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FRaU2023年7月記事のメインビジュアル

産婦人科医・八田真理子先生に聞く。誰もが、“自分らしく”目指せる「健康で美しいからだづくり」

July 3, 2023

  • 取材・文:及川夕子
  • 撮影:日下部真紀
  • イラスト:野瀬奈緒美
  • 編集:大森奈奈

更新日:2023年08月10日

夏本番に向け、ボディラインが気になる季節。コロナ禍で運動不足になり、今年こそからだを絞りたいと考えている人も多いのでは。一方で、社会のダイエットへの過度なプレッシャーがつらいと感じる女性も少なくありません。健康かつ自分らしい美しさを叶えたい私たちが本当に目指すべき、そして自信を持って続けられる「からだづくり」とはどのようなものなのでしょう。

今回のテーマは「誰もが、“自分らしく”目指せる『健康で美しいからだづくり』」。女性のからだの仕組みとダイエットとの関係、運動や姿勢など心がけたい生活習慣などについて、地域のかかりつけ医として幅広い年代の女性を見守り続けてきた産婦人科医であり、スポーツドクターでもある八田真理子先生にお話を伺いました。

運動は、若々しさだけでなく心の健康にも

―― 毎年夏になると、周りの視線が気になってダイエットをはじめる女性も多くなると思います。八田先生ご自身は、「健康で美しいからだ」というものをどのような状態と捉えていらっしゃいますか?

美しさや若々しさというのは、単に痩せていればいいというものではなく、内面から醸し出されるものだと思います。
内面とは血管年齢、骨年齢、筋力、内臓などが健康で心も元気な状態であること。それが、その人の持つ自信やエネルギーとなって全身に現れてくるものだと思うのです。当然ながら、心の健康には人生の充実度や満足度といったものも必要です。

―― 確かに、健康状態や気持ちの持ちようは自分次第でよくも悪くもなるものかもしれません。食事、運動、生活習慣など、さまざまな方法や情報がある中で、女性はどんな視点でからだづくりを行うとよいですか。

まず「運動に勝る処方薬はない」と断言できるほど、運動はすべての人にとってよいこと、からだづくりには必須の習慣といえますね。運動をしている人としていない人では、ひと目で姿勢や全身の骨格が違いますし、ほかにもメリットはもうたくさん。
医学的には、年齢とともに落ちる体力を高めるだけでなく体重・体脂肪を減らし、かつ肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などのメタボリックシンドローム予防やがん予防、睡眠障害や精神疾患の予防という意味でもいい影響があります。

それから私の場合、仕事柄、学会やセミナーの講演などの資料づくりに頭を悩ませ行き詰ることがあるのですが、運動中に「無」になる瞬間があって、その後によいアイデアが浮かぶことがよくあります。運動した後の爽快感は何にも代えがたいものですし、全身の血流がよくなり頭がクリアになる、ご飯やお酒も美味しいなど、からだを動かすことはボディメイクの面だけではない、心にもいい影響をもたらしてくれます。

私は週に4日ジムに通い、毎回2時間ほどの運動をしています。メニューは筋トレと有酸素運動、エアロビクスなどを組み合わせたもの。運動を習慣的に取り入れるようになって、もう35年間くらい経ちますね。

―― 35年も! そんな八田先生から、女性のボディメイクにはどんな運動がおすすめでしょうか。また、運動を習慣にする秘訣についても教えていただけますか。

ボディメイクを目的とするなら、有酸素運動だけでなく筋肉を使うことも意識しましょう。少しきついと感じるくらいの負荷で行う運動を1回30分以上、週3回行うことをおすすめしたいです。たくさん歩くことももちろん健康にはいいことですが、ボディメイクとなるとやはり筋肉に刺激を与える必要があります。ジムに行く時間がない場合は、筋肉に負荷をかける「さっさか早歩き(3分)」と「ゆっくり歩き(3分)」を1セットとして交互に繰り返す「インターバル速歩」もいいですね。早歩きはややきついと感じる程度の速さで行ってください。

―― 運動するとスッキリしたり、気分がよくなることは多くの人が実感していると思います。それはどうしてですか?

