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頭痛、めまい、疲労感……。 神経内科医・久手堅 司先生が解説。 つらい「気象病」との付き合い方を考える

September 1, 2023

  • 取材・文:及川夕子
  • 撮影:市谷明美
  • イラスト:野瀬奈緒美
  • 編集:大森奈奈
  • 監修医師:久手堅司

更新日:2023年09月13日

天気が悪くなると、きまって頭が痛くなる。
台風の時季になると、体調をくずしてしまう――。

天候や気圧の変化に伴って、頭痛やめまい、関節痛、だるさなどの体調不良が起こる「気象病」。最近よく聞く言葉ですが、当社の調査によると、およそ2人に1人は季節の変わり目などに頭痛を経験している一方で、約7割の人はセルフケアを行なっていないことがわかりました(※1)。
実はこの気象病、男性よりも女性に多く、なかでも生理や更年期に悩まされる年代では症状が出やすい傾向にあるといいます。気象病はどんなときに起こりやすく、どんな予防法や対処法があるのでしょう。今回は、神経内科医の久手堅 司先生に解説していただきながら、悩ましい気象病との上手な付き合い方について考えます。

理解されにくい気象病。見分けるポイントは?

――「気象病」という言葉をよく聞くようになりました。天候や気圧の変化で体調不良を感じる人は全国平均で6割にのぼるという報告もあります(※2)。「気象病」とは、どんな不調を指すのでしょうか?

気圧や気温、湿度などの気象変化によって引き起こされる心身の不調のことを気象病といいます。天気の変わり目に頭が痛い、めまいがする、だるい、肩こりがつらいなど、症状は本当に人それぞれで、多岐にわたります。

実は気象病というのは正式な「病名」ではないのです。そのため、医師からも理解されにくく、「気にしすぎ」「精神的なもの」といわれてしまうことも。つらさをわかってもらえずに、苦しんでいる方が少なくありません。

しかし最近では、気象変化によって体調が左右されてしまうことがだんだん理解されるようになり、専門外来のある医療機関も増えてきました。私のクリニックでは、7年前から内科、脳神経内科の中に、気象病外来、頭痛外来などの専門外来を設けており、これまでに5000人以上を診察しています。気象病は気のせいなどではなく、原因がきちんとある不調。原因があるのだから、対処法もあることを知ってほしいですね。

―― 気象病かどうかは、どうしたらわかるのでしょう?

「天候が悪いときに体調が悪い」「雨が降る前や天候が悪化する前、自身の体調から何となく天気の変化が予測できる」というどちらか1つの項目に当てはまる方は、高確率で気象病といっていいでしょう。

多種多様な症状のうち、特に多いのが頭痛です。なかでも女性に多い片頭痛や姿勢のくずれによって起こる緊張型頭痛(※3)は、気象変化の影響を受けやすいようです。当院の患者さんでは「頭痛がいちばんつらい」という訴えが全体の8割。次にだるさ(倦怠感)、首・肩こり、めまいといった順で多くなる印象です。

何らかの不調が続いていて、病院で検査をしても異常が見つからず、医師から「自律神経の乱れ」「不定愁訴ですね」「心身のストレスでしょう」などといわれた場合には、気象病や自律神経失調症が考えられます。

気象病かどうかを見分けるポイントは、「体調に波があり、かつそれが、雨が降る前や気圧や寒暖差、湿度などの気象変化によって悪化するかどうか」。常に体調が悪い場合には、気象病ではなく別の原因があるかもしれません。

<<気象病チェックリスト(※4)>>

1)天候が悪いときに体調が悪い
2)雨が降る前や天候が悪化する前に何となく天候の変化が予測できる
3)片頭痛、緊張型頭痛などの頭痛持ちである
4)首こり、肩こりがある。首肩の持病や不調がある
5)めまいや耳鳴りが起こりやすい
6)倦怠感が強い。起床時、日中も常にだるい
7)低血圧気味である。血圧が低くなると体調不良が出る
8)精神的な不調(普段障害、適応障害、抑うつ、統合失調症など)がある
9)姿勢が悪い。猫背や反り腰がある。
10)古傷があり、時折痛みが出る
11)原因不明の動悸や消化器の不調がある

