賢者の仕事、賢者の健康

Vol.14一流の人には"根拠のない自信"がある
苅部俊二氏 インタビュー(後編)

今回の賢者

PROFILE
陸上競技部監督苅部俊二

1969年神奈川県生まれ。陸上競技の実業団選手として富士通に勤務し、1996年アトランタ五輪日本代表、2000年シドニー五輪日本代表としても活躍。元400mハードルの日本記録保持者。陸上競技者として現役でありながら、1999年には筑波大学大学院体育研究科修士課程を修了。同年には法政大学経済学部非常勤講師も務める。競技者引退後の現在は母校である法政大学でスポーツ健康学部の准教授として勤務し、法政大学陸上競技部の監督として、指導者としても活躍している。また、陸上競技日本代表の男子短距離部長も務めており、活躍の場を広げている。

各界の一線で活躍するキーパーソンが、「仕事と健康」について語るインタビュー連載「賢者の仕事、賢者の健康」。法政大学で陸上競技部の監督を務め、リオ五輪でも男子短距離部長として日本を銀メダルへと導いた苅部俊二さん。後編では「伸びる選手はどこか違う?」といったお話や苅部さんご自身の健康法についてうかがいます。
(聞き手:河尻亨一)

トップ選手には「結果が出なかったらイヤだからやらない」の発想がない

− 銀メダルに輝いたリオ五輪「男子400mリレー」の様々なエピソードをうかがってきました(前編)。トップの選手たちは身体能力はもちろん、コミュニケーションスキルも高いといったお話もありましたが、優れている部分として他に何かありますか。

苅部(俊二氏 ※以下、苅部)そういう人たちは"根拠のない自信"がありますよね。自信には「根拠のある自信」と「根拠のない自信」の2種類があると思ってるんです。例えば、すごくたくさん練習をして「これだけ練習したんだから誰にも負けない」という自信は前者です。

それと同時に、理由はハッキリしないんだけど、「なんとなくやれる気がする」っていう自信というものもあって、みんなそういうのを持っていますね。もちろん「努力してないか?」と言ったらそんなことはないんですけど、どこかしら楽観的というか、ハードな状況でも前向きになれるマインドがあるんです。

例えばケガをしたとしても、「とは言えオレ、絶対大丈夫!」なんて思えたりもするし、「絶対復活する」って心底思ってるんですよ。

みんながみんなそうではないんです。前にある選手と話したときに気づいたんですけど、なかには「頑張って頑張ってすごく頑張って、もし結果が出なかったら頑張ったぶんだけショックが大きいから、練習をあまり頑張りたくない」ってタイプの人もいて。

− 一流の選手になればなるほど「信じる力」も強いのかもしれません。「頑張って結果出なかったらどうしよう?」と不安になる気持ちもわかる気がしますが。

苅部でもね、僕自身はその気持ち、自分が現役の時まったくなかったんですよ。それを聞いて「なるほど。そういう考え方もあるんだな」と思ってしまったくらいで。五輪に出場するような選手たちには、「頑張って結果が出なかったらイヤだからやらない」という思考はたぶんないですね。

「できない人の気持ち」もわかるのが良きリーダーだと思います

− このあたりで、苅部さんの現役時代のお話もうかがっていきたいのですが、指導者と現役選手ではやっぱり考え方など違ってくるのでは? 同じスポーツに関わるにしても。世間には「名選手、名監督ならず」なんて言葉もあるのですが。

苅部違いますね。なんて言うんですかね? 指導する立場になると、「できない人の気持ちもわからなければいけないんだ」とすごく感じるようになりました。

「良い選手が必ずしも良いコーチになるとは限らない」というのは、本当にセンスがあって、何でもできちゃうような選手は、できない人の気持ちがわからなかったりするんですよ。その意味ではやっぱり挫折を味わったり、失敗を重ねた経験のある人がコーチになると、いいコーチになると思いますね。

− 苅部さんご自身は、挫折も経験されたんですか。400mハードルと1600mリレーで五輪も2度出場されていますが(アトランタとシドニー)。

苅部挫折はありますね。実は最初のオリンピックへの挑戦で、僕、失敗してるんです。それでバルセロナに出られなかったんですけれど、あのショックは大きかったですね。ひと月くらいヘコみました。でも、やっぱり「何とかなる!」と思い直したんです。そこからは次の4年間、アトランタ五輪まで、どんなことがあろうと「やれることは全部やろう」と思いました。「次は絶対出られる!」っていう根拠のない自信がありましたね。

− そこですね。「そう思えるかどうか?」は分かれ目になりそうです。

苅部超ポジティブなんだと思います。失敗は何度もするんですけど、「その先は絶対大丈夫」と思っているんですよね、心のどこかで。

アスリートはそうやって気持ちを強く持つことも大切だと思うんです。リオの男子400mリレーの選手らも本気でメダル獲れると思ってましたから。オリンピックに出場する人たちの会話を聞いてると、みんなそれに近いものがありますね。いい意味での自信家というか。正直「大丈夫か? お前ら」と思うこともあります(笑)。でも、やり遂げるんですよね。それがすごい。

まあ、根拠がまるでないかと言ったらそうでもないんですけどね。やるべきことはきっちりやってますから。