筋トレや有酸素運動によってさまざまなホルモンが分泌され、それが心やからだによい影響を与えているんですね。例えば筋肉を刺激することで「若返りホルモン」ともいわれる成長ホルモンやテストステロン(男性ホルモン)が分泌されます。テストステロンは男性ホルモンの一種でやる気や性欲のもと。女性も副腎や卵巣で少量のテストステロンを分泌していますが、「元気・やる気・性欲」は生きるパワーにもなるので、若々しさを保つためにも、仕事を頑張るためにもうれしいホルモンです。

ほかにも、幸福ホルモンと呼ばれるセロトニン、モチベーションをあげてくれるドーパミン、高揚感をもたらすエンドルフィンなど、運動と関わりのあるホルモンはたくさんあります。このうち、セロトニンは快眠に欠かせないメラトニンというホルモンを作る材料にもなります。気分の安定や快眠のためにも、また自信をつけるためにも運動はいい効果をもたらしてくれますよ。

―― 女性の場合、生理周期や女性ホルモンの影響による体調の変化というものがあります。生理中やPMSの時期の運動について、注意点やアドバイスはありますか。

月経前は水分をため込みやすく、むくみやイライラ、うつっぽくなったりという様々な不調をPMSといい、多くの女性が経験しています。実は、排卵があって妊娠の準備をしているから起こるので、私はPMSを生物学的に「母性本能」によるものだと考えています。一方で、この時期はダイエットには向かないので無理はしないようにしましょう。体調不良や生理痛がつらいときは、もちろんからだを休めること。でも、生理中だから運動してはいけないということはありません。むしろ運動を取り入れることで血流がよくなり、生理痛がやわらぐこともあるでしょう。

ちなみに女性は一般的に、体脂肪率15%で約半分が無月経、10%以下でほとんどの人が無月経になるとされています。ですから、本格的にスポーツを取り入れる場合には、日頃から自分の体組成(体脂肪率含む)をチェックしておくことが大切です。健康的なダイエットにおいて運動量を増やしたり、筋肉量を増やすことを目指すことは大事ですが、故障を招くほど運動量を増やしてしまったり、食事量を極端に制限して体脂肪を減らしてしまうのはやめましょう。体脂肪が減ると体は危機を感じて、卵巣の働きをストップさせてしまいます。そうすると将来の妊娠に影響が出たり、骨量の減少を招いて骨粗鬆症のリスクを高めてしまいます。

ちなみにアスリートは筋肉量が増えると相対的に体脂肪率が減少していきます。体を絞りすぎて無月経になり、骨量に影響が出て、怪我が増えるという悪循環に陥ります。筋肉量が増えるときは注意が必要です。

※無月経とは3ヵ月以上生理がない状態。その場合には早めに婦人科を受診してください。

「必要以上に痩せてはいけない」理想的なBMI値とは

――無理な減量はからだへの負担が大きいとわかっていても、手っ取り早く痩せようと思うと、食事を減らそうという発想になりがちです。過度なダイエットは、筋力や骨量の低下にもつながると聞きました。

特に若い世代に「痩せ」の割合が多く、将来の健康に影響が及ぶことが気になりますね。BMI(※1)でいうと適正体重は18.5〜25未満であるのに対し、20代女性の5人に1人が痩せ(18.5未満)という状況です。また多くの若い女性が「自分は太っている」と認識していて、その理由としては「他の人と比べてそう思う」と答えている人が半数近くというデータ(※2)もあります。

若い女性の「痩せ」の何が問題かというと、貧血や冷えだけでなく、月経不順や無月経(無排卵の状態)を招き、それが将来の不妊、流産・早産のリスクにもつながっていくということ。痩せ傾向のお母さんから生まれる赤ちゃんは、低出生体重児(2500g未満)になる頻度が高くなります。そして、低出生体重児で生まれた赤ちゃんは、胎内で飢餓状態だったためにエネルギーを溜め込みやすい体質になり、成長してからの生活習慣病発症リスクが高くなることもわかっています。つまり、女性の「痩せ」は、次世代の健康にも影響を与えてしまうんですね。

