賢者の仕事、賢者の健康

Vol.14一流の人には"根拠のない自信"がある
苅部俊二氏 インタビュー(後編)

「まずは楽しもう」の気持ちからバトンパスは続いていく

− 苅部さんにとって陸上がなにより楽しいんですね。

苅部いや、実は最初は楽しくなくて(笑)。陸上は中学から始めたんですけど、全然練習しませんでしたね。むしろ生徒会活動などが面白くてそっちに力を入れていたんですが、高校に入ってちゃんとやりだすと、どんどん楽しくなってきたんですよ。走るたびに記録を更新できて。

ところがインターハイでぼろ負けしちゃったんです。それがすごい悔しくて。その悔しさが原動力になり、これまでやってきたという感じですかね?

ただ、悔しいからって思いつめたわけではなくて、やっぱり「まず楽しもう」という気持ちが先に立ちます。ストレスは溜めません。イヤなことも楽しもう。そう考えられるようになってからは、不思議なことにあまりイヤな思いもしなくなりました。やっぱり楽しまなきゃ人生損ですよね。チャレンジしたほうが得だし面白い。別に失敗したって得るものたくさんあるじゃないですか?

競技で僕、いっぱい失敗していますけど、その失敗がなかったら、たぶん今このポジションにいなかったでしょう。それは心の底から思っていて。それも根拠のない自信かもしれませんけど(笑)。

日本チームのリレーでも何回もの失敗がありました。でも、その失敗があったからこそ、いまのバトンパスが確立できています。「いやなこともプラスにできる」なんて安直に言えないですけど、まずは自然に、そして楽しくやらないと、次につながらないですよね。

− 歴代の日本チームの中でも、新世代のチームへの"バトンパス"が続いてきたんでしょう。ところで苅部さんは早い時期から、ネットなどでご自身のオピニオンを発信することを積極的にされてきました。

苅部陸上界を盛り上げたいとか、もっとよくしたいという思いが非常にありましたね。選手の声が外に届かない状況があったんです。選手会には全然発言権がなくて、これはもう動くしかないと。「じゃあ、どうやって発信しよう?」と考えた時に、インターネットは双方向にやり取りもできて便利ですから。

そもそも陸上雑誌で僕、現役時代に連載を持たせてもらってたんです(苅部俊二の言いたい放題)。現役選手が自分で書いた文章を、雑誌に掲載するのは結構画期的だったと思います。最近では為末(大)君や他の選手たちもいろんなメディアで発信するようになっていて、良かったなとは思ってるんですけど。

− 発言するのは勇気もいると思います。アスリートは競技に集中していればいいという風潮もあるでしょうし。

苅部根っこにある思いは、選手も審判もコーチも関係者も、お互いが楽しく気持ち良く力を出し合える陸上界にしたいし、スポーツ界にしたいし、さらには社会にしたいーーということ。「みんなが笑って暮らせるようになると素晴らしいな」という思いが常々あって、まずは自分から発信しようと。引退後に世界陸上の番組リポーターを務めたりしたのも、そういう考えでやってましたね。

ただ、そういったことも僕はやりたくてやってるだけなんですよ。大それたプランがあるわけではなくて。あくまで自分のできる範囲で。本当に楽しいと思えることを続けていきたい。それが私のコンセプトですね。

編集者/東北芸術工科大学客員教授 河尻 亨一

PROFILE

編集者/東北芸術工科大学客員教授河尻 亨一
雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心に多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集を手がけ、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。
現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2017.03.15