「1か2どちらかに該当する人は高確率で気象病の可能性あり。3から11は気象病の方が訴える主な症状。ただし、該当する項目が多い場合でも、必ず気象病というわけではありません」(久手堅司先生)

※1 出典:「2023年夏のセルフケア」に関する調査 2023年6月

※2 出典:天気の変化による身体の不調「気象病」に関する全国47都道府県実態調査 2022年9月

※3 緊張型頭痛 頭の周りや首の後ろから肩、背中にかけての筋肉が緊張するために起こる頭痛のこと。痛みは後頭部を中心に頭の両側や首筋にかけて起こり、痛み以外にも、体がフワフワするようなめまい感を伴うこともあります。

※4 参考:『気象病ハンドブック: 低気圧不調が和らぐヒントとセルフケア』(著者:久手堅司/誠文堂新光社刊)

主な原因は気圧、寒暖差、湿度の3つ

―― 気象変化も色々ありますが、影響が大きいのは?

一番は「気圧」です。気圧は大気の状態によって上下しますが、当院の患者さんの約8割は、気圧が下がるときに体調が悪くなっています。気圧に反応しやすいのが耳の「内耳」という部分で、耳が痛くなったり、鼓膜を押されているように感じたり、頭痛やめまいの訴えにもこの内耳が関係しています。

気象病は自律神経と深く関わりがあり、寒暖差や湿度も体調不良の引き金になり得ます。自律神経は環境に合わせて体温を調節していますが、気温の差が大きくなると自律神経ががんばりすぎてしまうため、それに伴って疲労がたまり、だるさが出やすいのです。湿度も同様に、高くても低くても自律神経に負担がかかり、さまざまな体調不良につながります。

低気圧や台風が接近すると、気圧が下がり湿度が上昇して雨が降りますよね。そうした天候が下り坂になるタイミングで、体調が悪くなる人が多いです。1年のうち、患者さんが最も多くなるのは、雨続きで湿気が多い梅雨シーズン。台風の時季にも増える傾向にあります。

<<天気の変化に影響される主な症状や疾患>>

頭痛、腰痛、だるさ、気分の落ち込み、歯痛、関節痛、めまい、首肩こり、動悸、耳鳴り、古傷の痛み、自律神経失調症、低血圧、抑うつ状態、うつ症状、ぜんそく、鼻炎、神経痛、メニエール、心血管疾患、線維筋痛症、眠気、リウマチ、狭心症、血栓症、心臓不調、集中力不足、腹痛、高血圧症、低血圧症(参考:アプリ「頭痛ーる」より)

気象病の7割以上が女性。生理周期や骨格が背景に

―― 気象病になりやすいのは、どのような人でしょう。比較的女性が多いのはなぜでしょうか。

気象病は年代や性別に関係なく起こりますが、当院の受診比率は女性7〜8割に対して、男性2〜3割。女性に多いのは確かです。

気圧とは空気による圧力のことですが、人間は体に受けている気圧と同じ力で体の内部から押し返すことで、バランスを保っています。雨が降る前や台風で気圧が下がるときには血管が広がり、血圧が下がりやすくなります。女性はもともと低血圧気味な方が多いので、血圧がより下がりやすくなり、だるさやめまい、朝起きられないなどの症状が現れやすいと考えられます。

ほかにも女性には生理があることで、「毎月の女性ホルモンの変動がある」「女性ホルモンが低下する更年期に自律神経調節の不調が起こりやすい」「(毎月の出血により)貧血になりやすい」ほか、「片頭痛が起こりやすい」「男性に比べて筋肉量が少ない」といった特徴があり、総じて体調の浮き沈みが大きくなりがちです。

上記のことから、女性は血行が悪くなりやすく、むくみや冷え性で悩んでいる方も多い。さらに貧血もある、となれば、頭痛やめまい、肩こり、全身倦怠感などの体調不良を起こしやすい状態にあります。すべての女性に起こるわけではありませんが、普段から体調の浮き沈みがあるところに気象病が加わることで、不調が重なりやすいということだと思います。

