賢者の仕事、賢者の健康

Vol.12大事なのは「この人のために作るんだよ」と思えるかどうか
陳建一氏 インタビュー(前編)

鍋の振り方ひとつでも、カッコよく、素早く。だってプロなんだから

− 陳さんが「赤坂四川飯店」以外のお店で食べた時は、どういうご感想を持つものなんですか。

それは「自分に合うか合わないか」ですよ。「美味しい」と思うものもあれば「なんだこりゃ?」って場合もある。でも、言いませんね、僕は。もし、なんかあったとしても。だってその料理人が一生懸命作ってる料理なんだから、いいじゃないですか、それで。ただ、そこにはもう行かないけどね(笑)。

− 一生懸命作ってない時はやっぱりわかりますか?

わ、か、る、よ! わかりますよ。僕はわかっちゃいますよ。冗談じゃない。盛り付けひとつでわかるから。いい加減に盛り付けたりするとさ。盛り付けなんて誰だってできそうなもんだけど、キレイに早く盛り付けてないと。だってプロなんだから。仕事姿見て「カッコいいなー」とかさ? そう思えないとプロじゃない。ぎこちないなんてありえないよ。鍋の振り方ひとつでも、カッコよく、素早く。見てて「あー、早く食べたいなあ」と思えるくらいの仕事をしないと。

− 「鍋の振り方がカッコいい」っていいですね。

うん、僕はそれで料理人になったんだから。うちの父(陳建民氏※)がカッコよかったから。たまたまうちの父が料理人で、食べ物大好きだったから僕も料理人になろうと。

だから、うちはご飯当たり前なんですよ。だってうちの親父は「ご飯食べた?」が挨拶だったから。中国語で言うんだけどね。「(ニー・チン・ファン・ラ・マ)」って。で、食べてないと食べていいんですよ。こんないい店ないですよ。そういう文化は僕も身に染みちゃってるから。まあ、オーナーだからそれができちゃうんだけどね。

※陳さんの父、陳建民氏は日本に四川料理(麻婆豆腐や担々麺など)を広めた料理人。

− ところでカッコいい鍋の振り方というのは言葉にするとどんな感じなんでしょう?

リズム感がある。

− そういうのも味に出るんでしょうね?

出ますね。色んなものが出る。だから僕は弟子が、キレイな盛り付けをした時はすごく褒めます。

− 陳さんは褒めて育てるタイプですか。

うん、僕はどっちかと言うとそっちのタイプ。褒めるほうですね。自分が褒められるとうれしかったから。まあ、褒められたとして人間どう転ぶかはわからないから、それがベストなのかどうかはわからないけど、僕らはいい仕事した時は必ず褒めますよ。逆に悪い仕事をした時は「なぜそうなったのか?」を言うよね。

なぜなら全部指導すると、人はそのパターンでしか動けなくなるから。「まずはこれをしなさい。次はこうしなさい。これが終わったらああしなさい。するとこうなります」みたいなレールを敷いちゃったら、人間その上しか進めなくなりますよ。

− 自分で気づく力がなくなりますね。

そういうことなんです。だから、放置するということもすごく大事なんですよ。放置して違うところ行っちゃっても、違うところに行くことが勉強になるんです。「あ、いけね。これやっちゃいけないんだ」ってことがわかると、次からはそれをしなくなるっていう。

ようするに終着点が大事なんですよね。で、僕たちにとっての終着点というのはお客さんにキレイに丁寧に料理を出して、美味しく楽しく食べてもらうことだから。そしたら僕たちの仕事って料理を作るだけじゃなくて、外のホールとの連携もすごく大事で。そういうのを総合的にやって、初めてひとつの仕事ができたことになるわけですよ。

だけど仕事ってやればやるほどキリないんですよ。さっき100パーセントは無理って言ったのもそういうことなんだけど、そっちの意味では終着点がない。人間って限りがあるし、どこか故障する時もあるわけ。僕だってミスすることもある。だから、その中でどこまで力を出し切れるかってこと。プロっていうのはそういうものだと思うんですよね。

>>後編に続く

編集者/東北芸術工科大学客員教授 河尻 亨一

PROFILE

編集者/東北芸術工科大学客員教授河尻 亨一
雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心に多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集を手がけ、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。
現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2016.12.26