賢者の仕事、賢者の健康

Vol.8毎日一生懸命なんですよ、私。不器用さをエネルギーに変えようと。
有森裕子氏 インタビュー(後編)

今回の賢者

PROFILE
元女子マラソン選手有森裕子

1966年、岡山県生まれ。バルセロナオリンピックの女子マラソンで銀メダル、アトランタオリンピックでも銅メダルを獲得。二大会連続のメダル獲得は日本女子陸上界で初で、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。現在、認定NPOハート・オブ・ゴールド代表理事、スペシャルオリンピックス日本理事長、厚生労働省いきいき健康大使など幅広く活動している。
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各界の一線で活躍するキーパーソンが、「仕事と健康」について語るインタビュー連載「賢者の仕事、賢者の健康」。ゲストは元マラソン選手の有森裕子さん。バルセロナ、アトランタとオリンピックで2度メダルに輝いたアスリートだからこそ語れる「仕事での結果の出し方」とは? 有森さんの趣味や現在の活動についてのお話も。
(聞き手:河尻亨一)

目標も持てずに嫌々やるなら辞めたほうがいい

前回は「健康」に関するお話をメインにうかがってきましたが、後半は「仕事」のお話も。先ほど「アスリートは”究極の職人”」という言い方をされたのが印象に残りましたが、スポーツ選手以外の仕事でも「超えなければいけない壁」にぶち当たることもあります。そういう時、どうやったら結果を出せると有森さんは思われますか?

有森(裕子氏 ※以下、有森)目標をどれだけ強く自分の中に持てるか、やはりそれに尽きるんじゃないでしょうか。どんな仕事でもそれを自分が選択したということは、そこに何か目標があるわけですよね。

会社がどうだとか上司がどうだとか、色々あるかもしれませんけど、自分の人生の過程においてそこを選んで来ているわけですから、まず自分自身の仕事に対する責任もあるはず。それをどれだけキチンと意識し、大事にしているか? だと思います。

結局「自分は何がやりたいのか?」ということ。私は自分が走ることを選びましたから、どれほどキツかろうが大変だろうが、私はそれをやりたいのでやったということ。だれかに「走れ」って言われたらイヤですよ(笑)。自分の意識、それだけです。

厳しい言い方かもしれませんけど、それが分からないというのは問題外です。目標も持てないまま嫌々やるなら、どんな会社であれ、どんな現場であれ辞めたほうがいい。それは自分にもいいし周りの人にもいいと思います。嫌々やっている雰囲気を出されるだけで周りもやる気を失っちゃいますし、本人も何も身につかないので時間がもったいないですよね。

キツそうな顔は全然していいんですよ? 仕事が辛い時には。でもイヤそうな顔になってしまうのなら辞めたほうがいいです。

− キツそうな顔とイヤそうな顔は違うんですね?

有森キツイことをやっているんですから、それは全然いいんですよ。その場合は周りにもやる気が伝わりますから、「頑張ってるなー、じゃあ何か手伝ってやろう」というふうになるんですけれど、イヤな顔はね。

そもそも色々な問題が起こるのは、周りだけが原因ではないので。自分も思いっきりコネクションしているんですよ。自分とはまったく関係ないところで「こんなことが起こって困る」という認識は大間違い。全部つながっていますから。「周りが変われば自分も変われる」なんて嘘で、自分が変わったほうが早いことは山ほどあります。

気持ちの切り替えと割り切りがポイントかも

− 有森さんは競技生活の中でそういったことに気付かれたんでしょうか。

有森そうですね。会社組織とはちょっと違うかもしれませんけど、私たちの場合、「監督がこうあってほしい」なんて思っている時間なんてないわけです。試合の日も決まっていますし、現役でいられる時間も限られてますから。だったら自分が早く変わったほうがいい。そのほうが早いです。

私も全部が全部できた人間ではないですから、練習のメニューなどに関して色んなやりとりは重ねましたが、自分が変わることでいい方向に動いていったケースが多いですね。もちろん、オリンピックに出る、オリンピックで勝つという目標が共有できているから、それが可能なんでしょうけど。

その意味では、目標に特化しようという気持ちの切り替えと明確な割り切りがポイントなのかもしれませんね。「なんとなく」がダメなんです。「誰かがなんとかしてくれるかも?」みたいな。そういう人はどの空間にいても結局同じことになってしまいかねない。まず自分の足もとと気持ちをしっかり整えないと。

− なんだか個人レッスンを受けているような気になってきました(笑)。ところで、有森さんからはグッとくる言葉がどんどん出てきますね。アトランタオリンピックでの「自分で自分を褒めたい」が有名ですが、今日お話を聞いている中でも響く言葉がたくさんあります。

有森それはなんでしょうね? 自分ではわかりませんけど、ずっと考えているんですよ色々。考えますよね? 自分の人生ですから。ともすれば、考えるのをやめたら自分の存在意義が消えちゃうような気もして。目にするものすべてに色々考えてしまうのは昔からの癖です(笑)。でも、考えないと物事はっきりしませんから。

言葉は人生の節目節目で、親や先生をはじめ色んな方々からもらってきたものだったりもするんですけど、それをなぜピックアップできたかというと、一生懸命なんですよ、私。毎日一生懸命。不器用だということも大きいのかもしれませんが、そのエネルギーで生きてきたという感覚があります。それがいいことなのか悪いことなのかはわかりません。でも、とりあえず今のところ悪くは働いてないと思います。それが自分にとって必要だったんでしょうね。

もちろん、私にもネガティブな感情だってあるんですけど、自分にいいところがあるとすれば、それを全部自分のエネルギーに変えたんです。「全部プラスに変えよう」って。でも、なぜそれができたかと言えば、やっぱり目標と夢があったからですね。