賢者の仕事、賢者の健康

Vol.12自分にエネルギーを向け始めてから人生バラ色に変わりましたね
陳建一氏 インタビュー(後編)

相手の嫌なところも飲みこんじゃえばいいんです。

− その料理番組は、どんな思いで出演されてたんでしょう?

番組を楽しんじゃおうと思ったわけ。で、審査員をどう攻略していくか? ってことにエネルギー注いだんですよね。だって、みんな好みが違うんだから4人とも。作ってる時に聞こえるんだよ、声が。「わー、ワタシ辛いのダメ〜」とかさ。かと思うと「僕、辛くてパンチ効いたのが好きなんだよね」とか。どうすりゃいいんだよと?(笑)

− どうされたんですか。

料理を分けて作ってたわけ。この人とあの人で好きな味が違うから。だったらタレをふたつに分ければいいじゃん?と思って。辛くないのと辛いのと。盛り付けも4人それぞれ違うんです。量を変えたのね。で、「この人のところにはこれ持っていってね」って。それを楽しんでたんですよ。

− 最初の話に戻るのですが、人が100人いれば好みも100あるわけで、100パーセントの料理なんてできない。でも、それをわきまえた上でいかにベストを尽くすか? というのがプロであるということですね。

うん、お客さんも十人十色だし、料理人もいろんなタイプがいるんですよ。生意気なやつもいるしね。「俺の料理がナンバーワンだ」みたいなさ。「うるせえ!」って思うんだけど(笑)、そういう人ともうまく付き合っていかなきゃいけないわけだから。

そのひとつのコツとしては、相手の嫌なところ? あるんですよ、みんな。僕もあると思う。それを飲みこんじゃえばいいんです。で、いいとこを探せばいいわけ。そうすると長く付き合えるから。そうしないと自分の周りから誰もいなくなりますよ。どこかさ、目をつむるというか、日光の「見ざる、言わざる、聞かざる」じゃないけど、そういうのって大切だよね。

− それも陳さんはいろんな経験の中でできるようになったんでしょうか。

いや、僕、小さい頃からどっちかと言うと八方美人だから(笑)。楽しませるのは大好き。その性格ってレストランにピッタリじゃん? だって、うち調理場にお客さん入ってくる店だから。ホールで話してる方がいるわけですよ。「今日は陳さんいるのかしら?」とか「息子さんいるのかしらね?」なんてね。

するとうちのスタッフが「おりますよ、よろしければ調理場を見学されます?」なんてお声をかける。で、調理場入ってくるとうちの調理人たちがウェルカムするわけ。「いらっしゃいませ!どうぞどうぞ」って。どんなに忙しくたってさ、そういうことに対応できるようにしているわけですよ。で、写真撮って満足して帰っていただければ、もうサイコー。

− 陳さんのような”仕事の鉄人”になるにはズバリどうすればいいですか。その極意とは?

うーん、「言うは易し、行うは難し」なんですけどね。相当の精神力とファイトとね、相当の志がないとできないですよ。無理だわ、そりゃ。人間ですから。ずっと頑張り通しだとどこか故障するし。だけど、僕の場合、プロだっていう意識はすごく持ってる。それが自分の中での決めごとだから。そういうことなのかな? 調理場に入った瞬間必ずスイッチオンだからね。とにかく一生懸命作ろうと、その日のベストなものを作ろうってことでやってきたから。

だから、自分にはエネルギーが必要なんですよ。僕が調理場に行ってダラーンとなってたら、もう誰もついてこないね。絶対そういう姿は見せない。心が折れてても。あるんだけど、折れてる時。で、そういう時はね、(ヒソヒソ声になって)わからないよーに、やってるよ。わかっちゃってるかもしれないですけどね(笑)。

編集者/東北芸術工科大学客員教授 河尻 亨一

PROFILE

編集者/東北芸術工科大学客員教授河尻 亨一
雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心に多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集を手がけ、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。
現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2017.01.16