睡眠と脳機能の発達は直結する！日々の工夫で子どもの睡眠時間の確保を【後編】

［お話を聞いたのは…］

――睡眠はからだだけではなく、脳の疲労回復や記憶の整理に重要な役割を担っていることが前編のお話でわかりました。今回はまず、睡眠と脳の発達の関係から詳しく教えてください。

成田：子どもの脳の発達は段階的に進みます。0〜5歳の乳幼児期には、私は「からだの脳」と呼んでいますが、「生存に必要な脳」が発達します。寝る・起きる・食べる・からだを動かすといった基本的な機能です。この時期に昼夜のリズムを身につけることが、人間が昼行性として生活できる基盤になります。そのリズムを形作るのが、規則正しい睡眠です。

小学校に入る頃から、主に小中学生の義務教育の時期に、言語機能や手先を使う運動機能など、いわゆる学習に関わる「おりこうさんの脳」の領域が伸びていきます。そして小学校の高学年以降になると、抽象的な思考や論理的思考、社会とどう関わったらよいかを考えるといった高度な機能「こころの脳」が発達します。

最も大事なのが土台となる「からだの脳」です。ここが強固なものでないと、その上に積み上げていくことができません。だから、からだの脳が育っていない幼少期にいくら勉強をさせても、まだ脳が「おりこうさんの脳」が育つ時期に入っていませんから、本当の意味で理解できていないということになります。

れーこ：私は普段SNSを中心に子どもの早寝について発信していますが、そこでママたちの悩みを聞いていると、この5歳までに「からだの脳」が育っていない子が多い印象です。

成田：おっしゃる通りです。睡眠不足が進んでいる昨今では、小学校中学年くらいまではその土台を培う段階にある方が多いのかなと思います。

れーこ：私は元小学校教員ですが、教員時代の経験から低学年の子は親が生活リズムを整えてあげると素直に取り入れ、身につけられる子が多いと感じます。でも高学年になると反抗期が始まり、自己主張も強くなって難しくなることがありますよね。だからこそ、小さいうちから早寝早起きを習慣にしておくことが大事だと思います。

成田：脳科学の理論から言っても、早寝早起きの土台をつくっておけば、勉強面が後からぐっと伸びます。反対に睡眠不足だと、せっかく勉強しても「記憶を整理する倉庫（＝脳内）がぐちゃぐちゃな状態」で知識を引き出せません。脳は睡眠によってその記憶の倉庫を整理整頓し、すぐに引き出せる状態に整えるのです。

――睡眠と健康の関係についてもお聞きしたいです。

れーこ：我が家もですが、私の周りでも「早寝を始めたら子どもが風邪を引かなくなった」という話をよく聞きます。

成田：睡眠は免疫機能に直結しています。脳の前頭葉は免疫と深く関わっていますし、腸内環境にも大きく影響します。腸内細菌のバランスが、免疫機能を左右するのです。
睡眠中は副交感神経が優位になり、消化が活発になる。つまり十分な睡眠をとると朝に胃が空っぽになっていてスムーズに排便できるし、とてもお腹が空いているはずなんですよね。
それを裏づけるように、朝の排便習慣のある子どもほど早寝早起きが実行できており、逆に遅寝の子で排便が毎朝あるという子は10〜20％程度に留まっていることが複数の研究結果として残されています（※1、※2）。同時に早寝の子に比べて、遅寝の子は起床後に食欲がないという子が2倍以上もいたという論文もあります。（※1）
つまり早寝早起きで腸内環境を整えることが大切で、ひいては免疫力アップに影響すると考えられているのです。

――忙しいご家庭でも取り入れられる睡眠時間確保の実践的な工夫を教えてください。

れーこ：私は「19時消灯ママ」としてInstagramや書籍で早寝の実践方法を発信していますが、一番効果があるのは「帰宅したら即お風呂」です。玄関から直行するくらいの勢いで（笑）。ひとたびリビングで休んでしまうと、ついダラッとしてしまうんですよね。そもそも子どもはお風呂を面倒くさがりがちですから、子どもの人数分だけ親の負担も増えるんです。そして入浴が遅れて、寝る時間も遅くなってしまいます。お風呂を先に済ませられれば、今より30分は早く寝られると思います。

