健康美塾® by 第一三共ヘルスケア

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東日本大震災で救護に携わった医師と考える、被災時のセルフケア。「小さなストレス」を見逃さないで

September 15, 2023

  • 取材・執筆:石澤萌(sou)
  • 撮影:大畑陽子
  • 編集:服部桃子(CINRA, Inc.)
  • 監修医師:吉田穂波(神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科)

更新日:2023年09月21日

9月は防災月間。地震や津波、台風による豪雨被害など、「災害大国」と言われるほど自然災害が多い日本において、災害に見舞われることは決して他人事ではありません。そのため普段から、万が一の場合に備えておくことが重要です。

では、一体どのような備えがあれば被災地での被害やトラブルを減らすことができるのでしょうか? 今回は、産婦人科医であり災害時の母子保健対策に詳しい吉田穂波先生を迎え、第一三共ヘルスケアで災害支援を担当する阿部良、そして同社で広報PRを担当する上吉川奈央とともに座談会を実施。被災地での暮らしにおけるセルフケアの重要性や、防災グッズと一緒に備えておきたいアイテムについてもうかがいました。

災害時に必要なものは水や食料だけじゃない

―はじめに、皆さんが普段どのように防災と向き合っているのか教えてください。

吉田:私は産婦人科医として女性・妊婦・赤ちゃんのための防災啓発に取り組んでいます。国や行政と連携しながら、災害時にどういったリスクが考えられるのか、そしてどのような準備が必要なのかを発信しています。自然災害はその規模よりも、私たち人間が災害に対してどれくらい備えているかによって、受けるダメージが大きく変わってくるんです。何にどう備えておくべきかを知ることがすごく大切なんだと、皆さんとの対話のなかでお伝えしていけたらと思います。

阿部:私は総務部の災害支援担当として、NPO団体を通じて被災地に自社製品を届ける活動をしています。会社としてどのようなサステナビリティ活動に取り組んでいくべきか議論した際に、社員から「豪雨や地震災害が起きたときに、私たちの製品を通じて貢献できないか」という声がたくさん寄せられたことで2021年から取り組みを始めました。

上吉川:私はセルフケア情報に関する調査リリースの発信に加え、「くすりと健康の情報局」という情報サイトでコンテンツ制作を担当していますが、「日常」のセルフケアだけでなく「非日常」のセルフケアの啓発にも力を入れています。

例えば昨今の夏の猛暑については、熱中症の予防や応急処置の知識が自分や家族を守るために欠かせないですし、近年の自然災害の発生状況を考えると、常日頃から災害を踏まえた備えは不可欠です。そのためサイトでは、災害時に役立つ常備薬の選び方やその管理方法、小さなお子さまからご高齢の方まで服用できるお薬の紹介をしています。

―吉田先生におうかがいしたいのですが、災害時の備えとしては、やはり水や食料など生命活動の維持に必要なものが最優先となるのでしょうか?

吉田:もちろん、最優先すべきは生命を維持するための備えですが、小さなストレスをケアする備えも重要といえます。災害後のフェーズは、発生から6〜72時間以内の「超急性期」から、それ以降は72時間〜1週間の「急性期」1週間〜1か月の「亜急性期」1か月〜3か月の「慢性期」3か月以降の「復興期」の5つに分けることができます。災害においては救命救急が必要な急性期がフォーカスされがちですが、じつは本当に大変なのは、その後いつまで続くかわからない「慢性期」以降です。

たとえば、自分の命に関することは「助けて」と声を上げやすいですよね。でも、居心地のいい生活へ戻るためのあれこれは贅沢に思えてしまって、「せっかく命が助かったんだから」「自分さえ我慢すれば」と抱え込んでしまう方がすごく多い。そうなると小さなストレスが積み重なって、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を大幅に低下させてしまいます。その人の健康状態を左右するのは、大きな怪我や大病だけではないんですよ。

肌の不快感、不十分なオーラルケア。小さなストレスを我慢しないで

―ストレスが積み重なることで、具体的にどのようなトラブルが想定されますか?

