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Vol.2あまり信用しなくていいんですよ、脳科学の話なんて。
脳科学者澤口俊之先生 インタビュー(前編)

脳トレよりゲームのほうがいいって言われてますね。ほどほどであれば

− いまのお話の印象としては、有酸素運動ということなら実は筋肉を鍛えるのとそんなに変わらないと言いますか…。ちなみに海馬というのは「記憶」に関係する場所ですね?

澤口一番は記憶ですが、二番目を挙げるならナビゲーションです。高齢者が道に迷いやすくなるというのも、海馬の影響がかなり及んでしまうからですね。しかし、海馬の働きはそれだけではありません。知的能力や感情にも関係します。PTSD(※2)(心的外傷後ストレス障害)でも海馬の萎縮が生じることがわかっています。

  • ※2 PTSD(心的外傷後ストレス障害)…命の安全が脅かされるような出来事、戦争、天災、事故、犯罪、虐待などによって強い精神的衝撃を受けることが原因で、著しい苦痛や、生活機能の障害をもたらしているストレス障害のこと。

脳の器官というのはお互いのネットワークで機能しますから、ここまではこの器官の働きというふうにハッキリとは言えないところがあるんです。かつては極端な「脳機能局在論」というのもありまして、一般に流布した代表例が「右脳・左脳」というものですが、これなんかはとんでもない(笑)。

− 私などはいまだにそういった“迷信”が刷り込まれてしまっているところもあるなと感じます。脳に関する誤った“常識”がいまだに信じられているケースはほかにもあるのではないでしょうか。

澤口それは我々脳科学者の責任もあるのかもしれません。たとえば脳の機能を高めるとかアンチエイジングに関しては、2000年代に「脳トレ」という方法論が流行っちゃったわけですが、実は脳トレによって脳機能が上がるということは実証されていないんです。これに関しては2010年のネイチャー論文が有名で、10代半ばから40代くらいの方々が、1日3時間・3ヶ月、毎日毎日脳トレに励んだところ――なんの効果も得られなかったそうです。

もともと脳トレというのは、高齢者用の認知症の予防効果、あるいは認知症になっている方の改善効果を持つような方法論を、もう少し通常の方に向けてアレンジしたものですから、脳科学的な知見は入っています。ちゃんとした脳トレもないわけではないんですが、やればみるみる脳機能が高まるという期待は持てません。効果という意味では有酸素運動のほうが確実です。

最近では脳トレなんかよりもゲームのほうがいいって言われてますね。「楽しい」という要素が入らないとダメですから。お子さんはダメですけど、大人ならほどほどのゲームはむしろいいであろうと。脳科学的にどんなゲームがいいかは見ればわかります。脳科学者たちはわかってますから、自分で「これはいい!」と思うゲームをブログなどで紹介している人もいますね。発達障害児に関しても7歳以降なら、ある種のゲームはプラスの効果を持ちます。ただ、どんなものがいいかは一般化できないですから、お子さんに合ったものをご自身で見つける必要はあります。少なくともツマラナイものはダメですけどね。

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