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2023年8月FRaU記事のメインビジュアル

産婦人科医・稲葉可奈子先生が語る。 PMSなど生理前のつらい症状 「ガマンする必要なんてなにもない」

August 1, 2023

  • 取材・文:及川夕子
  • 撮影:日下部真紀
  • イラスト:野瀬奈緒美
  • 編集:大森奈奈

更新日:2023年08月23日

生理のある女性の多くが経験している「PMS(月経前症候群)」。PMSとは、月経前3~10日の黄体期(排卵後から月経までの期間)のあいだ続く、心身の不調全般を指す言葉で、月経開始とともに軽快ないし消失するもの。その症状は、気分が落ち込む、怒りっぽくなるといった精神的なものから、腹痛、肩こり、ニキビなどからだにあらわれるものまで多種多様、個人差もあることが特徴です。なかにはイライラとした感情をコントロールできず、周囲の人にぶつけてしまって自己嫌悪に陥ったり、人間関係のトラブルに発展してしまう場合も。また、PMSは婦人科で気軽に相談していい疾患ですが、「これくらい……」と我慢している人も少なくありません。

働き方や生き方の選択肢が増えている今、PMSとどうつき合っていくかは、女性たちの切実な問題です。そこで今回は、産婦人科医の稲葉可奈子先生に“PMSに振り回されない生き方”についてお話を伺いました。私たちはPMSをガマンする必要はないし、もっと楽に生きていい。そんなポジティブマインドで、自分のからだと向き合ってみませんか。

記事の最後には、「健康美塾」ユーザーアンケートに寄せられたみなさんの“声”に稲葉先生がお答えするQ&Aコラムを掲載。ぜひチェックしてみてください。

少しでも不調があれば、気軽に婦人科で相談してほしい

―― 最近「PMS」という言葉をよく聞くようになりました。実際、PMSでの受診や相談は増えているのでしょうか。

10年前に比べると増えている印象はありますね。ただ、婦人科検診などで当院に来られる方に、私から生理に関する不調について聞くと「実は……」と話しはじめる方もとても多いです。症状はあるけれどPMSと自覚していないか、あるいは病院を受診するほどの症状ではないと感じている方も多いのでしょう。

しかし、日本医療政策機構の調査(※1)によるとPMS症状によって仕事のパフォーマンスが半分以下になる人は全体の45%、4分の3以下になる人は75%にものぼるという報告があるほど、PMSはQOL(生活の質)に影響することがわかっています。PMSは生理のある多くの女性が経験し、しかも繰り返し起こる症状です。だったら解決できた方がいいですよね。「こんなことで相談していいの?」と悩む必要はなく、治療で楽になれる疾患ですよと伝えたいですね。

―― PMSの症状は、頭痛、腹痛、関節痛など、普段のちょっとした不調と区別しにくいこともあって、PMSによるものなのかどうかわからないという声もよく聞きます。

いまはネットで簡単に情報を取れる時代ですし、患者さん自身で色々と調べてみることももちろん大切です。でもその前に知っておいてほしいなと思うのは、PMSに限らず、患者さんご本人が、病気かどうかや治療が必要かどうかを見極めないといけないわけではないということ。よくわからないときは、遠慮なく私たち医師に任せていい、ということですね。

医学的な定義では「PMSは生理前に心身に起こる不快な症状で、生理が始まるとすっと消えていくもの」という説明になりますが、症状は多岐にわたり、また同じ人でも月によって出たり出なかったり、いつも同じ症状が出るとも限りません。さらにPMSがあって、月経困難症(※2)もあるという方では、生理が始まっても楽にはならないのです。ですから、あまり細かいことにはこだわらなくて大丈夫。日常生活に支障がなければ相談していけない、ということはありません。医師としては、婦人科につながってくだされば、あとはなんとかなりますからという想いがありますね。