若いうちは少しぐらい食事を抜いても大丈夫だろうと、健康より見た目の方に意識が向いてしまいがちです。でも、本当に「痩せ=美しい」なのか、自分は「実際に太っているのだろうか」と一旦立ち止まって考えてほしいと思います。自分が元気でいるためにも、将来子どもを持つ・持たないに限らず選択肢を残しておくためにも「必要以上に痩せてはいけない」ということをお伝えしたいですね。

そして現代女性に不足しがちなタンパク質、ミネラルなど、食事の内容にも気をつけて過不足なく栄養をとることを意識してください。理想なのは定食のようなご飯。主食、主菜、副菜とバランスよく摂ることです。
とくに私が注目しているのが「亜鉛」という栄養素。亜鉛は若返りのミネラルとも言われており、タンパク質の代謝を促して、美しい肌や髪を作るのにもいい働きをします。また抗酸化作用、免疫力の向上のほか、男性の生殖機能の改善にも役立ちます。体を動かす人はしっかり摂りたい栄養素です。現代女性では亜鉛が不足している人が非常に多いので、意識して摂るようにしましょう。食物では、肉、魚介、大豆製品、アーモンドなどに豊富に含まれます。バランスのいい食事を心がけながら、亜鉛も積極的に摂ることを意識してみてください。
また「痩せ」だけでなく「肥満」も女性の不妊症と関連しています。健康寿命をできるだけ長くするには、BMIでいうと20から25ぐらいまでの間でキープしつつ、あまり変動がないことが理想だということも、知っておいてほしいです。

※1 BMI(Body Mass Index)は、ボディマス指数と呼ばれ、体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数。

※2 国民健康・栄養調査 20 歳代の痩せ20.7%(2019年調査)

内面からでる美しさの秘訣は、「姿勢」の見直しから

―― 「自分らしく」健康でいるということと「自分がなりたい」美しさの両立という点については、どのようにバランスをとっていけばいいのでしょう。「自分らしく」を目指そうと思っても、他の人の視線が気になったり誰かと比べてしまったり……。社会が期待するボディイメージに影響されてしまう部分はどうしてもあると思うのです。考え方や気持ちの持ちようについてアドバイスをお願いできますか。

私自身も、自分の写真をあまり見たくないし、自信もないし自慢できるようなところもありません。きっと、顔やスタイルが「もっとこうだったら良かったのに」と思っている方は多いと思うんですね。でも同時に、医師として「健康な人の内面からでる美しさは絶対にある」という確信を持っています。

日々、診療で年齢も生活習慣も異なるさまざまな女性たちと向き合っていて感じることなのですが、栄養や睡眠がきちんととれている健康な人から放たれるオーラは、周りの人を心地よくします。調子がいいと人は笑顔になり、その笑顔は周囲の人も笑顔にするんですね。つまり健康で元気であるということは、周りを元気にするパワーがあるということ。とても素敵なことです。

ですから、他人と比べて落ち込みそうになったときこそ、まず自分に優しくなってほしい。「こうでなきゃいけない」と自分に厳しくする必要は全然なくて、まず自分を認めてあげて! 自分のからだの声を聞いて自分が元気になれることをする。そうすることで周りの人の目も、「あの人って素敵だな、いいな」という印象に変わっていきますよ。

ちょっとした秘訣としては、「姿勢よく」を意識するだけでもスタイルアップして美しく素敵に見えます。これはどなたにも試してみてほしいことです。

―― 確かに、姿勢がいいと元気で若々しい印象が生まれます。普段の生活でどのようなことを意識するといいでしょうか。

現代に生きる私たちはパソコンやスマホを利用する時間が長く、どうしても猫背や巻き肩になりやすいので、ときどき鏡を見たりして姿勢を正すように心がけましょう。意識するポイントは、立っているときも座っているときも、肩甲骨を寄せて肋骨を広げるように意識することと、腹筋を使って背筋を伸ばすようにすること。そうすると背中に引っ張られてお腹部分ものびるので、バストが上がり下腹部はすっきりとして見えます。連鎖的に呼吸も自律神経も整い、内臓も正しい位置にセットされます。そして反り腰にもならないように気をつけて! 実は姿勢をよくすることはインナーマッスルを使うので、筋肉への刺激が加わります。前述したように、若返りホルモンや幸せホルモンの分泌も期待でき、いいことずくめです。

