賢者の仕事、賢者の健康

Vol.8無理なく、楽しく、気持ち良く。有森流トレーニングのすすめ
有森裕子氏 インタビュー(前編)

今回の賢者

PROFILE
元女子マラソン選手有森裕子

1966年、岡山県生まれ。バルセロナオリンピックの女子マラソンで銀メダル、アトランタオリンピックでも銅メダルを獲得。二大会連続のメダル獲得は日本女子陸上界で初で、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。現在、認定NPOハート・オブ・ゴールド代表理事、スペシャルオリンピックス日本理事長、厚生労働省いきいき健康大使など幅広く活動している。
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各界の一線で活躍するキーパーソンが、「仕事と健康」について語るインタビュー連載「賢者の仕事、賢者の健康」。今回のゲストは元マラソン選手の有森裕子さんです。「走る」ことで世界を沸かせ、現在もスポーツの魅力を伝える活動を精力的に行う有森さんが考える「仕事と健康」とは? 前半は健康とトレーニングについてのお話をメインに。
(聞き手:河尻亨一)

「からだとの対話」を重ねて、気持ちいい状態を保つことが大切

− プロのアスリートとしてやってこられた方々は、健康に関してもこだわりをお持ちなのではと思うのですが。

有森(裕子氏 ※以下、有森)皆さんそういったイメージはお持ちかもしれませんが、実は「アスリート=健康」というわけでもないんです。競技者というものは、健康のためにスポーツをやっているのではなく、職業としてやっている方などもいるわけですから。

「結果を出す」ため「今の自分を超える」ため、心身に過剰な負担をかけることもあり、人によって引退する時には、ボロボロになってしまっている人もいます。その意味ではむしろ健康的ではないのかもしれません。個人差や競技種目による違いもあるんですけど。

とはいえ、毎日練習をしなきゃいけないですから、体重コントロールも含めたからだ作りや栄養のバランス、体調の整え方ーーそれこそ「しっかり食べて走らなきゃ!」といった意識は他の職業の方々に比べて高いとは思います。

私自身、いわゆる「からだにいいこと」っていうのは特に何もやってないんですけど、ずっとそうやって”からだとの対話”を続けてきた中で、こういうふうにすると気持ちいいということはわかっていますし、それを保つようにしていると思います。

− ”からだとの対話”という言葉が気になりました。それがどういうことなのか、もう少し教えていただきたいのですが。

有森けっこう自然なことだと思うんですよ。過剰を避けるということですから。食べ物でもお酒でも、たくさん摂ると味がわからなくなりますよね。味がわからなくなるというのは、すでに過剰なわけです。

腹八分目っていうのでしょうか? 適度に一番おいしいと思えるところで止める。そういったことは練習の時でも常に意識してましたね。何をどれくらい食べると、次の日の体調や練習がどうなるか? と。からだとの対話というのはそういったことの積み重ねですが、競技をやめてもその感覚がなくなるわけではありません。

「食事ってほんとに毎日3食必要なのかな?」と思います

− 今のお話だと、アスリートでなくてもからだとの対話が大事そうですね。

有森もちろんです。まずは意識することが大切だと思うんです。自分にとって何がからだにいいか? って。

そう考えると、「食事ってほんとに毎日3食必要なのかな?」と思います。私自身は1日2食、ともすれば1食でもいいくらいです。運動量って年を重ねるごとに、減っていきますよね。動きも子供の頃より少なくなって、カロリーも成長期ほど必要ではなくなってくる。なのに食のスタイルがずっと変わらないのは不思議な気もして。

本当はお腹もそんなに空いてないのに、毎日3食摂るのはどうなんだろう? と。例えば夕食を食べて寝ちゃうと、消費カロリーは活動している時に比べて減ります。重い夕食だったらなおのこと蓄積も大きいわけですから、朝ごはんまでにある程度エネルギーを使っている必要があります。だとすれば、出社後に少し仕事をしてからブランチという選択肢もありますよね?

もちろん、これは人によりけりなんです。私の食事のスタイルが他の人に当てはまるかというと、それはわかりません。特に子供たちはまだ「からだを作る段階」ですから、しっかり食べることが大切。でも「からだを保つ段階」に入った成人はまた違うということです。

ただ、私はその感覚をずっと自分の中に持ってきた中で、今の2食という判断があるわけですから、皆さんもご自身のからだとの対話の中に、それぞれのベストな答えがあると思います。