ただ最近では、スマホやパソコンの長時間使用や運動不足などの生活習慣も影響し、中学生くらいの子どもから気象病の訴えが増えています。なかでも成長発達期(思春期)になると、起立性調節障害といって、起立時に脳や体への血流が低下し、めまい、立ちくらみ、朝起きられない、全身倦怠感などの症状が出やすい傾向にあります。気圧が下がると血管も広がり、血圧も下がりやすくなることから、起立性調節障害が、低気圧により悪化するのは、臨床的にみても因果関係があるといえるでしょう。

ちなみに地域差では、太平洋側よりも日本海側に住む人の方が気象病に悩まされやすく(※2)、また、基礎疾患がある方では、気象病の症状が増幅されやすいです。気象病は遺伝することが多いと言われていますが、双子でも同じ気象病になるとは限らず、前述のように環境や生活習慣の影響も大きいと考えられます。

―― 体調が天候の変化に影響されているかも、と感じたら、まずしておくべきことはありますか?

まずは、どんなときに調子が悪くなるのか。ご自身の体調と天候の変化との関係性に気づくこと、そして「一番つらい症状は何か」を見つけることが大切です。

日々の体調(頭痛がある日)や生理期間を記録する「頭痛ダイヤリー(※5) 」をつけたり、気象病対策ができるアプリなどの活用がおすすめ。気象病の体調管理に役立ちます。調子が悪くなりそうなタイミングの予測も立てやすくなるでしょう。

天候の変化は自分ではどうすることもできませんが、体調管理を含めたセルフケアは自分でもできます。日頃から体のメンテナンスをして、体調をできるだけ悪くしないことが大切です。

※2 出典:天気の変化による身体の不調「気象病」に関する全国47都道府県実態調査 2022年9月

※5 日本頭痛学会による「頭痛ダイヤリー」ダウンロードページ

<<気象病対策アプリ&サイト>>

頭痛ーる
気象病対策に役立つアプリ「頭痛ーる」。2日先までの気圧変化や天気、気温予報が確認できるほか、「気圧グラフ」と「痛みノート」を使って、体調を記録したりすることができます。事前に薬を準備しておいたり、体調に合わせてスケジュール調整をしたりすることに役立ちます。簡易診断ツールと記事制作において、医学監修として久手堅先生も参加されています。

天気痛予報
気圧による体調の変化を事前に確認できる天気痛(気象病)専門サイト。今日明日から6日先まで天気痛の発症リスクを4ランクで予想。

※参考
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/selfcare/weatherdisease-02/

気象病対策には自律神経のケアや体のメンテナンスが欠かせない

―― 体調管理やセルフケアのポイントは?具体的にどんなことをするといいでしょうか。

気象病の方は、もともと何らかの不調がベースにあり、気象変化に対する耐性が弱い体になっています。例えば首こり・肩こりがある場合、慢性化していることに気づいていない場合も多く、ストレッチやマッサージを取り入れるだけでも楽になりますよね。また、姿勢と気象病との関係については、医学的にはまだ証明されていませんが、骨格バランスの乱れが自律神経の乱れを引き起こすと考えられているため、姿勢が良くなると気象病も改善することが多いです。

気象病は自律神経と深く関わりがあるため、睡眠の質改善、腸内環境を整える食事、運動習慣などを見直して自律神経のコンディションを整えることも大事です。

<<簡単にできる!気象病の予防対策>>

①耳のマッサージ
・耳を持って水平に伸ばして10秒キープ。さらに左右の耳が対角になるよう、それぞれの耳を斜め上方向と斜め下方向に引っ張り合い10秒キープ。上下を入れ替える
・耳たぶを持って、前に5回・後ろに5回ゆっくり大きく回す
・手のひらで耳を温めながらマッサージ
血行がよくなり自律神経が整います。気がついたときにいつでも行いましょう。めまいや耳鳴りがつらいときにも。

