子どもこそ睡眠不足に要注意!健康への影響と必要な睡眠の量を解説【前編】

2025年12月15日
2025年5月、子どもの大半が睡眠不足という記事(※)が話題になりました。その記事では、『例えば、小学校6年生の推奨睡眠時間は9~12時間だが、95%の児童がそれより短かった。』との記載がありました。加えて、睡眠不足が及ぼす集中力の低下や、将来的な健康リスクにまで言及されています。今回は睡眠が子どもの心身、そして脳に与える影響や睡眠に関する都市伝説のウソ・本当を学び、正しい知識を身につけることで子どもの健やかな成長を睡眠で後押ししていきましょう。
*なお、健康美塾の本記事では0〜15歳のお子さんを対象にお話しいただいています。
※2025年5月17日配信 産経ニュース「子供の大半が睡眠不足 学習、健康に悪影響 大規模調査で浮き彫りに」
https://www.sankei.com/article/20250517-I3P6K22VLNOWZNH7CS2BUMC3SE/?outputType=theme_nie
[お話を聞いたのは…]


子どもの睡眠不足はなぜ起こる?
――現代の子どもの睡眠不足の背景について教えてください。
成田:昭和30年代(1955〜1964年)では夜8時には子ども向け番組が終わり、家庭でも「子どもは早い時間に寝る」が当たり前でした。ところが高度経済成長期に子ども時代を過ごした親世代は、「夜遅くまで塾に行く」「夜更かしして勉強する」ことが普通になり、その経験が価値観として残ってしまって、現在の「21時に寝かせれば十分」という感覚につながっているのだと思います。その結果、小学生にもなると22時過ぎまで起きているのが普通になってきています。けれども、人間のからだが進化して夜型に適応したわけでは決してありません。子どもの成長や発達に必要な睡眠の質と量は、今も昔も変わらないと考えられています。だから子どもの成長や脳の発達に問題が起こっているのです。
れーこ:私は「19時消灯ママ」として早寝の実践をSNSで発信していますが、「子育ての中で睡眠を第一に考えているか?」というアンケートをとったところ、回答した2,187人のフォロワーさんのうち「YES」と答えたのは44%で、半分以上の方は「NO」でした。つまり「睡眠より優先することが他にある」というご家庭が多いということ。私のアカウントの特性上、早寝に関心のある方が多いにも関わらずこの結果なので、社会全体ではもっと割合が低いことが考えられます。

子どもに必要な睡眠時間と就寝時刻
――子どもは具体的にどのくらいの時間、寝るのが理想なのでしょうか。
成田:小学生であれば10時間、夜8時に寝て朝6時に起きるのが理想です。中高生でも9時間睡眠は必要です。もちろん現実的に10時間睡眠は難しいご家庭もあるでしょう。その場合でも、小学生なら最低9時間は確保してほしいですね。特に大事なのは「連続した睡眠」。昼寝を足して9時間ではなく、夜に連続的に眠ることが重要です。