※1 参考:働く女性の健康増進調査 2018

※2 月経困難症 生理痛、吐き気、疲労、下痢などの生理の期間中に月経に伴って起こる病的な症状のこと。

<<PMSでよくみられる症状は?>>

身体症状
下腹部痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張り、関節痛、肩こり、冷え、便秘、のぼせ、めまい、ニキビ、食欲の変化など

精神症状
情緒不安定、イライラ、怒りっぽい、攻撃的になる、感情を制御できない、無気力、不安感、眠気、集中力の低下、疲労感、制欲の変化、憂うつ、自殺願望など

ゆらぎの原因は女性ホルモンの変動にあり

―― 普段は穏やかに過ごすことができているのに、生理前になると感情のコントロールがきかない。イライラして攻撃的になる、理由もなく涙が止まらなくなる、過食に走る、衝動買いをしてしまうなど、感情面で不安定になるつらさを訴える人も少なくありません。そもそもどうしてこのような“ゆらぎ”に悩まされるのでしょう。

PMSの原因ははっきりと解明されていない部分もありますが、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)という二つの女性ホルモンの周期的な変動により、さまざまな不快症状が起きてくると考えられています。

PMSは排卵後、生理が始まるまでの黄体期に起こりますが、この時期に分泌が増えるのがプロゲステロン。その作用は、主に排卵を合図に妊娠を維持しやすい状態に整えることです。よって黄体期には体温が上昇したり、栄養や水分をため込みやすくなるわけです。食欲が増える、むくみやすい、異常な眠気を感じるなどの症状も起こりやすくなりますし、プロゲステロンは腸のぜん動運動を低下させるので、便秘がちになる人もいます。

ちなみに妊娠が成立しなければ、黄体期の後半にエストロゲンとプロゲステロンの両方の分泌が急激に低下します。それにより、脳内ホルモン(神経伝達物質)の分泌や自律神経系などにも影響が出るともいわれています。一説には、感情面に影響する「セロトニン(※3)」という神経伝達物質の分泌が減少することで、気持ちの不安定さ、抑うつといった精神症状が起こりやすくなると考えられています。

グラフ参考:「女性ホルモンの周期的な“揺らぎ”を知り上手な付き合いを(くすりと健康の情報局)」

※3 セロトニン 心の安定や安心感、幸福感をもたらしたり、脳を活発に働かせる神経伝達物質であるため、減少するとやる気や集中力の低下、意欲低下、イライラ感、うつ状態、不眠といった症状がみられる。

PMSとPMDDの違いとは?

―― 精神症状が特に強く現れる場合には。PMDD(月経前不快気分障害)と呼ばれる疾患の可能性もあります。PMSとPMDDの違いはなんですか。

PMSのうち、特に精神症状が強く出るものをPMDDと言います。例えば、強い抑うつ感や絶望感、不安感などで、気分の悪化がひどくイライラが高ぶって子どもに手を上げてしまうケースや、希死念慮といって死にたくなってしまうほど追い込まれてしまうケースもあり注意が必要です。PMDD(※4)もPMS同様に生理が始まればおさまることが多いのですが、「どうしてあんなことをしてしまったのだろう」と後悔したり自分を責めてしまったりして、抑うつ症状がさらに続いてしまうこともあります。

※4 PMDD(月経前不快気分障害) PMSのうち特に精神状態に関する症状が著しく現れる状態。強い気分の落ち込み、意欲の低下、イライラや怒りっぽくなる、情緒不安定、集中力の低下、不安感や緊張感、睡眠障害、涙もろくなるなどの精神症状が日常生活に支障をきたすレベルで現れ、月経がくるとよくなる状態のこと。PMS症状を経験している人は生理のある女性の約70~80%、そのうち患者数は、PMS(中等症から重症度)が5.4%程度、PMDDは1.2%と、数としてはそう多くはありません。

参考:日本産婦人科学会HP「月経前症候群」より
出典:Takeda,Tasaka Arch Womens Health 2006

―― 生理の前に気分の浮き沈みが激しい場合、婦人科よりも、心療内科や精神科を受診すべきですか?

