「疲れやすいし、顔色がよくない…」その不調、実は“隠れ貧血”かも!?

2025年03月13日
なんだか最近疲れやすいし、不調気味。でも、睡眠時間もある程度取れているし、生理時期でもないし……。もしかしたらその症状、「隠れ貧血」の可能性があるかも!?そんな、気が付きにくい隠れ貧血に悩まされている女性を漫画で描きながら、内科医の山本佳奈先生に、そもそも隠れ貧血とは?ということから、隠れ貧血を予防するために気をつけたいことについて伺いました。
今回は、人気漫画家rikkaさんの『rikkaの恋愛メモランダム』の番外編として、隠れ貧血を紹介いたします!










普通の貧血と隠れ貧血、どう違う?
――そもそも普通の貧血と隠れ貧血とでは、なにが違うのでしょうか?
どちらも鉄不足が原因で起こりますが、普通の貧血は血液中のヘモグロビンの値を基準とするのに対して、医学的に「潜在性鉄欠乏症」と呼ばれる隠れ貧血は、体内に貯蔵されている鉄分の値を見て判断します。どのくらい貯蔵鉄があるかは、血液検査ではフェリチンという項目で測定することができるのですが、その数値が低いと(WHOの基準(※)では15ng/mL以下)、隠れ貧血と診断されます。ただ、健康診断ではフェリチンの値を測定しないことの方が多く、症状も倦怠感や顔色が悪いなど、他の病気にもある症状だからこそ見過ごされがちなんです。
※出典:New Thresholds for The Use of Ferritin Concentrations to Assess Iron Status in Individuals and Populations|World Health Organization
*なお、フェリチンの値の測定が保険適用になるかどうかは、医師の判断になります。医療機関にご相談ください。
――たしかに、痛みなどが出るわけではないと、「一時的なものだろう」「寝れば大丈夫」などと、つい放置しがちな人も多いと思います。
症状には個人差があるので、より自覚しにくいのもあります。また、女性の場合は月経があるため鉄不足になりやすいですが、だからこそ「これが普通だよね」と思っている方も多いのではと思います。ただ、貯金と同じように、蓄えているものがどんどん減っていけば、血液中を流れている鉄を使わないといけなくなります。隠れ貧血を放置し続けることで、普通の貧血に移行する可能性もあります。
――特に気をつけるべき年代はありますか?
月経がある女性は、年代問わず気をつけてほしいですが、その中でも特に「いつか子どもを産みたい」と、将来妊娠・出産を考えている方は、やはりより意識的に鉄分を摂取してほしいですね。妊娠がわかってから一生懸命摂取しても、すぐに数値が良くなるわけではないので、もし将来的にお子さんを授かりたいという想いがあるなら、若いうちから気にかけてほしいと思います。
ただ、子どもはスポーツ貧血になりやすかったり、意外と男性も鉄不足の方が多かったりと、性別・年齢問わず隠れ貧血・貧血は問題となっています。高齢になればがんや慢性疾患による貧血をきたすこともあるので、「私は大丈夫」と思わずに、意識してほしいところです。
食事だけで補えない場合は、サプリを活用していい?
――隠れ貧血の原因は鉄不足ですが、改めて成人女性が1日に摂取すべき目安はどのくらいなのでしょう?
厚生労働省が推奨する摂取量は、月経のある18~49歳で10.5mg、50~64歳で11mg(日本人の食事摂取基準(2020 年版))。妊娠をした場合、初期・授乳期は+2.5mg、中期・後期は+9.5mgといわれています。
――2023年(令和5年)の国民健康・栄養調査では、1日の鉄摂取量の平均値は20~29歳女性で6.5mg、30~39歳女性で6.2mgでした。数値にも表れているように、意識していないと、なかなか摂れない量ですね……。
鉄分には、体に吸収されやすい「ヘム鉄」と、吸収されにくい「非ヘム鉄」の2種類がありますが、「ヘム鉄」はレバーや赤身の肉や魚に含まれており、ぜひ意識的に摂ってほしいです。ただ、そればかり食べてはかえってバランスも崩れてしまうので、緑黄色野菜や豆類、海藻などに含まれる「非ヘム鉄」も上手く摂取しましょう。
――鉄分の吸収を妨げるものなど、気をつけるべきことはありますか?
