水仕事が多いあなたに。医師に聞く日常に取り入れやすい手の保湿ケア
2024年12月25日
料理やお風呂掃除などの水仕事、頻繁な手洗いやアルコール消毒などで荒れてしまいがちな手元。とくに空気が乾いている冬は、肌の乾燥がひどくなりやすく、手荒れの症状に悩まされる方も少なくないと思います。
そんな冬の過酷さに負けず健康的な手元でいるために、どのようなケアが必要なのでしょうか? 対処法やコツを皮膚科専門医の小渕英里先生におうかがいします。また、フラワーデザイナーという職業柄どうしても水仕事が多く、手を酷使しているという「migiwa flowers」の秋貞美際さんにもご登場いただき、健やかな手を保つための日々のケアについて考えていきます。
「健康的な手」を阻(はば)む原因とは?
――そもそも、「健康的な手」とはどのような肌のコンディションをいうのでしょうか?
小渕:肌のカサつきやつっぱり感、かゆみ、赤み、さらには湿疹といった症状がなく、適度にうるおい、つまり油分と水分があって、やわらかな肌の状態が健康的な手だといえます。
――健康的な手のコンディションが崩れてしまう原因には、何があるのでしょうか。
小渕:手はよく使う部分ですから、日常生活で肌を乾燥させてしまう状況が多くあります。
代表的なのは、頻繁に手を洗うこと。特にコロナ禍ではアルコール消毒のしすぎで手が荒れたという方が当院にも多くいらっしゃいました。殺菌力や洗浄力の高い消毒液を使い、そのままにしていると、肌の油分が失われて乾燥がぐっと進みます。洗剤や漂白剤などを使う水仕事のときも同様です。
手を洗うとき、お湯の温度が高いことも、肌の油分が失われてしまう原因になります。ただ、だからといって逆に水が冷たすぎるのもNG。特に冬場は手がかじかんで、肌の潤いを保つための汗が出づらくなってしまうんです。ほかにも、紙類を触れることが多い場合も、手の油分が減る原因になります。
――手の油分が減り、乾燥すると、どうなってしまうのでしょう?
小渕:手が乾燥すると、皮膚のバリア機能(外部刺激から肌を守り、肌の水分を保持する機能)がダメージを受けやすくなります。その状態で刺激の強いものに触れたとき、かゆみ、赤み、湿疹といった手荒れの症状が出てくることもあります。アレルギーをもっている方の場合は、アレルギー物質に触れると普段よりも強く症状が出やすくなるでしょう。
症状が悪化すると自然治癒に時間がかかってしまうため、健やかな手の状態を保つためには早めの対策が必要です。
水に触れることも多い、フラワーデザイナーの手荒れ対策は?
――秋貞さんは、フラワーデザイナーとして普段からたくさんの植物に触れるお仕事をされています。手の乾燥を感じることはあるのでしょうか?
秋貞:はい、11月以降のクリスマスシーズンは特に感じやすいですね。この時期はクリスマスツリーやリースをつくるために、モミの木などの針葉樹を扱うことが多いんです。
秋貞:針葉樹はヤニがとても出やすく、手についてベトベトになってしまう。もちろん軍手をはめて作業することもあるのですが、繊細な作業は感触をしっかりたしかめながらのほうが進めやすいので、素手で扱っているんです。
手についたヤニは、アルコールや熱いお湯を使わないと落ちません。先ほどの先生の話を聞いて、手が乾燥してしまうのも納得だなと思いました。
――仕事柄、どうしても手の油分が抜けてしまう洗い方になってしまうんですね……。日常生活では、ハンドケアについて気をつけていることはありますか?
秋貞:じつは恥ずかしながら、この仕事を始めてしばらくは、元々の肌が持っている保湿力や治癒力に助けられていたこともあって、あまり日々のケアをしてこなかったんです。
ただ、コロナ禍で頻繁にアルコール消毒をするようになったことも相まって、数年前から一気に手荒れするようになって。そこから乾燥を防ぐためにハンドクリームをこまめに塗るようになりました。自己流ではありますが時間のあるときには念入りにケアをするようにもしています。
秋貞:ちなみに、手が暖かいときにケアしたほうが肌のうるおいを感じやすいのですが、温度も関係あるのでしょうか?