生理前の精神症状の大部分はPMSとして治療ができるものなので、まずは婦人科に相談してみてほしいです。なぜかというと、根本にはやはり女性ホルモンの変動の影響も可能性として考えられるからですね。心療内科や精神科で治療を受けた方がよいのかどうかについては、医師が判断しますので、安心して婦人科を頼ってください。

すでに心療内科などに通院されている場合、精神疾患だと思っていたら実はPMSだった、ということもあります。生理周期と関連がありそうなら、そのことを医師に相談してみてもいいでしょう。

くり返しになりますが、この場合症状の原因や病名を突き詰めるよりも、どうすればそのつらい症状をラクにできるかが大事。そして最初から自分にピッタリ合う治療法を見つけることを目指すのではなく、改善策を一つ試して、もし違ったら変える、というスタンスで、自身のからだとの対話に重きを置いてほしいですね。

低用量ピルや漢方薬……症状に合わせた多様な治療法

―― 気持ちが落ち込んでつらい……というだけでも、婦人科を受診してよいとわかるとすごく楽になれますね。ところで、ストレスがあるとPMSの症状が強くなるとか、真面目な人ではPMSの精神症状が強くなりやすいとも言われます。PMSの症状緩和のために、生活面での工夫など、自分でできることはありますか?

もちろん自分なりにリラックスする時間をもったり、PMSがつらい時には家族に家事や育児を代わってもらうなど、対処法は色々とあると思います。症状が軽く、無理のないセルフケアで十分に改善する場合は、ぜひ続けましょう。また、喫煙やストレスはPMS症状を悪化させると言われますから、そうしたことに気をつけて健康的な生活をすることも大切ですが、それらの健康法はPMSに限らずすべての人に当てはまることとも言えますね。

PMSに関する記事などで「真面目な人や神経質な人はストレスを受けやすくPMS症状が悪化しやすい」という解説をよくみかけますが、性格や環境を問題視するだけでは、実は解決にはなりません。もともとの性格にしろ、ホルモンの変動にしろ、自分では変えられないものです。

それよりも、「PMS症状が出るのは自分のせいではないし、自分でなんとかしなきゃいけないものでもない」。そうシンプルに考えてみましょう。PMSによるイライラや気分の落ち込みは疾患によるものであって、あなたの努力が足りないわけでもない。「適切な治療によって解決できる」ということに目を向けると、やるべきことが見えてくると思います。

<<PMSのセルフケアについて分かっていること>>

喫煙習慣に加え、アルコールやカフェイン、甘いものの取りすぎはPMS症状を悪化させてしまうことが分かっています。逆に勧められているのは、一日3食バランスよく食べ、軽い有酸素運動を取り入れ、よく眠ることといった規則正しい生活。また好きなことをしたり、趣味を楽しむなど、心身ともにリラックスできる時間を増やすこと。

―― PMSの治療法について、患者側の私たちが、知っておくといいことはありますか? 例えば低用量ピルによる治療が合わない場合、医師に対して「薬を変えてほしい」といいにくいといった悩みもあるようです。どう伝えたらいいかも含めてアドバイスをお願いします。

PMSの治療には色々な方法があり、困っている症状に合わせて、鎮痛剤、低用量ピル、漢方薬などが使われます。また精神症状に対しては抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬などの薬も使われます。受診の際、生理周期や症状の記録があればもちろん参考になりますが、記録がなくても診察は可能です。

さまざまな治療法の中でも低用量ピルは、最も即効性のある第一選択薬とされています。PMSは排卵が起こり女性ホルモンの大きな変動があることが原因なので、排卵を止めプロゲステロンの変動をなくすことで、体温上昇、眠気、だるさ、むくみ、集中力の欠如などの不快な症状が和らぎ、精神的にも安定します。低用量経口避妊薬(OC、低用量ピル)や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)は、少ないホルモン量で排卵を止めるお薬なので副作用も少ない薬です。

