賢者の仕事、賢者の健康

Vol.14一流の人には"根拠のない自信"がある
苅部俊二氏 インタビュー(後編)

自己管理にもカラダとアタマのバランスが重要

− 「きっちりやる」ほうのお話で言うと、苅部さんは現役選手時代に筑波大学の院に進んでコーチ学を専攻されてます。スポーツには理論的なことも重要ですよね?

苅部ええ、もちろん。私は法政大学の出身なんですけど、経済学部でしたからスポーツのアカデミックな勉強はほとんどしていなかったんですね。経験と感覚を頼りに競技に取り組んでいたのですが、自分の実践が「正しいのか、正しくないのか」を学術的に知りたくなったんです。それで、筑波大学の門を叩きました。将来的には指導者になりたかったというのもあったんですけど。

大学院に通うことで、色んなことがクリアになりました。入学したのはシドニーの代表に選ばれてからなんですけど、それまで自分がやってきたトレーニングの確認みたいな感じですかね? 「カラダの仕組みがこうなってるから、こういう練習が必要なんだな」といったことをアカデミックな角度から再確認できたのは良かったですね。

− 現役アスリートで大学院に通う方も結構多いんですか?

苅部選手によると思います。なかにはドクターまで取得する人もいます。ただ、多数派ではないので、将来的にはそういう人がもっと多くなったほうがいいんでしょうね。やはり理論的な裏付けがあったほうが、トレーニングの効率もよくなります。頭でっかちになっちゃうとダメですけど、実践と理論をバランスよく学ぶのがベストです。

− なぜ、そのご質問をしたかと言うと、以前この連載で有森裕子さんにお話をうかがった時、アスリートは健康に無頓着な方も多いという話がありまして。世間的には「スポーツ=健康」みたいなイメージもある中、練習もがむしゃらにやればやるほどいいってものではないですよね。

苅部そうですね。やりすぎたらカラダを壊してしまいますから。実際カラダがボロボロになってしまう人もいます。スポーツ選手は風邪ひきやすいですしね。運動でカラダをハードに使いますから、疲労した時にウイルスが入りやすいのかもしれません。

ただ、難しいのは「練習ってどれくらいが一番効率いいか?」がわからないんです。だから、ついやりすぎちゃったりということは起こりえます。練習量が少なかったらそれはそれでダメですし、個人差も大きいですから。

その意味だと、自分に適切な練習量をわかる選手はやっぱり伸びますね。自分で考えてきっちり自己管理できるタイプの人は。自己管理も頭とカラダのバランスが重要なんですけど。

休むのも大事なトレーニングです

− 「練習量」という言葉は「仕事量」にも置き換えられるかもしれませんね。仕事も頑張りすぎるとやっぱり体調崩したりします。苅部さんは現役のとき、風邪ひきやすかったですか。

苅部私は風邪はあまりひかなかったですね。結構頑丈でした。実は結構、健康には無頓着なほうで。だから今回のお話をいただいたときも、「健康のために何かやってるかな?」って考えてみたんですけど、あまりやってないですね(笑)。

選手時代は食事も「カラダにいいからこれを」なんてことはあまり気にせず、むしろ「自分の好きなものを、好きなだけ、好きな時間に」と思っていたくらいで、本当は良くないのかもしれないけど、夜寝る前に食べたりしてましたね。かと言って、脂っこいものを好んで摂るなんてことはしなかったし、あまりに冷たいものは飲まないようにしてましたけど。

練習がきつかったですから、食事はむしろストレス解消の時間でした。楽しいじゃないですか? おいしいものを食べられると。

− 睡眠とか休息に関してはいかがでしょう?

苅部休むのもトレーニングのうちですから、現役時代は睡眠や休養をしっかりとっていました。ただ、現役生活の後半になってくると、アクティブに休むようになりましたね。何もやらないで一日休むより、少しジョギングしたりしたほうが調子が良くて。

− 「アクティブに休む」というのは良さそうです。我々の仕事でも完全に休んじゃうと休み明け余計キツイってことがあります(笑)。

苅部陸上の世界には「アクティブレスト」という考え方があるんです。もっと若いときは、2日連続で完全に休んだりしてましたけど、ある程度以上の年齢になると、それもできなくなっていきましたね。そういうのは経験上、学んだことです。

− 現役時代は食べることがストレス発散にもなったというお話でしたが、今は何か趣味などお持ちですか?

苅部特に趣味はないんですけど、学生たちと課外活動などするのは結構リフレッシュになりますね。いま法政大学のスポーツ健康学部でゼミを担当しているんですが、ゼミ生たちとの合宿では、スキーにスノボ、フリークライミングやパラグライダー、川下りといった様々なアクティビティを取り入れているんです。彼らと飲むのも楽しいですね。私、アルコールはあまり強くないんですけど、飲むのは好きですから。

− 言うならば「趣味=仕事」といった感じでしょうか。

苅部それに近いと思います。陸上をずっとやってきてそれが楽しみでもありますし、教えた選手たちが結果を残してくれるのは、自分が走るよりうれしいくらいです。大学の陸上部の部活の顧問も、やっぱり好きだからやれるんだと思います。

基本的に僕は自分が楽しいと思うことをやりたいタイプで、小学校ぐらいからずっとそうなんですね。「楽しいか? 楽しくないか?」で人生を選択してきたようなところがあります。