成田：我が家でもそれは実践していました。忙しい日はシャワーで済ませるのでもいいと思いますね。子どもは体温が高いので、冷え性の親が思うほど冷えませんから。

れーこ：それから照明の工夫もおすすめです。家の部屋をひとつずつ暗くしていって、子どもを寝室へと追い込んでいくんです（笑）。小さな子は明るい方が好きだから、寝室だけ暗いと脱走しがちです。家全体を暗くして「寝る雰囲気」をつくるのが大事だと感じています。

成田：その工夫は医学的にも理にかなっています。暗闇にいると、自然な眠りを誘発するメラトニンが分泌されますからね。よく寝室で使う豆電球でさえも、実は睡眠を妨げることがあるので、真っ暗が理想。どうしてもお子さんが「怖い」という場合は、寝付いた後に暗くするといいでしょう。

――中学受験を控えるご家庭では、夜遅くまで塾がある場合も多く、就寝時間が遅れがちですよね。どう対応したらいいでしょうか。

成田：受験生でも理想は21時就寝ですが、どうしても22時帰宅になる場合は睡眠時間の確保のために「22時15分には眠る」と“決める勇気”を持つといいと思います。入浴は簡単に済ませる、夕食は塾の前や休憩時に済ませる、帰り道に軽くおにぎりを食べる、宿題は学校の休み時間に終わらせるなど、1分でも早く寝られるようにできる限りの工夫をしていただきたいですね。そして翌朝は6時半まで寝かせて、睡眠時間を削らないようにすることが重要です。

れーこ：「帰宅後15分で寝るなんて無理」と感じるかもしれませんが、私の経験ではできないことはないと思っています。でもそれには、塾以外の夜の習慣は思い切って削り、親が覚悟を決めて「睡眠最優先」に導く必要があります。頑張り屋さんの親御さんが多いので、子どもを温かいお風呂に入れたい、夕食も品数多く食べさせたい、少しゆったりする時間も与えたいなど考えがちですが、睡眠最優先という視点から考えると、もしかすると多少はコントロールできる部分があるかもしれません。

成田：睡眠時間を確保できて、その効果を感じ始めると、子ども自身が「眠らないと勉強効率が落ちる」と実感して、自ら工夫し始める。そんな例を私は多く見ています。それが本当の意味での「自律」なんですよね。

――本記事の最後に、前編につづいて「よくある睡眠の都市伝説」について、ウソ、本当のジャッジを成田先生にしていただきます。

「寝る前にゲームをすると怖い夢を見る」

→ 本当！

怖い夢を見ている時点で眠りが浅いことがわかります。夜驚症（やきょうしょう：眠りについてからあまり時間が経たないうちに、極度の不安から目覚めてしまうこと）や夢遊病（むゆうびょう：睡眠中の人が自覚のないまま半ば無意識の状態で歩き回る現象で、睡眠時遊行症とも呼ばれる）などと同じ系統の睡眠の問題です。深い眠りで見た夢は記憶に残りづらいのですが、悪夢を表現できるということは、眠りの質に問題があるということです。もし寝る前にゲームをしているのだとしたら、それが原因のひとつとして考えられる場合があります。テレビやスマートフォンの画面から放射されるブルーライトは人の脳を覚醒させるので、睡眠にはネガティブに働きます。

「暗記は寝る前にするといい」

→ 本当！

十分な睡眠時間を確保していることや就寝時間を守っていることが前提ですが、寝る前の記憶は睡眠中に整理され、朝に固着されていることは理論上あり得ることです。私もそうして勉強していました。

――子どもにとっての睡眠は、からだはもちろん、脳の成長にも大きく関係していることがよくわかりました。小さい頃からの早寝早起きの習慣づけで、子どもの健やかな成長を見守りたいですね。