参考までに、低用量ピルの服用をやめれば排卵は再開します。妊活中は低用量ピルを中止することになるので、その場合には漢方薬などほかの薬でPMSに対処することになりますね。

低用量ピルを始めホルモンのお薬にはさまざまな薬や処方の仕方があり、どれがその人に合うかは試してみないとわからないこともあります。合わない場合には、ほかの薬剤にしたり、プロゲスチン製剤単独を処方することもあります。または漢方薬に切り替えたり、併用するという方法も。治療法は1つではないので、薬が合う/合わない、飲み方が自分に合わないなど、疑問や不安があったら、「他のお薬はありますか?」「マシにはなったけど、まだ気になる症状があります」などを医師に伝え、一緒に取り組んでいきましょう。

低用量ピルにしても、漢方や精神に作用する薬にしても、医師の指導や管理のもと服用していけば過度の心配は無用です。もし「自分に処方が合っていないかも」と、疑問に思うことがあれば、医師にきちんとお話しください。自らの疑問を話すのに、臆することはありません。医師とコミュニケーションが取りづらい場合は、かかりつけ医を替えてみてもよいと思います。あなたのからだはあなたのものです。ガマンする必要はないですよ。

<<知っておきたいPMSの主な治療法>>

1) 鎮痛薬  軽度な下腹部痛や乳房痛、頭痛など痛みに
2)低用量ピル プロゲステロンとエストロゲンを成分に含む薬。排卵を抑制し子宮内膜の増殖も抑える作用があり、女性ホルモンの急激な変動に伴う不快な症状もやわらげるほか、妊娠や月経をコントロールすることができる
3) プロゲスチン製剤 プロゲステロンの分泌量を安定させ、女性ホルモンのバランスを整える
4) 抗不安薬 精神的症状があるときに不安感を抑えて気分を安定させる
5)漢方薬  個人の症状や体質に合わせ処方される

“休まなくてもいいからだ”づくりのために休暇を使う

―― 最近では、健康経営に取り組む企業が増え、PMSでも生理休暇が取得できるという企業も出てきています。一方で、生理に関することで休むことに抵抗を持つ女性も多くいます。PMSで医療機関を受診することは「健康に生きる権利」の一つだと認識されていいと思うのですが、私たちの意識のもちようとしてどんなことが大切でしょうか。

これまで生理休暇の考え方は、「生理がつらかったら休みましょう」というものでした。でもこれからは「休まなくてもいいからだづくりのために休暇を使う」という発想に変わっていってほしいです。そしてつらい時間を少しでも減らしていけたら。

月経困難症にしろ、PMSにしろ「毎月のことだから休みにくい」と感じてガマンしている女性は多いと思います。でも、毎月くるものだからこそ、解放され楽になることが重要なんですよね。そもそも女性の体は、妊娠のためにダイナミックなホルモン変動が起き、生理周期も起こるのです。妊娠・出産回数の少ない現代女性が、しんどい思いをする必要はなく、コントロールしていいもの。そのためにも、婦人科を人生のパートナーのように利用してもらいたいなと思います。

イライラや意欲の低下や不快な症状を軽くすることができれば、その間、できることや、やりたいことが増えます。笑顔で過ごす時間も増えます。それは自分にとっても、家族や職場などの周りの人にとっても喜ばしいことであるはず。

医療機関を受診するための時間休が当たり前のように取れる社会になっていくよう願っています。そのためには、当事者だけでなく、組織全体が知ることも大切ですから、PMSのつらい症状は個人の努力で解決すべきものではありませんし、ホルモンのしわざでつらいと感じるのは甘えではなく、治療できるものなんだという認識を広めていきたいですね。

「健康美塾」ユーザーから寄せられた疑問を稲葉先生に伺いました!

「健康美塾」のユーザーにPMSについてのアンケートを実施。たくさんいただいたコメントの中から4つの“声”をピックアップして、稲葉先生の回答とともにご紹介します。

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