吉田:「健康美塾」は女性の方が多く読んでいるとうかがいましたので、女性の場合を申し上げますね。まず、女性ホルモンは脳にある「視床下部」という場所でコントロールされています。ストレスは視床下部の働きを抑圧するため、被災下で恐怖を感じたり困りごとを抱えたりしてしまうと、女性ホルモンの分泌量も減少してしまいます。そうすると、月経不順や無月経、免疫力低下などが起こり、子宮・卵巣を含めた全身へ大きな影響を与えます。

実際に、災害時はストレスや不衛生な環境が要因となり、膀胱炎などの感染症や皮膚炎、月経不順が急増するという調査結果(※1)があります。ほかにも腰痛や便秘といったたくさんのトラブルが起こりやすいのですが、どれもデリケートかつ「こんなことくらいで……」と思ってしまいやすい内容なので、遠慮して助けを求めない方がとても多いんです。

※1 出典:平成23年度厚生労働科学研究費補助金「地域における周産期医療システムの充実と医療資源の適正配置に関する研究」平成23年度研究成果報告書III-1 「激甚災害後に増加する産婦人科疾患とその対策ー東日本大震災よりの考察ー」(小笠原敏浩、2012年)

―吉田先生は東日本大震災の際、石巻に通い、産婦人科医として妊産婦や新生児の救護に携わったそうですね。被災地では、女性からお悩みの声を聞くこともありましたか?

吉田:当時はSNSがいまほど普及していなかったのと、皆さん我慢してしまっていて、そもそもSOSを出すこと自体があまり多くはありませんでした。

ただ、実際に見たり聞いたりしたなかでは、身体の症状だけでなく「支援物資のなかにヘアゴムが欲しかった」「替えの下着がなく、生理用品だけつけ替えて1週間同じ下着で過ごさないといけないのが辛い」という声がありました。命が助かる、助からないというところに比べたら些細なことに感じられるかもしれませんが、肌の不快感ってとても大きな問題だと思うんです。

―たしかに、些細なことかもしれませんが積み重なるとストレスになりそうです。そういった意味では、お肌や身体のケアは重要と言えるのでしょうか。

吉田:皮膚の状態は、気分や体調に直結しやすいので、普段も湿度が高いと肌がベタベタして、なんとなく不快になりますよね。ですので、スキンケア・ボディケアは身体を清潔に保つだけでなく、ストレスを減らすためにも欠かせないと思います。

そして、オーラルケアも同じく大切です。歯の隙間にものが詰まって気になる……という状況って誰しも経験したことがあると思いますが、小さなことでもストレスを感じますよね。それに、被災地では水不足や食生活の偏り、ストレスの積み重なりなどでむし歯、歯周病、口臭などが生じやすくなります。普段どおり毎日定期的に歯磨きをしたり、お口を動かしたりするオーラルケアは、被災下においてもとても重要です。

―女性の場合、被災したショックから不正出血してしまった、という話を耳にしたことがあります。特にフェムケアの観点から知っておくべきことはありますか?

吉田:まずは、誰もがそういった状況になりうるということを知っていただけたらと思います。そのうえで、なるべく肌がかぶれない、使い慣れたナプキンを用意しておくことが重要です。また、避難所では雑魚寝をする場合が多く、経血もれも心配になると思いますので、ショーツ型のナプキンもあるとさらに安心ですね。そして、万が一ナプキンがない場合やストックがなくなったときに備えて、簡易おむつ・簡易ナプキンのつくり方を予習しておくときっとどこかで役に立ちますよ。

簡易布ナプキンのつくり方(参考:防災ブック『東京防災』より『もしもマニュアル 衛生』)

被災下で困らないために。「本当に自分が必要なもの」を普段から意識する

―阿部さんはこれまで被災地を支援するなかで、どのようなことを意識してアイテムをセレクトしていましたか? 吉田先生がおっしゃっていたような、ストレス対策に関するお考えがあれば教えてください。

阿部:正直、始めたばかりの頃は何を送ったらお役に立てるのかもわからない状態でした。なので、まずはあいだに立ってくれているNPO団体の方へのヒアリングから始めたんですが、そこでハッとしたのは「急性期に必要とされる水や食料品は自治体に備えがあるケースも多く、足りないものは国からの物資支援も来るため、いま必要とされるものを見極めることが重要。送ることで、被災地での保管スペースやその仕分けにおける人員の確保も必要になることも考えたうえで送ってください」と言われたことです。

実際に、ある被災地の自治体のHPを見ると災害が発生した数日後には「支援物資のご提供はご遠慮させていただきます」と書いてありました。多くの救援物資が集まることの難しさもあると感じました。

それ以来、企業として提供できるものを送るのではなく、本当に必要とされるものを送ることを大事にしています。当社からは被災地の日常の生活で必要とされるものとして、ボディケア製品「ミノン」の洗浄料やオーラルケア製品「ブレスラボ」の歯みがき粉などをお届けしています。

―上吉川さんは、被災下でのストレスを減らすためにどんな提案ができそうと感じましたか?