②姿勢を良くする
気象病による首こり・肩こり、腰痛は姿勢の悪さが原因のことも。1時間に1回、背伸びをしたり、斜め上を見たり、ストレッチなどを取り入れます。

③体を動かす習慣
きついトレーニングでなくてOK。軽く汗をかくような運動を習慣づけます。ラジオ体操など、全身を動かす時間を作りましょう。

④睡眠のための入浴習慣
睡眠の役割は「休息と回復」。質が保たれていないと寝ても疲れが取れない状態を招き、さまざまな体調不良の原因になります。快眠スイッチを入れるためにも、眠る2時間前くらいにぬるめのお湯にゆっくり浸かる習慣を。一日の緊張がほぐれ、かつ深部体温が下がっていくことで寝つきがよくなります。

⑤パソコンやスマホの使用は控えめに
長時間の連続使用を避け、画面から目を離して首や肩を軽く動かしたりマッサージを。

⑥腸の健康を考えた食事
規則正しく、バランスの良い食生活はもちろんですが、自律神経を整える上で大事なのは、腸内環境を整えておくこと。脳と腸は相関関係にあり、腸の状態は、脳の状態にも影響し、ひいては心の安定や睡眠にも関わります。腸内環境を整えるためのヨーグルトや、幸せホルモンのセロトニンを増やす食べ物としてトリプトファンやビタミンB6が豊富なバナナもお勧め。糖質、アルコール、カフェインは摂りすぎないようにしましょう。

つらい症状は専門外来へ。女性は婦人科受診も検討して

―― 医療機関を受診する場合、何科を受診したらいいですか。

もし、何らかの不調があり天気の影響が明らかなのであれば気象病の専門外来を受診するといいでしょう。ただ気象病の専門外来はまだ少なく、全国どこにでもあるというわけではありません。なので、最もつらい症状に合わせて受診してください。頭痛なら頭痛外来、脳神経内科、脳神経外科など、めまいや耳鳴りなどは耳鼻咽喉科を、動悸なら内科、循環器内科を、倦怠感なら内科、婦人科を受診してみてください。

女性ならまず先に婦人科に相談するのは一案です。先に述べたように、もともとある不調が気象病の症状を増幅させている可能性があるからです。低用量ピルなどを使って女性ホルモンのゆらぎを安定させることで、体調が上向きになることもあります。

―― 専門外来の治療ではどのようなことをしますか?

例えば、頭痛、首こり・肩こり、めまい、全身倦怠感などを訴える方の場合には、むくみや血行をよくする薬などの処方のほかに、耳マッサージ、気象病対策アプリによる気圧チェックなどを勧めます。それに加えて、トレーナーの指導のもとで自律神経に良い呼吸法や食事指導、運動療法、体のコンディショニング(骨格のゆがみを改善し姿勢を整える)なども行っていきます。

現代人は、パソコンやスマホの長時間使用などで姿勢が悪くなっている人も多くいます。姿勢や骨格の歪みを改善すると、首こり・肩こりが改善し、次第に睡眠の質も安定してくるようになります。

薬は、漢方薬や睡眠導入剤など、症状に合わせて使います。気圧差で起こる不調に関しては、「五苓散」という頭痛、めまい、むくみなどに広く使用されている漢方薬が効果を示すことがわかってきました。一人で悩まずに相談してほしいですね。

―― 近年、頻発する異常気象により、気象病への影響も増していくのでしょうか。

10年、20年前と比べると、日本の気候は季節変化が少なくなり、熱帯の気候のようになってきていますよね。夕立やゲリラ豪雨も起こりやすくなり、気象病で不調を訴える人は全年代で増加傾向にあるのではないかと思います。

天気が良く高気圧の日でも、気温が高くなることで上昇気流が発生し、地面付近の気圧が一時的に下がることがあります。そのとき上空に寒気が流れ込んでいると雷雲が発生し、夕立やゲリラ豪雨となって現れるのです。気圧は天候に関係なく変化しているので、一年を通して注意が必要です。

とはいえ、自分でどうしようもないときには専門家を頼るという選択肢も持っておくと安心です。10ある不調をゼロにしようと思うと、かえってストレスを増やしてしまうかもしれませんが、6〜7割ぐらいまで減らすのは難しいことではありません。疲労を溜めすぎない工夫をするなど、自ら不調を増やさないよう、自身の心の声を聞きながら、症状に合ったセルフケアを取り入れ、うまく付き合っていきましょう。

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