―― 姿勢を見直すだけで、ぽっこりお腹が改善されるのはうれしいですね。

巻き肩を直して姿勢をよくするだけでも、ぽっこりお腹は気にならなくなるはずです。ただ私はよく「名画に出てくるヴィーナスのようなボディを想像してみて」と話すのですが。本来女性のお腹はペタンコである必要はなく、自然な丸みがある方が健康的。胸やお腹に丸みのあるメリハリのある体型って、実は女性らしさの美の象徴なのです。

10代、20代の頃はちょっと食事を抜けばぽっこりお腹を防ぐことができたのに、年齢とともに脂肪がつきやすくなり痩せにくくなった。そんな悩みを抱える女性は多いでしょう。私もそんな変化を感じている一人です。だからウエストはゴムの服がほとんど。年齢なりの変化には、加齢による基礎代謝の低下に加えて、女性ホルモンの分泌も関係しています。更年期に入り女性ホルモンの分泌が激減してくると、女性のからだはそれを補おうとして脂肪を蓄えやすくなるんですね。これは脂肪組織からも女性ホルモンが作られるためで(※3)、丸みを帯びたからだになるのは、自然なからだの仕組みともいえるでしょう。だとしても、姿勢を良くすることで改善はできるはずですよ。

※3 閉経後は主に副腎皮質でアンドロゲン(男性ホルモン)が分泌されるが、脂肪組織などから生成されるアロマターゼという酵素の働きにより、アンドロゲンがエストロゲン(女性ホルモン)に転換される。閉経後の女性の体内では、脂肪から作られる少量の女性ホルモンが存在することになる。

人生を満足なものにする、自分に優しい「からだづくり」

―― さまざまな世代で起こる変化から、「からだづくり」で気を付けていくべきことをお伺いしました。私たちは 人生を通して「からだづくり」をどのように捉えていけばよいでしょうか。

今や日本人の寿命は人生100年時代に突入しました。女性は50歳ぐらいで生殖可能年齢を終え、それから折り返して50年間生きていくことになります。だからこそ自身のからだを大切にしながらしなやかに、元気に過ごしていきたいですよね。

私は食べることが好きで、お酒も飲みます。それは運動を習慣化しているからできるのかもしれません。また食事は、エネルギー摂取という目的だけでなく、人生の楽しみの一つでもありますよね。「元気に生きているうちにあと何食、食べられるのかな」とたまに数えてみることも。大切な人との会話を楽しみながら「おいしい」と笑って食事を楽しめる時間を作り、その時間を大切にしたいと思うんです。

そしていうまでもなく、私たちのからだ(細胞)は食べたものから作られます。人間の細胞は毎日少しずつですが入れ替わっています。例えば肌は約1ヵ月、血液(赤血球)は約4ヵ月、骨は約5ヵ月で生まれ変わります。つまり今日食べたものは半年後の自分を作ります。ですから生活習慣を見直すなら、最低でも半年は続けてみること。自分に合っていると感じたら、長く続けていきましょう。そしてその習慣が身につくと睡眠の質もよくなります。朝すっきりと目覚めることができれば、元気に1日をスタートできるし仕事の能率も上がります。すべてがいいサイクルで回り始めるでしょう。

私は「人生に満足している人は、それだけで美しい」と思っています。多くの女性は自分に厳しすぎるのかもしれません。年齢なりの変化も含めて自分を認めてあげて、もっと自分に優しくしてあげましょう。「美しさ」とその人の健康状態や生活習慣、気持ちの持ちようは全部つながっている。そのことを忘れないでいたいですね。

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