小渕:はい、ある程度血の巡りを良くしたほうが乾燥を感じにくくなります。手をマッサージするなどして体温と同じくらいに温めると、ハンドクリームの伸びもよくなるんです。そうすると肌への摩擦も少なくなるため肌にやさしく、効果的なケアができます。
放っておくとアレルギー症状も。手荒れは早めの対処を心がけて
――秋貞さんの場合、手が荒れてしまったり、湿疹ができてしまったりした場合は、どのように対処していますか?
秋貞:すぐに皮膚科へ行くようにしています。私は季節のお花でブーケをつくるレッスンも開催しているのですが、この場には非日常感を楽しみに来てくださるお客さまがたくさんいらっしゃるんです。
それなのに、レッスンする私の手があかぎれだらけだったら、花を扱う大変さも含めてお客さまに伝わり、現実に引き戻されてしまうなって。そういう意識もあり、ここ数年は不快な症状が出る前に皮膚科へ行って治すようにしています。
小渕:かゆみやあかぎれなど手荒れの症状が出てしまうと自然には治りづらいので、そのような早めの対処はとても大切です。乾燥や手荒れ予防のためにハンドクリームで健康な状態をキープするケアをして、それでも手荒れの症状が出てきてしまった場合には、皮膚科の受診も視野に入れてください。
秋貞:良かったです。先ほどお話をうかがっていて少し気になったのですが、肌のバリア機能がダメージを受けていると、外部刺激に強く反応しやすくなるという話がありましたよね。私自身、手荒れをするようになってから、肌のかゆみなどが強く出やすくなった気がしていて……。
小渕:そうですね。普段はブロックできている外部刺激も、肌のバリア機能が崩れているところから入ってきやすくなります。そのため、症状が出やすくなるんです。
秋貞:やっぱりそうだったんですね。勉強になります!
ハンドクリームはいつ塗るべき?日常に取り入れやすいケア方法
――秋貞さんも以前はハンドケアの習慣がなかったとお話していましたが、ハンドケアの習慣を定着させるために、取り入れやすい方法はありますか?
小渕:たとえば手洗い石けんや食器用洗剤を敏感肌向けの低刺激なものにする。洗面台やシンクで使うお湯を、30〜40℃のぬるめの温度が出るように調節するのも良いですね。こまめにハンドクリームを塗ることも大切なので、洗面台やダイニングの目のつくところにそれぞれハンドクリームを置いて、気がついたら保湿できるようにするのも良いですよ。
秋貞:生活上の動線に乾燥を防ぐアクションと保湿ケアを入れていくのですね。ちなみに、季節によってケアの方法を変える必要もあるのでしょうか?
小渕:やっぱり冬が乾燥しやすい季節なので、この時期は手を洗ったら毎回ハンドクリームを塗り直したほうが良いでしょう。または、好みの問題もありますが、保湿力が高いしっとりしたクリームでのケアもおすすめです。
一方で夏は湿度も高いですし、汗をかいてベタつきやすいので、さらっとしたテクスチャの乳液やさっぱりしたジェルクリームなどで保湿するのもひとつの方法になると思います。紫外線も肌荒れにつながるので、日焼け止めを塗る際は腕だけでなく手の甲にも塗りましょう。
――ハンドクリームは、どのような成分が入っているものを選ぶといいのでしょうか?
小渕:セラミドやヘパリン類似物質などの保湿成分が入っているものがおすすめです。また、ハンドクリームのパッケージには使用期限が書かれている場合があります。その期限以内に使っていただくか、書かれていない場合はなるべくワンシーズンで使い切ることを心がけると良いと思います(※)。※詳しくは、各製品のご利用上の注意を必ずご確認ください。
――最後に、「綺麗な手」でいることで健康や精神面にどのような影響があるのか、おふたりの考えを教えてください。
秋貞:私自身、ハンドケアをするようになって、日常生活のノイズが減ったなという実感がありました。たとえば自分の肌を触ったときに手がゴワゴワしていると、ちょっとしたストレスを感じたりして。手が健康的で綺麗なほうがテンションもあがりますし、心地よく生活できる気がしています。
小渕:手はからだのなかでも一番目につきやすい場所ですから、荒れていると不快さも感じやすいと思うんです。手のケアは一番身近で、セルフケアのスタート地点ともいえるでしょう。手をこまめにケアすることで、ほかのからだの部分に意識も向きやすくなり、結果的にからだ全体がいい状態へと変わっていくのではないかなと思います。
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