賢者の仕事、賢者の健康

Vol.8毎日一生懸命なんですよ、私。不器用さをエネルギーに変えようと。
有森裕子氏 インタビュー(後編)

スペシャルオリンピックスは周りを変えていく

− 音楽や絵でもそういったコミュニケーションはありますが、スポーツは応援もダイレクトに届きやすいですね。有森さんはスポーツの素晴らしさを伝える様々な活動に取り組んでらっしゃいますが、最後にスペシャルオリンピックスについてうかがってみたいと。知的障害のある方々に、様々なトレーニングと競技会の機会を提供している国際的スポーツ組織ですが、有森さんは日本国内本部の理事長を務めています。

有森スペシャルオリンピックス(SO)の究極の目標は、「いずれそれがなくなること」だと私は考えています。健常者と障害者がともに生きることができれば、知的障害のある人が「特別な」存在だというニュアンスも漂う「スペシャル」という言葉はいらないですよね。そんな時代がいつか来ることを願いながら活動を続ける組織でありたいと思っています。

事実、SOのアスリートたちはできるんですよ。バスケでもバレーでもサッカーでも。「ユニファイドスポーツ」と言って、健常者と知的障害のあるアスリートが一緒にチームを組むこともありますが、コミュニケーションもとれます。それは知的障害のある人たちにとっても、障害がない人たちにとっても大きな気付きになりますよね。でも、多くの人々が彼らはスポーツなんてできないと思っています。それは違います。やれることの違いはあるとはいえ、「できない」のではなく、単に「やる機会がない」んです。

ですから、もっと多くの気付きの機会を社会に提供していく。それが私たちの役割です。SOは世界的運動であり、日本でも全都道府県に地区組織がありますから、活動自体はかなり活発です。役職的にはそこのトップですから正直大変なこともありますけど、自分にできる範囲のことをきっちりやっていくしかないですね。

SOのアスリートたちに接していると周りの先入観がなくなり、自分自身に対する意識もすごく変わっていきます。自分のおかしさに気付いたりするんです。彼らは負けたら泣くし、勝てば喜びます。でも私たちって、負けて笑ったりしてません? 

彼らの姿を見ていると、私たちが普通だと考えていることに疑問が湧いてくるんです。何をもって「普通」だと思ってるんだろう? って。彼らを支えているファミリーもそうだし、ボランティアの人たちもそう。私自身、気付きをたくさんもらっています。これだけ周りを変える力のある組織はなかなかないんじゃないかと。その意味ではこの空間は「スペシャル」ですよ。スペシャルオリンピックスを通して、そういうことに気付いていただきたいし、もう少し一緒に何かをやれる空間があってしかるべきだと思います。

編集者/東北芸術工科大学客員教授 河尻 亨一

PROFILE

編集者/東北芸術工科大学客員教授河尻 亨一
雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心に多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集を手がけ、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。
現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2016.09.15