お茶などに含まれる「タンニン」が妨げるといわれていますが、なかなかそこまで考えるのは大変ですよね。「絶対にこうしなきゃ」となってしまうのではなく、もし余裕があったら、普段飲んでいるお茶を水に代えてみる、くらいでいた方が気持ちもラクだと思います。
もし、家で料理する方だったら、鉄のフライパンや鍋を使ってみることもおすすめです。鉄の調理器具はメンテナンスが大変ではありますが、そんなちょっとした工夫もできます。また、「非ヘム鉄」と「ビタミンC」を一緒に摂取すると吸収率がアップするといわれているので、意識できるところから始めるといいでしょう。
――普段からちょっとした意識をすることは大切ですね。
食事だけで補うことはどうしても難しいと思うので、サプリメントを上手に活用するのも一つの手です。あくまで補助食品ではありますが、今は種類も多く、おやつ感覚で摂取できるグミタイプもあるので、ご自身が続けやすいものをまずは選ぶといいでしょう。ただ、「サプリを摂っているから大丈夫」と自己判断するのは危険です。実は大きな病気が隠れていた……なんてことがあっては困るので、貧血だと思われる症状が継続的に気になるようだったら、一度病院で相談するのがいいでしょう。
過度な運動はかえって貧血になる!?
――食事の他には、どんなことを意識するといいでしょうか?
意外と知らない方も多いのですが、運動もやりすぎてしまうと、かえって貧血を誘発してしまうんです。もちろん適度な運動は健康にとっては欠かせませんが、負荷が大きすぎる運動は、足底部に強い衝撃がかかることによって赤血球が破壊されてしまったり、大量に汗をかくことによって再吸収が追いつかず、鉄分が排出してしまうことに。筋肉の量が増えると、それに伴い必要な鉄の量も増えます。健康を意識してマラソンを始めたのに、かえってだるかったり疲れやすくなったなんてこともあります。筋トレや運動をしている人は、プロテインを意識して摂取されることが多いと思いますが、あわせて鉄分も摂るようにしましょう。
また、「痩せている方が美しい」といった過剰な痩せ信仰による無茶なダイエットも、隠れ貧血の大きな要因でもあると思います。貧血だけでなく、婦人科系の疾患や摂食障害につながる危険性もあるので、過剰な痩せ信仰については社会全体だけでなく、個人一人一人も考えていくべきだと思います。
――まさに私自身、学生の頃に無茶なダイエットをした経験があります……。
せっかく蓄えていても、失ってしまうのは一瞬なんですよね。ただ、鉄を蓄えるっていう体のシステムがあるわけなので、また継続して摂取し続けていけば基本的には大丈夫です。薬を1回飲めば1週間でよくなる、といった簡単なことではありませんが、根気よく続けていきましょう。
隠れ貧血の治療は長い目で考えて
――隠れ貧血で病院を受診する場合、どこの科に行けばいいとかありますか?
一般的には内科で問題ありませんが、血液も診ているところだと、なおいいと思います。婦人科的な問題もあるようだったら、婦人科で相談されてもいいでしょう。もし、健康診断の結果が手元にあるようだったら、受診する際にそれを持っていくと、先生としても比較材料となるのでありがたいと思います。
――隠れ貧血と診断されたら、どのような治療がされるのでしょうか?
一般的には、鉄剤が処方されます。ただ、鉄剤=吐き気や便秘、下痢などの副作用が出やすいというイメージがある人も多いのではないでしょうか。最近の薬は副作用が出にくくなっていますが、個人差があり、出てしまう方もいらっしゃいます。副作用が気になる方、また過去に副作用が出た方は、先生に一度相談してみるといいでしょう。どうしても難しい方は食事やサプリメントで経過を見ることになりますが、私が診察していた際は、鉄剤の種類を変えてみたり、1ヵ月分を半錠にして2ヵ月飲んでもらったりと、患者さんによって調整していました。
もちろんただの鉄不足ではなく、何か他の原因がある可能性も考えられるので、そのあたりは問診だったり、必要に応じて詳しく検査をします。
隠れ貧血は痛みもないし、鉄分を意識的に摂ったからといってすぐに改善されるわけではないので、通院するのも面倒になって、治療が続かない人も多いんです。でも、健康である状態を維持するためには、コツコツと続けていくことが不可欠。「これをすればすぐに治る」と思わずに、ちょっと意識を変えてみたり、食生活や運動習慣を見直してみたりすることが、まず第一歩として大切なんです。自分の体を気にかけて意識することが、過度な運動を避けたり、意識して食材を選ぶことにも繋がったりするのだと思います。
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