賢者の仕事、賢者の健康

Vol.2あまり信用しなくていいんですよ、脳科学の話なんて。
脳科学者澤口俊之先生 インタビュー(前編)

今回の賢者

PROFILE
脳科学者澤口俊之

1959年、東京都葛飾区生まれ、東京都立両国高等学校卒業、北海道大学理学部生物学科卒業、京都大学大学院理学研究科動物学専攻博士課程修了。久保田競門下で1987年に京都大学理学博士の学位を取得。高次脳機能、特に前頭連合野の研究を専門とする日本の認知神経科学者。脳構造の最小単位を複数の神経細胞の集まったコラムとし、コラムや複数のコラムが集まったモジュール及び複数のモジュールが集まったフレームといった概念で脳内構造が能力因子と対応すると説明した多重フレームモデルなどで知られる。著作に加え、『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ)等のメディア出演など、精力的に活動中。最新著書は『発達障害の改善と予防』(小学館)。仕事と脳の関係性については『脳を鍛えれば仕事はうまくいく』(宝島社)を発表。
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各界の一線で活躍するキーパーソンが、「仕事と健康」について語るインタビュー連載「賢者の仕事、賢者の健康」。今回のゲストは脳科学者の澤口俊之氏です。専門である脳の研究のみならず、ビジネスパーソン向け書籍の執筆や講演、テレビ出演など幅広く活躍する澤口先生が考える「仕事がうまくいく脳の鍛え方」とは?
(聞き手:河尻亨一)

脳に効くのはなんと言っても有酸素運動。これに尽きます。

− 脳科学に関心をお持ちのビジネスパーソンも多いと思うのですが、筋肉等と異なり脳を鍛えるというのは難しそうなイメージもあります。効果的な脳の鍛え方はあるのでしょうか。

澤口(俊之氏 ※以下、澤口)答えはめちゃくちゃ単純です。基本的には有酸素運動をすればそれで十分。まともな研究者ならみんなそう言うと思いますよ。これはあまりにも常識すぎちゃって、脳科学者は40年以上前からわかっているんです。その後もどんどん研究が進み、いまでは個人個人の脳の体積も測れますからね。脳の基底を伸ばすのに確実に効果があると実証されているのは、なんと言っても有酸素運動。これに尽きます。

2011年に画期的な論文が発表されています。65歳以上の方を何十人も集め、2群に分けて研究したものです。1群はストレッチ体操に取り組むグループ。ストレッチは無酸素運動の典型ですね。もう1群は有酸素運動のグループで、ウォーキングなどをやってもらいます。

− 結果どうなったんでしょう?

澤口これ、私たち研究者もビックリしちゃったんですけど、有酸素運動のグループの人たちは海馬(※1)が大きくなったんですよ。海馬というのは加齢にともない体積が減って行くものなのですが。その一方でストレッチ体操にはなんの効果もないことがわかりました。いまの脳科学では、有酸素運動によって70〜80代でもだいたい30〜40代のレベルが保てるだろうというのが常識になりつつあります。

  • ※1 海馬…脳の中にあって、唯一細胞分裂を繰り返す神経細胞が集まる器官。記憶や入力された情報の整理(取捨選択)、空間学習能力に関わる機能を司っている。

もちろん、個人差がかなりありますし、運動のやり方にもよります。そこに関する研究もたくさんあって、我々としてもまだ一定の結論は出ていません。負荷をかけすぎると効果に乏しいといった説もある。しかし、おおよそ1日20分が目安と考えてよいと思います。

40代くらいまでなら、1週間に1回けっこう激しい運動を72分やるのがベストだという論文もあります。とはいえ調査の母集団や民族差、調査方法によっても変わってきますから、それほど気にすることはないでしょう。有酸素運動がいいということは間違いないですから、ご自身に無理のない範囲で取り入れればよいと思います。

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