賢者の仕事、賢者の健康

Vol.4サッカーって“毎秒がプレゼン”みたいなとこあるんですよ
中村憲剛氏 インタビュー(前編)

毎日毎日なんらかのツメあとを残して行きたい

− ただ、さっきの本(『残心』)でも書かれているように、これまで口惜しい思い何度もされてますよね。どうやって壁を突破してきたんですか。

中村なんなんですかね? 根っこは「サッカーが好き」だし、好きだからこそ上に行きたいんですけど、それだけでは超えられないところもある気がして。

「自分の現状を知る」でしょうか。自分は何が得意で何が不得意で、身長や体重はこうだから、所属しているチームの11人の中に入るためには、今の自分のスペックのどこを活かせばいいのか? チームにどうアジャストすればいのか? みたいな自己分析が大事になってくると思うんです。

僕の場合、最初から試合に出られる人間じゃなかったですから。高校もそうだし、大学もそうだし、プロになってからも「首になるんじゃないかな?」と思ったくらいで。

でも、最初から試合に出られなかったことで、自分のことを考える時間やチームに慣れる時間がいっぱいあったんです。振り返ってみると、ちょっとずつチームの水に慣れながら、自分のやれることを増やして、いつの間にか試合に出てるパターンが大半でしたね。

毎回負け寸前みたいなところからのスタートだったんですけど、「そのギリギリ感がよかったんじゃないかな?」って思います。

− ギリギリ感があると毎日が勝負にならざるをえませんね?

中村毎日毎日、なんらかのツメあとを残して行きたいと思ってるんです。会社だと上司なのかもしれないけど、僕らで言うと監督やコーチに「憲剛って、こういうところでこういうプレーができるんだ。じゃあ次使ってみようかな?」って思ってもらいたいじゃないですか。でも、その日その日をなんとなく過ごして、良くも目立たず、悪くも目立たずのままでは、安定感はあるけど、使われないっていうか。

もちろんそういうタイプの選手も必要なんですけど、「オレみたいな立ち位置の人間はやっぱり目立たなきゃいけない」という思いはスゴくありましたから、トレーニングひとつやるにも必死でしたよね。

で、いいプレーをすれば、必ず空気って変わって来るんですよ。「アイツにボール渡しておけば、チームにとっていいことがあるんじゃないか?」って。

そうなるとどんどん前に進めますよね。信頼さえつかめれば、あとは周囲から求められるものに応えていくだけですから。それに応えていくことで、自分がレベルアップしていきますし、周りのレベルが上がるほど自分も引き上げてもらえる。

− 自分がその仕事が好きで努力していても、周りの信頼がないと折れてしまうかもしれません。せっかくの努力も空回りするというか。

中村最初は苦しいでしょうね。「何やってんの?」とか「それ意味あんの?」みたいに思われてしまったりして。それでも愚直なまでに続けた人が本当に強い人だし、結果的にいつの間にか周りを引きこんで大きくしていくんじゃないかな? 続けていくのはすごく大変ですけど、見てる人はちゃんと見てますから。

かといって、僕の場合、そこまで強い意志を持ってやってきたわけでもないんです。結果的にそうなった感じですね。周りの人がどう思ってるかはわからないけど、自分で「これいいんじゃないか?」と思うことを試してみて、失敗したらまた変えるということを続けているだけで。

>>後編に続く

編集者/東北芸術工科大学客員教授 河尻 亨一

PROFILE

編集者/東北芸術工科大学客員教授河尻 亨一
雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心に多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集を手がけ、多くのクリエイター、企業のキーパーソンにインタビューを行う。
現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、取材・執筆からイベントのファシリテーション、企業コンテンツの企画制作なども。
  • カメラマン 瀬谷壮士
  • 更新日 2016.04.28

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