成田:さらに、睡眠には就寝時刻も重要です。大人でも0時を超えて寝る人と日付が変わる前に寝る人とでは、うつ病や生活習慣病、発がん率に差が出るという研究があります(※1、※2)。子どもだったらなおさらのことです。特に大事なのは「22時には熟睡していること」です。そのためには21時までに布団に入って目を閉じる習慣が必要です。就寝時間を固定して、その残りの時間でタイムスケジュールを組むと良いと思います。
※1「社会的ジェットラグと睡眠」(三島和夫)※2「Sleep duration and the risk of cancer: a systematic review and meta-analysis including dose–response relationship」(Yuheng Chen, Fengwei Tan, Luopei Wei, Xin Li, Zhangyan Lyu, Xiaoshuang Feng ,Yan Wen, Lanwei Guo,Jie He, Min Dai and Ni Li)
――よく「睡眠時間が取れないなら、質の良い睡眠でカバーする」という考えも耳にすることがありますが、そういったことは効果的なのでしょうか?
成田:睡眠パターンが確立されていて、成長発達が一定レベルに達している人にはそのように言えることもあります。しかし、子どもに関しては自分で睡眠を調節できるような機能がまだ完成していないので、十分な睡眠時間の確保が必要と考えていただきたいです。
――では、起床後に子どもが活動的になるまで、どのくらいの時間が必要なのでしょうか?
朝起きて、朝食をしっかりとって、リラックスしている間に便意をもよおし、排便してから学校に向かう。ここまでに1時間半は必要だと考えます。子どもが家を出る時間を7時半と仮定すると、6時ごろの起床が望ましいですが、夜8時に眠ればそのくらいの時間には自然と目が覚めると思います。
寝付きの悪い子は睡眠サイクルが悪循環に陥っている
れーこ:フォロワーさんからの質問で多いのが「子どもの寝付きが悪い」ということなのですが、原因は何が考えられるのでしょうか?
成田:体内時計に合わせて、「この時間になったら寝る」という睡眠サイクルが脳の中にできていないことが理由として考えられます。その大きな原因が「光」です。光が目の中に入ると、夜眠くなるために必要なメラトニンという物質が分泌されづらくなり、スムーズに入眠できなくなるのです。
加えてメラトニンは、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンから変換されて作られます。そのセロトニンは朝に大量分泌されるもので、そのとき日光を浴びないと生成が促されません。したがって、朝しっかり日光を浴びないと夜のメラトニン生成にも悪影響を及ぼし、入眠しづらくなるわけです。また幸せホルモンの分泌が少ないということは、学校に行っても不安感を覚えることにつながる可能性もあり、日中の嫌なことを夜に思い出しては眠れなくなるといった悪循環に陥るとも考えられます。

れーこ:でも、気付いた今からでも睡眠サイクルを整えた生活を送れば、しっかり眠れるようになるんですよね。我が家もそうでした。
成田:はい。そこが睡眠の良いところで、生活改善をすれば割と短期間で子どもの睡眠は変えられます。ただ、「早く寝なさい!」と言ったところですぐに寝入ることができるわけではないので、私はまずは「早起き」をおすすめしています。朝早く起きて太陽の光を浴びてセロトニンを沢山分泌させる。日中の活動ではからだをたくさん動かすことで疲れさせ、夜は早めに部屋を暗くして床につく。すると、メラトニンは大量に分泌され、いろいろ悩みごとはあっても、眠さが勝って寝付きやすくなるでしょう。
睡眠中、心身ともに成長し、脳内が整理される

