですから。

撮影場所
GODDESS
www.goddess.tokyo

編集者/東北芸術工科大学客員教授 河尻 亨一

PROFILE

編集者/東北芸術工科大学客員教授河尻 亨一
雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心に多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集を手がけ、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。
現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2016.11.15