上吉川:「小さなトラブルがQOL低下につながる」というのは本当にそのとおりですよね。当社では幅広いラインアップのお薬を取り揃えているので、ストレスにより体調を崩してしまった場合になど備えて胃腸薬やかぜ薬、しっしんやかぶれに塗り薬などもご提案できると思いました。防災対策には、お子さんから高齢の方まで、みなさんでお使いいただけるものがおすすめです。あとは、女性のトラブルでよくある便秘や下痢に対するお薬があると心強く感じていただけそうです。ぜひ、防災グッズのなかに忍ばせていただけたらありがたいです。

―自分にぴったりの防災グッズを用意しようと考えたとき、自分にとって何が必要なのか、アイテムの取捨選択に難しさを感じてしまいます。「これは入れておいたほうがいい」というものや、つくり方のコツがあれば教えてください。

上吉川:いまは防災グッズがたくさん販売されているので、それをベースにいる / いらないを判断することはできそうですね。吉田先生のおすすめの方法はありますか?

吉田:東京都では、3日間過ごすには何がどれだけ必要なのかをまとめたチェックリスト(※2)を公開していますので、参考になると思います。私個人としては、水や非常食、非常用トイレはもちろん、コンタクトレンズやスマートフォンの充電器、あとは万が一家族と離ればなれになってしまったときに心理的ストレスを軽減するため、プリントアウトした家族写真などをおすすめしています。

また、自分のお肌に合った生理用品や下着など、サニタリー系も忘れずに入れてほしいですし、自分の好きな香りのウエットティッシュや拭くタイプの歯磨きシートがあると、水が使えない状況でもお肌やお口がすっきりしますよ。仕事先など外出時でも被災する可能性がありますので、日ごろから防災ポーチを持つと良いと思います。

※2 参考:東京都女性防災人材育成テキスト(p.71より)

避難所で3日間過ごす場合の備え(参考:東京都女性防災人材育成テキスト

―何に不快を感じるかは人によって違うと思うのですが、普段から自分の快 / 不快に敏感でいることも備えのヒントになりそうです。

吉田:そうですね。たとえば汗をかきやすい方だと脇の下やデリケートゾーンが気になるかもしれませんし、ちゃんと歯を磨かないと寝られない方もいます。日常のなかで、自分が快適に過ごすためにここは譲れないというポイントを書き出して、把握しておくといいと思います。

災害への備えは、自分だけじゃなく大切な誰かを救うかもしれない

―本日のお話を受けて、第一三共ヘルスケアでは今後どのような防災支援を行ないたいと思いましたか?

阿部:吉田先生のお話を聞いて、女性特有の困りごとに寄り添えるアイテムを届けることにも意識を向けたいなと思いました。私は総務として、このオフィスにおける従業員用の災害備蓄品の準備なども担当しているのですが、現状、女性のための備蓄は生理用ナプキンくらいしかなくて。そういった社員向けの備えも何が必要かあらためて考え、拡充していきたいです。

上吉川:私は、被災地では「におい」が問題になりそうだと気づきました。自分はもちろんほかの人の体臭や、トイレなどの衛生環境の悪臭など、においによってストレスを感じやすいと思うんです。せめて自分自身のにおいをケアできるように、脇や口、デリケートゾーンなど、においやすい部分を清潔に保てるアイテムを備えることが安心に繋がりそうだということも、これから発信できればと思います。

阿部:水を使わずとも口内ケアができるマウスウォッシュや口内炎治療薬、かぜ薬、皮膚のお薬など、当社には頭のてっぺんからつま先まで使える製品がたくさんあるので、ぜひ備えのひとつとしてポーチに入れてもらえたら嬉しいです。

吉田:こんなに災害時に役に立つラインアップがあるなんて知りませんでした。災害後すぐに「第一三共ヘルスケアトラック」をつくって、全国の被災地を回っていただけたらすごく喜ばれると思います。

―最後に、先生から読者の方へメッセージがあればお願いします。

吉田:防災活動は時間もお金もかかりますし、面倒に感じる部分もあると思います。しかし、災害はいつ、どのタイミングで起こるかわかりませんし、誰もが被災する可能性があるんです。ぜひ普段から災害に対して備えて、それにより生まれる安心を感じていただきたいです。

そしてその安心感は自分一人のためではなく、誰かの助けにもなります。災害のときだけではなく平時の地域の絆や、人と人との信頼関係を深めてくれると思いますので、そうしたメリットの部分を理解して、今日から一つずつ、備えていただけるといいですね。

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