――寝ている間、具体的に子どものからだや脳の中でどんなことが起こっているのでしょうか。
成田:睡眠中はからだや脳の疲労回復はもちろん、特に睡眠の前半の深いノンレム睡眠(脳とからだを休ませて疲労回復させる「深い眠り」)では「成長ホルモン」が大量に分泌されます。筋肉を強化し、骨を伸ばし、からだを育てるのはこのホルモンです。睡眠が短いと、この分泌が不十分になります。
後半のレム睡眠(脳が活発に活動しながらからだを休ませる「夢を見ている状態」)は脳の記憶の整理整頓が行われる時間。日中に学習したことが脳に定着するのはこのときです。だから、睡眠不足だとせっかく勉強したことが定着する前に朝を迎えることとなり、「混乱した脳」で登校。その状態で新しいことを学んでも定着しづらくなります。寝不足で勉強効率が下がるのは、このような理由もあるのです。
れーこ:私が小学校の教員をしていたとき、授業中にウトウトする子がいました。眠いと内容が頭に入らず、当然理解度も下がります。集中力も続かないので、学習の遅れにつながってしまいますよね。睡眠不足はそのような意味でも影響があるのかなと思います。
しっかり、たっぷり眠ることのメリットとは
――睡眠時間をしっかり確保すると、具体的にどんなメリットがあるのでしょうか。
成田:大きく4つのメリットが考えられます。まず1つ目は、成長ホルモンがしっかり分泌され、からだが健やかに成長することです。2つ目は、記憶が整理されて学習効率が上がること。そして自律神経のバランスが整うことで、情緒が安定し、自己肯定感も高まることが3つ目のメリットです。その結果、イライラしにくくなり、朝の目覚めもよくなります。4つ目として、免疫機能も高まり、風邪を引きにくくなることもわかっています(※)。
※文部科学省「睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査の結果」https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/katei/__icsFiles/afieldfile/2015/04/30/1357460_01_1_1.pdf
れーこ:我が家でも娘が早寝をするようになってから、本当に風邪を引かなくなりました。さらに朝すっきり自分で起きられるようになったり、宿題も自分から済ませるようになったりも。そうなると親も子もイライラしなくて済むんですよね!家族全体が明るくなりました。
成田:そうなんです。だから子どもだけ寝かしつけるのではなく、家族みんなで早寝早起きに取り組むことをおすすめしたいです。
睡眠不足が引き起こすデメリットとは
――逆に、睡眠不足のデメリットを改めて整理するとどうでしょうか?
成田:心身の成長が不十分になって、背筋が伸びた正しい姿勢を保てない、授業に集中できない、感情のコントロールが効かないといった日常の困りごとにつながることが考えられます。また、せっかく勉強しても定着しにくい状態になるので、夜遅くまで勉強するのは実は逆効果な面もあります。
れーこ:子どもの早寝に取り組んでいると、「勉強時間が減るのでは?」と心配する親御さんも多いんです。でも実際には睡眠を優先した方が勉強の効率が上がり、理解度が深まるのだと私も思います。
睡眠にまつわる都市伝説のウソ・本当を解説!
――ここからは「よくある睡眠の都市伝説」について、ウソ、本当のジャッジを成田先生にしていただきます。
「週末に寝溜めをすれば平日の寝不足は解消できる」
→ ウソ!
成田:夜更かしの習慣のある子が寝溜めをすると、平日の睡眠の質が下がるという研究結果があります(※1)。そもそも、夜型にシフトした生活をしていると睡眠障害が多くなるという論文もあるように、寝溜めをしたくなるような夜型の生活は、寝不足の解消どころか、睡眠にとってネガティブに働くわけです(※2)。脳を正常に機能させるには、平日も休日も±1時間以内で同じリズムを保つことが必要です。
※1「Chronotype influences activity circadian rhythm and sleep:Differences in sleep quality between weekdays and weekend(Jacopo A. Vitale, Eliana Roveda, Angela Montaruli, Letizia Galasso, Andi Weydahl,Andrea Caumo, and Franca Carandente)
※2「女子学生における睡眠の実態と生活習慣の関連について」(加藤 志都・内藤 通孝・阪野 朋子)
「昼寝をすると夜眠れなくなる」
→ 状況によります!

多くが保育園児さんのお悩みだと思いますが、夜間睡眠がしっかりとれていれば、昼寝をしても夜眠れます。夜眠れないお子さんは、きっと寝不足状態で通園していて、たっぷりのお昼寝で睡眠不足を補完する形になっているのだと思います。でもそれでは帰宅後に眠くならず、夜更かししてしまい、また翌日に寝不足で登園という悪循環に。夜間睡眠を連続的に取らせることを意識しましょう。夜7時間+お昼寝3時間で合計10時間睡眠だからOKということでは決してないんです。
「寝る子は育つ」
→ 本当!
しっかり眠ることで、その子が本来持っている潜在能力が引き出されます。親が「うちの子はできない」と思っていたことが、実は睡眠不足による一時的な不調だった、という例も少なくありません。睡眠を確保することでできることが増え、メンタルも落ち着き、子どもの自己肯定感も高まるでしょう。
――後編では、「睡眠と脳との関係」「発達上の悩みと睡眠」「健康と免疫機能」「忙しくてもできる早寝アイデア」についてうかがいます。
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